なぜANAは批判を受けても「300万円」を譲らなかったのか SFC改定が突きつける“真の優良顧客”の条件

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2026年10月12日 15:11  ITmedia ビジネスオンライン

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ANAはスーパーフライヤーズカード(SFC)の制度改定を見直すと発表した

 「ラウンジから締め出される」――。


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 4月に発表された全日本空輸(ANA)のスーパーフライヤーズカード(SFC)制度改定は、長年飛び続けてきた顧客に大きな衝撃を与えた。それから約半年後の9月29日、同社はSFCの制度改定を見直すと発表した。年間利用額300万円未満の会員について「ANAラウンジを一律利用不可」としていた方針を修正し、混雑状況に応じた柔軟な運用に変更する。


 この動きを、顧客からの反発を受けた単なる「改悪の撤回」や「妥協」と片付けてしまっては、経営の真の意図を読み違える。なぜなら、カード利用額で会員を区分する“300万円の壁”という骨格そのものは、どれだけ批判を受けても決して譲らなかったからだ。


 ANAは何を変更し、何を死守したのか。追加で示されたラウンジの利用実態や「家族会員」の扱いの裏側を読み解くと、そこには単なるコスト削減を超えた、LTV(顧客生涯価値)を最大化するための高度なマーケティング戦略が隠されている。


●「300万円の壁」は維持 ラウンジの一律制限を修正


 SFCは、プラチナやダイヤモンドなど所定の資格を得た人が申し込めるクレジットカードだ。これまでは、その後の搭乗実績を問わず、カードの保有を続けた人に対して、ラウンジや優先搭乗などのサービスを提供していた。


 新制度は2028年4月1日に始める。初回の判定期間は2026年12月16日から2027年12月15日。対象となるANAカード・ANA Payの年間決済額を基準に、原則300万円以上を「SFC PLUS」、300万円未満を「SFC LITE」とする。航空連合スターアライアンスの資格も、PLUSはゴールド、LITEはシルバーとなる。この基本設計は4月案と変わらない。なお、100万ANAライフタイムマイル到達者は、年間決済額にかかわらずPLUSとなる特例も維持した。


 変更の中心はLITEのラウンジ利用だ。国内線の「ANA LOUNGE」では、混雑予測の仕組みを用い、入室後にスムーズに着席できる状況なら当日利用を認める。混雑時には入室を断るものの、余裕があるときまで一律に制限することはしない。将来的には事前予約制も導入する。ただし、導入時期や具体的な運用条件は今回の発表では示さなかった。


 国際線では、羽田、成田、ホノルルでANAが運営する「ANA LOUNGE」を従来通り利用できるようにした。一方、他社との提携ラウンジは対象外としている。国内線の共用ラウンジと成田の「ANA ARRIVAL LOUNGE」も従来通り利用できるようにした。


 つまり、4月の発表で失われていたLITE会員のラウンジ利用機会は戻るが、航空連合のスターアライアンス・ゴールドの資格が戻るわけではない。ANAグループ運航便での優先搭乗や手荷物の優先受け取りなどは、4月案でも維持していた。今回、失われる予定だった全サービスを復活させたということではなく、年額300万円の基準も原案通りだ。


 ANAは、利用額の引き下げ、搭乗実績との併用、対象会員の範囲なども検証したが、混雑緩和と利用機会の確保を両立するため、300万円の基準が必要と判断したと説明している。基準そのものではなく、ラウンジの運用を柔軟にしたのである。


●「プレミアムメンバー以外のSFC会員」がラウンジ利用の約6割


 ANAによると、SFC会員数は2019年比で約1.5倍に増え、国内主要空港ではピーク時などの満席や入室待ちが常態化している。2025年度のANA国内線利用実績では、当該年度にダイヤモンド、プラチナ、ブロンズのプレミアムメンバーになっていないSFC会員の年間平均航空券購入額はプラチナ会員の12%、ブロンズ会員の19%だった。年間平均搭乗回数も、それぞれ15%、24%にとどまる。


 一方、主要空港の国内線ラウンジ利用では、プレミアムメンバー以外のSFC会員が約60%を占めるという。年間の国内線利用は比較的少ない層が、ラウンジという限られた設備の利用では大きな割合を占めているのである。


 もちろん、この数字から「飛行機に乗らない人がラウンジだけを使っている」と結論付けてはいけない。国内線の平均値だけでは、国際線やカード決済、過去の貢献は分からない。約6割という構成比も、1人当たりのラウンジ利用頻度が過大であることを示すものではない。会員は従来のルールに従って利用している。


 それでも、現在の搭乗頻度が低くても優待が続く仕組みと、限られたラウンジ設備との間で、調整が必要になっていることは理解できる。ANA自身、日常のカード利用が限定的となり「使うカード」より「持つカード」としての性格が強まっていると説明する。過去に獲得した資格を維持するだけでなく、現在の利用にも結び付けたい。その発想が今回の再設計の出発点なのだろう。


 なお、プレミアムメンバー以外のSFC会員と、将来のLITEは同義ではない。現在の搭乗実績が少なくても、決済条件を満たす会員はPLUSになる。この違いこそ、改定の重要なポイントである。つまり、ラウンジ利用などができる優遇制度を航空機利用の頻度によってプラチナ、ダイヤモンドになることで実現するルートと、買い物などカード利用によってSFC PLUSになって実現するルートの2ルートにするということが、今回の制度設計のポイントと言える。


 ANAにとって優良顧客とは、飛行機にたくさん乗る顧客(プラチナ、ダイヤモンド会員)に加えて、ANAカードなどをたくさん利用する顧客(SFC PLUS会員)でもあるということだ。これは、ANAが航空以外のサービスへ注力するということでもあろう。


●「ラウンジ利用6割」の真実 なぜ一律制限を撤回したのか?


 ANAの説明によるとラウンジの利用者数は、夕方などには、快適性を保てる座席数の目安を超え、一部では座席数そのものを上回るという。一方、プレミアムメンバー以外のSFC会員が利用していても余力のある時間帯は多い。ただし、これは複数空港の平均であり、個々の空港や特定日の混雑状況まで示すデータではない。


 このデータを踏まえると、今回の修正は、混雑している時間と、空いている時間を分けて考え直したものと推測できる。


 ラウンジの空席は、翌日に繰り越して使えるわけではない。空いているときに会員を受け入れても、他の利用者の快適性を損なわないなら、顧客との関係を維持する機会になる。逆に、混雑時に際限なく受け入れれば、上質な時間を提供するはずのラウンジ自体の価値が下がってしまう。優待を受ける資格を配ることと、実際に満足できる体験を提供することは、同じではない。


 重要なのは、利用者を減らすこと自体ではなく、快適に利用できる状態をつくることだ。「誰を入れるか」だけでなく「いつなら受け入れられるか」を管理する。4月案の一律制限に対して、今回の見直しは設備の活用と顧客体験の両立を図る、より合理的な運用と評価できる。


 もっとも、固定された時間帯の開放が決まったわけではない。ANAが示したのは混雑予測に基づく運用であり、利用者が事前にどこまで見通しを持てるかは、今後の制度の具体化において問われる。


●家族会員には「飛ぶ」より「使う」が効く


 制度の狙いがさらに鮮明になるのが、SFCの家族カードの扱いだ。筆者がANA広報に確認したところ、SFC家族会員の区分は、本会員のSFCに連動するとのことだ。本会員がLITEなら家族もLITE、PLUSなら家族もPLUSであり、300万円の判定には家族カードの利用分も合算されるという。


 例えば、100万マイル特例の対象外の本会員が、搭乗によってプラチナ資格を維持しても、決済条件を満たさなければSFCはLITEだ。本人は有効なプラチナ資格に基づく優待を受けられるが、別の資格を持たない家族会員のSFCはLITEのままである。


 一方、SFC取得後に搭乗を増やさなくても、年間300万円の決済条件を満たせば、本人も家族もPLUSとなり、スターアライアンス・ゴールド資格を持てるように設計している。つまり、SFC取得後は、追加の「マイル修行」をするより「カード修行」をするほうが、よりメリットが大きくなるように設計したともいえる。


 少なくとも家族が単独で旅行するときの資格という点では、プラチナ維持のために追加搭乗するより、日常の支払いを集約するほうが効果的になる場面を作った。これは、本人に同行してラウンジを使えるかという話とは別である。


 経営学的には、顧客を見る単位を、搭乗する個人から日常消費を共有する家族へ広げた設計と解釈できる。本人だけでなく家族にも還元することで、世帯全体の支払いをANAの提携カードにまとめる動機をつくる。家計の支出を新たに増やすのではなく、他のカードに分散していた支払いを集約することで、条件達成を目指せる世帯もあるだろう。


 飛行機に乗れる機会には限りがある。しかし日常の支払いなら、旅行のない月にも関係を続けられる。SFC取得後の継続的な優待について、搭乗以外にも貢献の道を設けることには合理性がある。ただし、既存会員には新たな条件が追加となる点は忘れてはならない。


●「飛ぶ客」より「使う家族」を優遇? “真のロイヤル顧客”の姿


 だからといって、飛ぶ意味がなくなったわけではない。搭乗によって得られるプレミアムポイントを年間15万ポイント以上獲得した会員に付与する、既存の「ダイヤモンドサービス+More」は、同じANAカードファミリーマイルに登録した家族1人に、翌年度のダイヤモンド資格を贈れる制度だ。一部対象外の特典はあるものの、家族にも一段上の待遇を提供する。


 重要なのは、+Moreが搭乗だけの制度ではないことだ。公表済みの2027年度の条件は、ANAグループ運航便で15万プレミアムポイント、所定のライフソリューションサービス7種類以上の利用、ANAカード・ANA Payで600万円の決済。その全てを満たす必要がある。


 決済によって家族への優待を広げ、さらに搭乗と日常利用の双方で大きく貢献する顧客には、より上位の家族向け特典を提供する。「飛ぶか、使うか」の二者択一ではなく、最上位では「飛ぶことも、使うことも」評価するのだ。


 家族への恩恵を比べると決済が有利になる局面をつくりながら、航空利用でも大きく貢献する顧客には、その先の優遇を用意する。ここには、優良顧客との関係を段階的に深める、一貫した考え方がある。


 しかも、今回維持される100万ANAライフタイムマイルの特例は、長年にわたる搭乗実績も評価し続ける仕組みだ。年間の搭乗、日常の決済、長期の利用実績。それぞれを異なる形で評価すると捉えれば、カード決済を重視する改定と、飛び続けた顧客への優遇は矛盾しない。


●アメックス刷新と重なる高付加価値化


 9月2日に刷新したANAとアメリカン・エキスプレスの提携カードも、同じ方向を示している。上位券種の年会費を引き上げる一方、2027年からの通常の利用ボーナスは、ゴールドが年間400万円以上で1万5000マイル、プレミアムが600万円以上で3万マイルとした。


 羽田第2ターミナルの「POWER LOUNGE PREMIUM」の利用や飲食特典も組み合わせる。なお、このラウンジは「ANA LOUNGE」とは別施設だ。単なるポイント還元ではなく、旅や日常での上質な体験を提供し、その価値を感じる顧客に継続利用を促す設計といえる。


 ここから、顧客との取引から長期的に得られる利益、すなわちLTVを重視する発想を読み取れる。年間決済額が、そのまま顧客の生涯利益を表すわけではない。しかし搭乗時だけでなく、日常の支払いでも選ばれる関係を築くことは、航空券収入に加え、提携カード・マイル事業の収益機会を広げる。


 ANAは、日常利用の拡大を設備投資や新たなサービスに還元する方針を示し、2027年度中には羽田空港国内線ラウンジの施設拡充も進める。対象者を絞るだけでなく、サービスを良くする原資を増やす。その循環まで含めて評価する必要がある。


 筆者には、これらの施策が、LCCと同じ土俵で安さを競うのではなく、快適性や特別な体験で差別化する戦略に見える。飛行機に乗る瞬間だけでなく、旅の前後や家族との時間まで価値を提供する。ラグジュアリーな航空ブランドを志向する方向には、経営学的な合理性がある。


 もちろん、今回のデータだけで300万円という基準が最適だと証明できるわけではない。従来の制度を信頼して利用してきた会員への説明も欠かせない。制度への信頼も、長期的な顧客関係を支える資産だからだ。選別だけを進め、混雑緩和やサービス改善が実現しなければ、単なる負担増と優待の縮小で終わる。


 問うべきなのは、特典を維持したか削ったかだけではない。過去の搭乗への感謝を残しつつ、これからも旅と日常の双方で選んでもらう関係をつくれるか。そして、顧客から得た継続的な支持を、それに見合う体験として返せるか。今回の見直しの真価は、そこにある。


●著者情報:長内厚(おさない・あつし)


1997年、京都大学経済学部経済学科卒業後、ソニー株式会社入社。ソニーにて10年間、商品企画業務に従事。商品戦略担当事業本部長付を経て京都大学大学院に業務留学。博士号取得後、神戸大学准教授を経て2011 年より早稲田大学准教授。2016年に現職。これまでハーバード大学客員研究員やハウス食品中央研究所顧問などを歴任。現在、台湾国立政治大学安倍晋三研究センター主任研究員、総務省情報通信審議会専門委員、フジテレビ「Live Newsα」レギュラーコメンテーターなどを務める。



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  • 富裕層と、単に利用回数の多いビジネスマンとを峻別したいのだろうね。仕事してた頃は毎週関西に行ってたのでラウンジ使えてたけど、今は無理。ただ、ラウンジって別に大したことないよ。
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