限定公開( 12 )

麻辣湯の人気が過熱している。
先行するチェーン店の「七宝麻辣湯(チーパオマーラータン)」や「楊國福麻辣湯(ヤングオフーマーラータン)」が順調に店舗を増やす一方、新興の大分発祥「福恩麻辣湯(フーエンマーラータン)」や、韓国から進出した「ラホンバンマーラータン」も猛追。中国発の「張亮麻辣湯(チョウリョウマーラータン)」はショッピングセンターのフードコートに出店し、新たな顧客を獲得している。
麻辣湯は、1人1鍋スタイルの中華版ファストフードともいえる業態だ。火鍋を1人でも手軽に楽しめるようにしたものと考えると分かりやすい。
注文の仕組みはほぼ共通している。棚に並ぶ野菜、キノコ、肉、海鮮、練り物、麺などから好みの具材を選んでボウルに入れ、重量に応じて料金が決まる。その後、スープの種類を選んで会計する。スープは辛さを選べる店も多い。
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会計後は番号札を受け取り、調理が終わるのを待つ。タレを自由に組み合わせられるバーを設け、自分好みに味変できる店もある。
具材の種類が多いため、あれこれボウルに入れていると、会計がすぐに2000円を超えることもある。一方で、1000円以上の注文なら麺80グラムが無料になるなど、サービスを設けるチェーンも多い。
麺は春雨が主流だが、その種類も豊富だ。細麺や太麺に加え、ジャガイモ、サツマイモ、両者を混ぜたものなど、素材にも違いがある。米麺や小麦の生麺、乾麺がある店もあり、麺だけでも自由に選ぶ楽しさがある。
このように、自分自身でカスタマイズできるのが麻辣湯の魅力だが、なぜこれほどまでに支持されているのか。ブームの現状を探った。
●広がる麻辣湯人気、全国で出店ラッシュ
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麻辣湯専門店は、どれほどあるのだろうか。
最大手の七宝麻辣湯は全国に75店舗(2026年8月現在)。ラホンバンマーラータンは19店舗(同9月現在)、福恩麻辣湯は約35店舗(同9月現在)、楊國福麻辣湯は26店舗(同6月現在)、張亮麻辣湯は10店舗(同6月現在)と続く。
特に2026年に入り、麻辣湯ブームの本格化を感じさせる動きが目立ち、実績のある外食大手も相次いで市場に参入している。
「丸亀製麺」を運営するトリドールホールディングスは、東京・吉祥寺に出店していた香港発の雲南スパイシーライスヌードル専門店「譚仔三哥(タムジャイサムゴー)」を麻辣湯専門店にリニューアルし、「譚仔麻辣湯」に改名した。
格安ステーキ「やっぱりステーキ」を運営するディーズプランニングは新会社を立ち上げ、豪州発の麻辣湯専門店「ドラゴンホットポット」の展開を開始。「磯丸水産」などを展開するクリエイト・レストランツ・ホールディングスも、「菜菜麻辣湯(サイサイマーラータン)」の出店を進めている。
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こうした店舗展開は、大手だけにとどまらない。全国の政令指定都市や県庁所在地クラスの都市では、毎週のように新たな麻辣湯専門店が誕生している。中でも目立つのが、中国系の経営者が日本人客を意識して出店するケースだ。
もともと在日中国人を主な顧客としてきた「ガチ中華」が、麻辣湯をきっかけに日本人にも広く受け入れられ始めているとも言える。日本人が経営する店も含め、個人店や数店舗規模のローカルチェーンも次々と生まれているのである。
●風変わりな麻辣湯も
2026年2月26日、風変わりな麻辣湯専門店が東京・吉祥寺の繁華街に誕生した。カップ麺「中華房 麻辣湯」をリアル店舗にした「iSDG麻辣湯 中華房」だ。その後、都内の大塚と下北沢にも出店している。8月1日にはスープをはじめとするメニューを拡充し、3店舗を一斉にリニューアルオープンした。
中華房 麻辣湯は、グルテンフリーのさつまいも麺を使ったカップ春雨麺で、2024年9月に発売し、爆発的なヒットとなった。2026年8月時点で、累計約2000万個を出荷している。
カップラーメンやカップ焼きそばなどを手がけるメーカーが街中に常設の飲食店を出すのは、冒険ともいえる試みだ。
運営する医食同源ドットコムは2011年創業で、サプリメントを中心に販売してきた。医食同源や健康をテーマに、「しいたけスナック」などを開発している。
カップ麺「中華房 麻辣湯」は中国人スタッフが中心となって開発に携わり、味や具材を選定した。発売当初は低空飛行だったが、試験的に導入したスーパーで、カップ麺としては異例の販売実績を記録。これをきっかけに一気に販売ルートが拡大した。コロナ禍を経て健康への意識が高まっていたこともヒットを後押しし、現在はスーパー、コンビニ、ドラッグストアなどで広く販売されている。
リアル店舗のiSDG麻辣湯 中華房も、同じく中国人スタッフが中心となって開発した。
具材は40種類以上。カップ麺でも評判の湯葉や葉物野菜、魚卵入りの練り物はもちろん、タピオカのような食感の餅や、アワビタケというキノコなど珍しい食材もそろえる。また、イイダコ、アワビ、カキなど、海鮮が充実しているのも差別化のポイントだ。
リニューアル前はスープが1種類だったが、新たにカップ麺にもあるトマト味を加えた。味変用の調味料も充実しており、辛さを和らげたい人向けにマヨネーズやケチャップなどを用意。一方、辛い味が好きな人向けには、特製ラー油や花椒オイルなどもそろえている。
内装もリニューアルし、壁にパンダの絵を描くなど、中国らしさを前面に打ち出している。
●麻辣湯専門店がひしめく吉祥寺
iSDG麻辣湯 中華房のある吉祥寺は、麻辣湯の激戦区だ。JR中央線と京王井の頭線が乗り入れ、周辺には成蹊大学や東京女子大学など、複数の大学がある。学生やZ世代の女性でにぎわっており、麻辣湯の主要なターゲットが多い街である。
数えてみると、吉祥寺には少なくとも7つの麻辣湯専門店がある。iSDG麻辣湯 中華房のほか、七宝麻辣湯、楊國福麻辣湯といった大手チェーンや、譚仔麻辣湯が出店。さらに、ラホンバンマーラータンや、ミシュラン二つ星レストラン監修の「ココカラ麻辣湯」、2026年6月に開業した「シャンシャン家麻辣湯」も店舗を構える。
吉祥寺では、この数年で麻辣湯ブームが一気に加速していることが分かる。こうした吉祥寺の麻辣湯ブームは、今後、全国の繁華街にも波及していくかもしれない。
●本場・重慶の味で勝負する店も
人口3000万人を超え、世界最大級の都市とも言われる中国・重慶市発祥の「毎味毎客(マイアジマイキャク)」が、2026年7月に池袋のヨドバシカメラのレストラン街に日本1号店を出店したのも大きな動きだ。
毎味毎客は2012年に重慶市で創業後、急速に店舗数を伸ばし、現在は世界で400店舗以上を展開している。中国本土の多くの都市に加え、タイや米国にも店舗を構える。
重慶市は隣接する四川省と並び、麻辣料理の本場として知られる。毎味毎客の特徴は、中国から直輸入した6種類のスープだ。具材の味を引き立てる重慶麻辣湯をはじめ、コクのある牛骨スープ、濃厚トマトスープなどから選べる。中でも特徴的なのが、熱した香味油を使ってうまみと辛さを引き立てる「ヨウポウマーラータン」だ。毎味毎客が開発し、ヒット商品となった。
ショーケースには90種類以上の具材が並ぶ。野菜やキノコはもちろん、日本ではあまり見かけない中国食材もあり、選ぶ楽しさがある。たれバーには、ニンニク、大葉、ねぎ、ピーナツ、ごまだれ、ラー油、黒酢の7種類を用意。組み合わせ次第で、自分好みの味にアレンジできる。
毎味毎客は重慶市の無形文化遺産に認定され、中国飲食イノベーション賞なども受賞している名店の一つだ。そんな有名店も、日本市場に積極的に展開を始めているのである。
●麻辣湯ブーム、実は韓国から来た?
ただ、実は現在の麻辣湯ブームは、韓国から来たという説がある。
七宝麻辣湯の創業者で、カシュ・カシュ代表取締役の石神秀幸氏が各種インタビューで語っている説だ。韓国では数年前から麻辣湯が流行しており、韓国好きの日本のZ世代の女性が現地で麻辣湯を体験。帰国後、日本にも七宝麻辣湯のような専門店があることに気付き、ブームとなったという。
今でこそ最大手の七宝麻辣湯だが、東京・渋谷に1号店を出店したのは2007年1月で、20年近く前のことだ。当初はなかなか客足が伸びなかったという。日本ではなじみのない業態だったため、分かりやすく「スープ春雨の店」として打ち出したが、特に男性からは「春雨ではお腹いっぱいにならないのではないか」と敬遠された。
その後、赤坂に2号店を出店。工場で作った濃縮スープを店舗で薄めて使う方式から、店舗でスープを炊く方式に変えたところ、集客が大きく改善し、軌道に乗ったという。創業から5年ほどでヒットしたものの、その後も店舗数は大きく伸びず、コロナ禍前まではわずか5店舗ほどだった。
転機となったのが、外食大手のダイニングイノベーションとの提携だ。「焼肉ライク」や「やきとり家すみれ」などをチェーン展開する同社が2021年からフランチャイズ展開に乗り出し、店舗数は急速に増えた。
「いずれ日本でも流行ると思っていた」と石神氏は話す。その間も商品改良を続け、大小合わせて1000回以上の改良を重ねてきたという。
七宝麻辣湯の具材は40種類以上で、ホウレンソウやチンゲンサイなどの葉物野菜、白キクラゲなどの中華食材に加え、モッツァレラチーズといった変わり種も人気だという。薬膳スープは0番から5番まで辛さを選べ、追加料金を払えばさらに辛さを増すこともできる。また、150円追加すると、トムヤムスープや担々スープなどを選べることが喜ばれているという。
●出店ラッシュの先に待つものは?
今でこそ、ブームの影響で麻辣湯専門店が激増しているが、もともとは在日中国人を主な顧客とする、いわゆる「ガチ中華」の一つだった。
楊國福麻辣湯の日本1号店が東京・池袋にオープンしたのは2018年。張亮麻辣湯はそれより早い2016年に進出した。いずれもコロナ禍前までは、七宝麻辣湯と立地で競合することはほとんどなかった。しかし現在は出店エリアが広がり、特に楊國福麻辣湯は同一商圏で競うライバルとして存在感を高めている。
楊國福麻辣湯のスープは、牛骨スープ、激香赤ラー油などがある。具材は70種類以上をそろえ、辛さは4段階から選べる。ファストフードの手軽さがありながら、品質にもこだわっていることが差別化のポイントだ。一方、張亮麻辣湯は横浜中華街やイオンモールなどにも出店し、七宝麻辣湯とは異なる立地を開拓することで差別化を図っている。
今回は日本の麻辣湯ブームを牽引(けんいん)する新旧のチェーンを紹介してきたが、勢力を伸ばしているのはこれらだけではない。
九州を中心に店舗を増やしている大分発祥の福恩麻辣湯は、学習塾や焼肉店などを展開する企業が手がける。鶏白湯スープを特徴とし、フランチャイズによって急速に店舗数を伸ばしている。韓国発のラホンバンマーラータンは、トッポギなどの韓国食材を麻辣湯に取り入れ、大阪を中心とする関西圏で存在感を高めている。
混戦模様の麻辣湯市場。チェーン店だけでなく、中国出身者が日本人客を意識して開く店や、日本人が経営する個人店も増えている。この勢いを見る限り、しばらくは麻辣湯専門店の出店ラッシュが続きそうだ。
ただし、店舗が増え続けるとは限らない。かつてタピオカ専門店が急増した後その多くが淘汰(とうた)されたように、麻辣湯市場も今後、一部の専門店に集約される可能性があるだろう。
(長浜淳之介)
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