東京農工大の小池伸介教授(生態学)などの研究チームは27日までに、わなに掛かった生きたニホンジカを襲うツキノワグマの撮影に初めて成功したと発表した。クマが生きたシカを食べるのは珍しく、わな周辺に餌があるとクマが学習すれば、人と遭遇する恐れもある。論文は国際クマ協会の学術誌のオンライン版に掲載された。
わなは動物の通り道にワイヤを仕掛ける「くくりわな」という仕組みで、昨年5月18日の日中、栃木県日光市の山林内に設置された。翌19日午前3時すぎに成獣の雌のシカが掛かったが、わずか約40分後にクマが訪れて捕食。一連の様子は近くに取り付けた自動撮影カメラで記録された。
ツキノワグマの食べ物は、9割以上が木の実などの植物という。シカの死体や生まれたばかりの子ジカを食べることは知られているが、生きた成獣のシカを襲うことはほぼないとされていた。
小池教授は「このクマは最初からシカの首を押さえている。恐らく何度も食べているのではないか」と指摘。「クマが『ここには動けないシカがいる』と学習している可能性がある」と分析する。
くくりわなは耕作地や人家周辺にも仕掛けられることがあるといい、クマがわなの周辺を訪れるようになれば、仕掛けた人や周辺住民と遭遇する危険性も高まる。
小池教授は「シカの駆除は必要で、わなを仕掛ける限りクマの学習は避けられない」とした上で、「わなの位置を周知して一般の人を近づけないようにすることや、通信機能の付いたカメラを設置することで危険性を最小限に抑える必要がある」と述べた。
ツキノワグマ=1992年11月、広島市の安佐動物公園