※画像はイメージです。生成AIを使用しています 街中で、見知らぬ人から突然言いがかりをつけられたら、誰でも冷静ではいられなくなるでしょう。
まして相手が複数人となれば、反論することで事態がさらに悪化する可能性もあります。
警察庁の「令和7年の犯罪情勢」によると、令和7年の暴行は3万1,137件(前年比6.5%増)、傷害は2万3,460件(同5.2%増)と、いずれも前年より増えました。
脅迫も、令和2年の3,778件から令和6年には4,502件へと増加しています。身近な場所での暴力やトラブルは、決して他人事ではありません。
今回エピソードを寄せてくれた水島さん(仮名・25歳)が街中で遭遇したのは、まさにそんな恐怖の瞬間でした。暴行、そして傷害事件が脳裏をよぎった一部始終を紹介します。
◆新居の下見に向かう朝
「結婚してまだ間もない頃で、妻と新居を見に行く予定だったんです」
そう振り返るのは、小学校教師として勤務する水島さん。赴任先で知り合った女性教師と最近、職場結婚を果たしました。
結婚を機に、勤務先にも近い場所に新築住宅を建てることになり、その日は妻と建築中の家を見に行く予定でした。
「朝ごはんを食べていなかったので、途中のコンビニで何か買ってから現場に行こうということになりました」
車をコンビニに止め、二人で店内へ向かおうとしたところ、水島さんは入口付近に10人ほどの若者が集まっていることに気づきました。
「いわゆるヤンキーという感じの人たちでした。入口のところにたむろしていて、正直、『邪魔だな』とは思いました」
できるだけ若者たちを避けながら入口へ向かった水島さん。
ところが、そのとき足元に置かれていたバッグに足が引っ掛かりました。
「蹴ったというより、避けようとして足が引っ掛かったんです。バッグが地面に置かれていたので、まさかそんなところにあるとは思わなくて」
ところが、バッグの持ち主と思われる小柄な男性が、すぐさま水島さんに詰め寄ってきたそうです。
「テメェ、人のカバン蹴りやがって! おい、どうしてくれんだよ!」
いきなりの怒声に、水島さんは驚きました。
しかも、周囲には同じ仲間とみられる若者が大勢います。
「内心では『そっちがこんなところに置いているからだろ』とは思いました。でも、妻も一緒でしたし、ここで揉めるのは絶対に避けようと思いました」
水島さんは、あえて反論しませんでした。
◆「謝れよ!」と囲まれて
しかし、水島さんが黙っていることを、若者たちは「無視された」と受け取ったようです。
「おい、無視すんなよ」
「謝れよ!」
「人の物を蹴っといて、その態度はなんだよ」
次々と荒々しい言葉が飛んできたといいます。
水島さんは妻のほうを気にしながら、ひたすら黙っていたそうです。
「本当なら、『そもそも入口にバッグを置いているほうが悪いんじゃないですか』と言いたかったですよ。でも、そんなことを言ったら余計に揉めると思いました」
妻も不安そうな表情を浮かべていたといいます。
「妻には絶対に怖い思いをさせたくなかった。だから、とにかく刺激しないようにしていました」
水島さんは、相手の言葉に言い返すこともなく、その場をやり過ごそうとしていました。
ところが、数分ほどすると、若者たちの様子に変化が現れます。
「さっきまで僕を睨みつけていた人たちが、急に後ろのほうを見て、ヒソヒソ話し始めたんです」
何が起きたのか分からず、水島さんも周囲を見回しました。
すると、集団の後方にいた一人の男性が、こちらへ近づいてきたそうです。その男性は、先ほどまで怒鳴っていた若者たちとは少し違った雰囲気だったといいます。
男性は水島さんの前まで来ると、意外な言葉を口にしました。
◆数分後にまさかの立場逆転
「水島さんですよね?」
「……はい?」
突然名前を呼ばれ、水島さんは戸惑いました。
すると男性は、深々と頭を下げました。
「4丁目の新築工事で、見習い大工をやっている大野です。すみません。こいつがこんなところにカバンを置いているから、迷惑をかけました」
水島さんは、一瞬何を言われているのか理解できなかったそうです。
「『えっ?』となりました。まさか、これから見に行く新築現場で働いている人だったとは思いませんでした」
実は、その男性は水島さんがこれから下見に向かう新居の建築現場に出入りしている大工見習いだったのです。
しかも、周囲にいた若者たちも同じ現場関係者だったとのこと。
「それを知った瞬間、さっきまでの空気が一気に変わりました」
先ほどまで水島さんを取り囲んでいた若者たちは、今度は一転して頭を下げ始めました。
「すんませんでした」
「悪かったっす」
水島さんは、ただ呆気に取られていたといいます。
「さっきまで『謝れよ!』と言われていた僕が、今度は向こうから謝られているんですから。何が起きたのか分からなくなりました」
◆一つ間違えれば集団暴行の被害にあっていたかも
その後、若者たちは水島さん夫婦の前から、まるで蜘蛛の子を散らすように離れていったそうです。
水島さんは、最後まで相手を責めることはしませんでした。
「大野さんには『大丈夫です。こちらもバッグに気づかなかったので』と伝えました。正直、もう早くこの場を離れたかったんです」
妻も、ようやく緊張が解けた様子だったといいます。
「妻からは、『怖かったね』と言われました。僕も同じ気持ちでした」
その後、二人は予定通り新居の建築現場へ向かいました。
「現場に着いてから、さっきの大野さんが普通に仕事をしているのを見て、なんだか不思議な感じがしました」
水島さんにとっては、新婚生活のスタートを前にした何気ない朝の出来事でした。
しかし、もしあのとき「おまえらが悪い」と言い返していたら、状況はどうなっていたか分かりません。
「今考えると、あそこで黙っていてよかったと思います。相手が誰なのかなんて、そのときは分からないですから」
見知らぬ人との小さな接触から始まったトラブルは、相手との関係が思わぬところでつながっていたことで、わずか数分のうちに収束したのでした。
ヒヤッとした瞬間を経験した水島さん。今回は、たまたま相手と面識があったので問題は回避できたようですが、一つ間違えれば集団暴行の被害を受けていたかもしれません。
複数人に取り囲まれる、威圧される、暴力を振るわれそうになるなど、身の危険を感じる状況では、無理に話し合いを続ける必要はありません。人目のある場所や店内など、安全な場所へ移動し、緊急性があれば110番通報することが賢明です。
新婚生活のスタートを目前にした水島さんにとって、この日の出来事は、思いがけず「相手を刺激しないことの大切さ」を実感する朝になったようです。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営