写真お手元のスマートフォンを見てみてください。縦の長さがおよそ14〜15センチあると思います。かつて中国では、大人の女性の足がそれよりも小さい時代がありました。理想とされたサイズは「三寸金蓮(さんすんきんれん)」と呼ばれ、大きさは約10センチ、タバコの箱や赤ちゃんの足と変わらない小ささです。
10世紀から20世紀初頭まで約1000年も続いたこの纏足という風習。なぜ、このような残酷な風習が定着したのでしょうか。その真相を、チャンネル登録者数14万人超えのYouTube「すずゆうチャンネル」を運営する大人気予備校講師・鈴木悠介先生に聞いてみました。
※本記事は『R18世界史』から一部抜粋、編集したものです。
◆母から娘へ受け継がれる「破壊と改造」
博物館などで可愛らしい刺繍が施された纏足靴を見たことがあるかもしれませんが、あのメルヘンチックな靴の中身は、親指以外の指を足の裏側に折り曲げ、甲の骨をへし折り、踵とつま先を無理やりくっつけた「変形した肉塊」でした。
纏足は、まだ骨が柔らかい3歳から5歳頃の少女に対して、主に母親の手によって行われました。それは、娘を良家に嫁がせたいがための、母の愛という名の拷問でもありました。ここで、纏足の正しい“作り方”を見ていきましょう。
<第一段階「試行」>
熱湯や薬草の湯で足を柔らかくし、親指以外の四本の指を足の裏側へグリッと折り曲げ、長い布でガチガチに縛り上げます。
<第二段階「骨折と腐敗」>
締め付けを強くして足の甲の骨をポキッと折ります。さらに血流を止めることで、折り曲げた指の肉を壊死させます。
肉を腐らせる理由は、健康な肉がついていては足を小さくできないので、肉を腐らせて削ぎ落とす必要があったからです。時には小指が腐って落ちることもありましたが、施術者にとっては「より小さくできるからラッキー」と捉えられていました。
こうして数年かけて少女の足を完全な三角形に変形させ、死ぬまで脱げない「自分の骨と肉で作ったハイヒール」を完成させるのです。
◆男たちが興奮した「三寸金蓮」の魔力
男性たちはこの変形した小さな足を崇め、大きさにより厳格にランク付けしました。約10センチを最高級の「金蓮」、約13センチを「銀蓮」、15センチ以上は不格好で嫁のもらい手がない「鉄蓮」と呼びました。
では、なぜ男性はより小さい足を欲したのか。彼らが纏足に求めたのは「性的な機能」です。
<視覚的・心理的な刺激>
纏足の女性は踵に重心をかけられず、つま先立ちでよちよちと歩く「蓮歩」を強いられます 。今にも倒れそうなその姿が、男たちの庇護欲を強烈に刺激しました。
<身体構造への幻想>
不安定な足でバランスを取るため、纏足の女性は太ももの内側や骨盤周り、膣周辺の筋肉が発達し、「夜の生活において名器になる」と信じられていました。
<サディスティックな征服欲>
足が痛くて踏ん張れないため、女性は夜の営みから逃げたり、抵抗して蹴ったりできず、完全な受け身になるしかなかったのです。
◆腐敗臭を愛でる倒錯
纏足には「絶対に素足を見せてはいけないし、見てはいけない」という鉄の掟がありました。可愛らしい靴と包帯に隠された中身は、骨が折れ、皮膚がただれたグロテスクな肉塊だからです。
纏足は洗うのが困難なため当然強烈な悪臭を放ちますが、一部の風流な文人たちはこれを「発酵したような香しい匂い」だと愛でました。中には、女性の小さな靴を酒盃代わりにして酒を回し飲みする行酒(こうしゅ)という猟奇的な遊びまで流行したほどです。
また、纏足の社会的な機能として「女性の移動の自由を奪う」という目的もありました。長距離を歩けず、走ることもできないため、妻が浮気したり家から逃げ出したりするのを防ぐ「生きた鎖」として機能したのです。さらに、「俺は働けない妻を養える」という男性の財力=ステータスのアピールでもありました。
貧しい農家の女性は畑仕事のために完全な纏足にはできませんでした。だからこそ、玉の輿を夢見る母親たちは娘の足を折るしかなかったのです。
中国最後の王朝である清(満州族)は幾度も纏足禁止令を出しましたが、漢民族の男性たちは「纏足こそ我々の文化だ」と反発し、20世紀初頭までこの奇習は続きました。
1000年もの間、足の指をへし折り腐らせることを「美しい」と信じ込んだ社会。しかし、これを単なる「昔の野蛮な風習」と笑い飛ばせるでしょうか。
美脚に見せるために足を痛めてもハイヒールを履き、小顔のために骨を削り、痩せるために脂肪を吸引する。他人の欲望や社会の美の基準に合わせて自分の体を痛めつけ改造している点では、現代の私たちも本質的に同じことをしているのかもしれません。
纏足の歴史は、美しさという基準が誰かの呪いになっていないか、私たちに重い問いを投げかけているのです。
【鈴木悠介】
早稲田大学在学中より塾で世界史を教えはじめ、卒業後に予備校講師となる。複数の有名予備校への出講を経て、現在は全国配信の映像授業に出演する傍ら、数多くの受験参考書を世に送り出している。さらにYouTuberとしての顔も持ち、大人のための歴史コンテンツを配信する「すずゆうチャンネル」と、受験生に向けた「すずゆう世界史塾」を運営中。主な著作に『イチから鍛える世界史』(Gakken)/『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』(監修,日本文芸社)ほか多数