2024年11月28日よりAmazon Originalドラマ「【推しの子】」がPrime Videoで世界独占配信され、日本のAmazonオリジナル作品で配信後30日間における歴代1位の国内視聴数を記録した。12月20日より、ドラマの続きとなる映画「【推しの子】-The Final Act-」も劇場公開中だ。
キャラクタービジュアルの発表時には批判的な声も一部寄せられたが、キャスティングを筆頭に本編は称賛の声が相次いだ。「【推しの子】」のドラマ&映画化のためにどのようなアプローチがされたのかを、東映のプロデューサーの井元隆佑氏と、宣伝プロデューサーの寺嶋将吾氏に、たっぷりとお話をお伺いした。なお、2人は共に2012年に東映に入社した「同期」でもある。
●まずは「ここまで来れてよかった」
――ドラマと映画を、年末から年明けに見た人も多いと思います。今の率直なお気持ちをお聞かせください。
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井元隆佑氏(以下、井元) 映画の興行収入はもう少し伸びてほしいというのは正直なところですが、まずはご好評の声もいただけたことが本当にうれしかったです。原作の権利を委ねていただいた時から、赤坂アカ先生と横槍メンゴ先生、そして視聴者の皆さんがどう思ってくださるのかを、いちばんに考えていましたから。
原作からして「実写化」への言及がある作品でありましたし、映画とドラマのラッシュを見てくださった赤坂先生から「信じて託すことができました」という言葉を頂けたことが、プロデューサー冥利に尽きます。つらいこともありましたが、本当にここまで来れてよかったと思いました。
寺嶋将吾氏(以下、寺嶋) まずはドラマ・映画とたくさんの方に観て頂けてとてもうれしいですね。井元が企画を立てた時からずっと一緒にやってきた中で、 本作だからこそ制作側の思いも含めて、この作品をどう伝えていくかをずっと考えていました。
宣伝ではいろいろな脚色もできますが、伝え方を少しでも間違えてしまうと制作している側の気持ちだけでなく、原作の先生方の気持ちを踏みにじってしまうことにもなってしまうのでそうならないようにとにかく丁寧にやってきました。
井元と同じく、先生方と見てくださったお客さんたちの反応を見て安心した、ここまで頑張ってきてよかったなっていう思いはありますね。
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●ドラマと映画で構成した理由は「原作の重要な部分を削りたくない」から
――製作委員会方式ではない東映100%出資かつ、Amazonとのタッグは、前代未聞の試みだったと思います。
井元 まだまだ現在も続いているプロジェクトです。Amazonさんと組めたことは東映の中長期ビジョンに含まれている海外展開にも合致しています。これから映画「【推しの子】-The Final Act-」は海外での公開も控えています。ドイツや台湾ではすでに上映スタートしていますし、更に50カ国以上で順次公開する予定です。海外での興行収入をあげていくためにどうすればいいかと、国際部を中心に、現地とのやりとりをしている最中ですね。
――ドラマと映画でのストーリーの構成も、チャレンジングなものだったと思います。
井元 ドラマと映画で構成した理由は選べなかったからですね。僕は本当に「【推しの子】」という作品が大好きで、プロデューサー失格かもしれませんが、「ストーリーでここを落としたくはない」ところばかりだったんですよ。「物語の重要な部分を削りたくない」からこそのこの座組であり、確かに挑戦ではありましたが、最大限にやらせていただいたと思います。
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――映画の2時間ほどの尺に、原作の魅力が収まるわけがないですものね。
井元 例えば「今からガチ恋始めます」の恋愛リアリティーショーのパートは、無理やりストーリーを組み込んで、駆け足で無理やり描くよりも、少なくともドラマの1話分以上は使いたかった。Prime Videoでの配信ドラマの尺は1話50分程度という中で、「他の回は短くても、あの回は少し長くてもいい」という風に多少自由に作れたので、作り手としてありがたかったです。
――地上波放送のドラマの続きとなる映画はたくさんありますが、配信ドラマからその完結編となる映画という展開、しかも12月5日より配信開始となったドラマ第7話&第8話から数えれば、映画まで2週間ほどしかスパンがないというのも異例ですよね。
井元 新しい試みなので、宣伝チームにはかなりの負担をかけたかなとは思います。映画の前に配信でドラマを見ていただく宣伝は、今のところほとんど例がありません。配信サービスが潮流に乗ってからまだそれほど時間は経ってない中で、模索しながら一緒にやってきたので、寺嶋たち宣伝チームには本当に申し訳なかったですね。
寺嶋 まさに新しいことに挑戦したなという感じです。当然のように今までは映画単体しか宣伝する経験がなかったので、配信ドラマがあって映画が公開する、この一連のビッグプロジェクトをどのように宣伝していけばいいのかは分からないことばかりでしたし、参考になるような前例もなかったので手探り状態でした。その中でAmazonさんや井元と一緒に力を合わせて世の中の流れに合わせながら、なんとかここまでやってきたっていう感じではありますね。
井元 今後、このような座組の際に、どういう風にやっていけば、もう少し良い導線が引けるかを、振り返りたいと考えています。今回は配信スタート後、すぐ映画公開というタイミングを狙ってたからこそ、ドラマの国内視聴者数が多くなったという要因もあると思います。
●いちばん避けたいのは「届かない」こと
―― キャラクタービジュアルの発表時の、 赤坂さんの「(原作は)漫画作品の実写化についても触れています。良い事ばかりを言っていません。批判的な事も言っています」「キャストの皆様にも制作陣の皆様にも『本当に大丈夫ですか?」と聞きたくなる気持ちでした」といったコメントもすごいなと思いました。いい意味で忖度は一切なく、ファンも厳しい目をしていたものの、だからこそ本編での評価がガラリと変わったところもあったと思います。
井元 僕らがいちばん避けたいのは「届かない」ことでした。制作の事情で、ライブシーンで何千人というエキストラさんに参加してもらうには、「【推しの子】の撮影をやります」と言わないと、なかなか来ていただけなかったので、実写化の情報解禁は早めに設定しました。
でも、撮影中だったこともあり、映像は出せないですし、ビジュアルだけで伝えられることってなんなんだろうと、いろいろと試行錯誤した結果でした。伝わることと伝わらないことは出てくるだろうなと思っていましたし、実際に批判的な声もいただきましたが、「たくさんの人に知ってもらえた」ことは大きかったと振り返ります。その後に映像を含め、さまざまな情報を伝えていけば分かっていただける、と考えていました。
―― 実写化への賛否両論は想定されてたということですね。「【推しの子】」の原作にもドラマにも「人気漫画の実写化で炎上は免れない。宿命だよ」といったセリフがありましたものね。
寺嶋 私自身も最初に井元から話を聞いた時に「マジで『【推しの子】』を実写化するの?」って思ったんです。なので、当然のように実写化に対して賛否があるだろうとは思ってました。
その一方で、撮影前の制作の打ち合わせや衣小合わせ、撮影現場まで同席させていただいて、キャストやスタッフの皆さんがどのように本作を作り上げてるのか、目で見て、肌で感じながら知ることができていました。そういうこともあって最初にどのような反応が生まれるのかというのは怖くもあったのですが、この後の宣伝展開の中で批判的な声を覆せるイメージは持っていましたし、実写化を納得してもらって、さらに魅力を感じて頂けるのではないかと思っていました。
井元 劇中のセリフもそうですが、これほど世界的な人気作ですから、厳しい声は一定数はある、どっちみち避けられないと覚悟していました。
●「音楽」も宣伝の要素だった
―― 実際に、特報や予告編が解禁されると徐々に好意的な反応が増えていった印象でしたし、劇中のアイドルグループ「B小町」のミュージックビデオや、ミュージックステーションの出演も話題になりました。
寺嶋 今回は「音楽」が宣伝の1つの大きな柱でもありました。原作でB小町がアイドルとして成長していく姿やYouTubeに挑戦する姿が描かれていますが、それを宣伝の中で実際に表現できたら面白いんじゃないか、B小町として実際の歌番組に出演できたら最高だよねと最初から井元と話していました。ただ、「やるなら本気でやらないと意味がない」と思って、それぞれのプロたちにも力を借りてひとつずつ丁寧に具体的に落とし込んでいきました。おかげさまでひとつひとつが盛り上がって、それがつながって本当にミュージックステーション「SUPER LIVE 2024」に出演できました。まさにこれは本作だからこそできたことだったのではないかと思います。
―― 「【推しの子】」の劇中でも、アイドルグループをバズらせるための試みがあったので、現実とリンクしているようにも感じますね。そして、Prime Videoのドラマ本編のクオリティーに納得された方が、劇場に足を運ぶ導線はできていたとは思います。
寺嶋 クオリティーの高い本編映像が出来上がっていたので、それを丁寧かつ誠実に届ければ、ネガティブな声を覆したり、納得してもらえることができて実写化ならではの魅力が伝えられると確信していたので本当にたくさんのプロモーション映像を作りました。たくさんの映像を作るのは本当に大変でしたが、映像を出すたびにポジティブな反応を頂けたのでやりがいがありましたね。
●二宮和也と共有したカミキヒカル役のハードル
――本編で実際に俳優たちに髪を染めてもらった工夫がありましたね。
井元 皆さんが髪を染めてくれたのは本当にありがたかったです。自然光が当たった時の雰囲気を、スミス監督と相談しながら大切にしました。髪を実際に染めていただいたからこそ、現実にいそうなキャラクターの髪色を突き詰めることができたんです。
――カミキヒカル役の二宮和也さんも金髪に染めて、黒髪に戻したという投稿をされていたりして、 あれも「伏線」だったんだと話題になっていましたね。
井元 そうですね。都内の美容院にも付き添ったのですが、情報解禁はまだまだ先だったので、漏えいしてしまわないかドキドキしていたんですよ。
――二宮さんの解禁のタイミングは宣伝の最終盤、ドラマの7話&8話が配信された時でしたよね。
寺嶋 だからこそ、ほぼ1年に渡って情報が漏れないようにしなければならなかったんです。撮影現場でも二宮さんの名前は出さないようにしていましたし、撮影後から解禁までの情報管理も徹底的にやっていました。東映社内でも、知らない人が多かったはずです。
井元 二宮さんのご出演は本当に大きかったです。最後まで妥協せずに皆でやってきて、最後の最後に加わったものづくりの仲間だったので。「ようやくこれで完成まで行けそうだな」と思いました。二宮さんは最初にお会いした時に、カミキヒカルという役のハードルに対して、共通認識がすでにありました。「分かっていただいてる」と安心しながら、一緒に走ることができました。
寺嶋 二宮さんのお名前を聞いた瞬間からそれを宣伝としてどう活かしていくことができるかをすごく考えました。解禁するタイミングややり方によっては、作品が持つイメージが一変してしまう、間違えると全てがぐちゃぐちゃになってしまうのではないかという危機感もありました。いつ、どのように解禁するのがベストなんだろうと考え続け、結果的に理想的な解禁ができたと思いますし、宣伝全体の中での終盤の大きな勢いをつけることができました
――実際に映画本編での二宮さんのカミキヒカルのサイコパス性、それ以外の複雑な印象をも持たせた演技は素晴らしかったです。
●「実写では勝ち目がなさそう」と思ったシーンを削ったことも
――出来上がった実写ドラマと映画を観た人からのうれしい声、また手厳しくも納得できた意見などがあれば、ぜひお聞かせください。
寺嶋 作品をおもしろがって頂いている感想はもちろんのこと、「スタッフがリスペクトと愛情を持って制作している」というような声を聞いたときはうれしかったですね。一方で、やはり作り手がこう思っていたとしても、受け手にはそうは思ってもらえない部分もあるんだなと感じたこともあります。どうしたら制作者たちの思いを伝えられるか、どのように正しく伝えていくかは、これからも考えていかなければならないですね。
井元 楽しんでいただけてる反応が届いてくることがシンプルに嬉しかったですね。
また、批判的というより「このシーンが実写ではなかったのが残念」という意見に、「その気持ち分かるよ!」と感じることも多々ありました(笑)。原作やアニメで印象的なシーンを、そのまま実写でやるのは難しいと判断して、泣く泣く削ったところもあります。そんなこともあって、劇中に「双子が『我はアマテラスの化身」とか言い出すシーン、結構好きだったんだけどな」というメタフィクション的なセリフを入れたりしています。
―― 他にも、その場面では「乳児が急に踊り出すなんてもっての外だ」「CG使っても難しそう」といったように、「ここはこの事情で実写化をやめたんだな」とメタ的に納得できるセリフがありましたね。
井元 赤坂先生に脚本のチェックをしてもらっている際に、そういう「メタ的な表現をぜひやりましょう」と面白がってくださって、脚本の北川亜矢子さんと相談した上で、あのような表現になりました。皆さんの感想を読むとそこを笑って楽しんでいただいている方も多くてうれしかったです。
●宣伝においても「余計な脚色をしない」ことを大切にした
――映画公開後に赤坂アカさんと横槍メンゴさんのコメントが公開され、WEBサイト「Behind The Scene」でスタッフのインタビューが掲載されるなど、送り手側の言葉を届けようとしていたことは伝わりました。
寺嶋 そうですね。最初に言ったように、本作に関わっている方々の思いを丁寧に伝えたいと思ったんです。そして、本作にとってやはり先生方が最終的にどのように思って頂けたのかがとても大切なことだと思っていました。あとは「余計な脚色をしない」ということも大切にしてましたね。
――本編でも、改変をしたとしても、それは原作ファンの期待を大きく裏切るものではなく、必然性のあるものだと強く思えましたが、宣伝においてもそうした思いがあったのですね。
寺嶋 宣伝において、大げさに言ったり、脚色をしすぎたりすると伝えたいことがきちんと伝わらなくなってしまったり、正しく伝わらなくなってしまうことがあるんですよね。とくに本作はより批判されやすい状況でもあるし、その小さなミスが作品全体のイメージダウンつながってしまうので今まで以上に宣伝の中で使う言葉や伝え方には細心の注意を払うようにしていました。
また、宣伝の中で原作リスペクトや愛情を伝えることが「押し付け」にならないようにと意識はしていました。「Behind The Scene」のページはただ公開している、という提示の仕方にしていました。
――確かにそうですよね。受け手にとっての作り手の声は、作品そのものからは切り離しているか、そもそも考えない方も多いと思います。
寺嶋 そうですよね。でも、実写化に興味を持ってくださった方が、「Behind The Scene」のサイトに訪れて、「こういう思いで作ってるんだ」と知って頂くことは大事だとも考えていますし、作品としてとても重要だと思っています。
●原作を最大限リスペクトした実写化を目指した
――実写化そのものに懐疑的だったり、「なんで実写化するんだよ」という意見もある中で、【推しの子】は「実写化の意義」がすごくあったと思います。もちろん横槍メンゴさんの原作の絵はとてもかわいいですし、アニメの表現も素晴らしいのですが、実写では「生身」のアイドルの仕事、ドラマの現場そのものを見られるわけですから。ピンポイントで言えば、劇中ドラマの「今日は甘口で」の鳴嶋メルト役の簡秀吉さんの見事な「棒読み演技」は、実写でこそ伝わるものだと思いました。
井元 実写で芸能界の話を描くので、リアルに近いドキュメンタリーを描く感覚は、少し意識しました。例えばキャスティングにおいては、子役時代から活躍されている原菜乃華さんや、影を感じさせる斎藤飛鳥さんたちの他、全出演者にそれぞれの素養やバックボーンを意識していました。視聴者の皆さんが読み取っていただけている方が多く、それも好意的な評価につながった理由だと感じています。
――実写化そのもののセンシティブな問題が現実で語られる中、宣伝においても真摯に向き合っていただけたことに、ファンとしてもうれしく思いました。ここまで「実写化」そのものにメタ的な批評性を持つ【推しの子】の実写ドラマと映画がここまでのクオリティーに仕上がったのですから、いよいよ十把ひとからげに「実写化はダメ」と断言するような風潮は、本作をきっかけにさらに変わっていくのではないかと思います。
井元 ありがとうございます。原作へのリスペクトがブレることはなかったので、ここまで来ることができたと思います。これから海外の皆さんにも伝わるよう頑張ります。そして、見てくださった方に、いま一度感謝いたします。
現在、Prime Videoでは【推しの子】の全8話のドラマが独占配信中、映画もまだまだ劇場公開中だ。プロデューサー2人の思いがどのように表れているかも、本編から感じてみてほしい。
(取材・構成:ヒナタカ)
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