
トランプ政権が2025年1月に発足して2カ月、中東情勢が新たなリスクを抱えている。トランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相は蜜月関係にあり、イスラエルがハマスやヒズボラといった敵対勢力への攻勢を再び強めることが懸念される。トランプ氏は中東和平を掲げ、自らノーベル平和賞を狙う野心を隠さないが、イスラエルの自衛という理由においては軍事行動を容認する姿勢にあると考えられ、中東の紛争が再びヒートアップするリスクは排除できないだろう。このような状況では、日本企業にどのような影響が及ぶことが考えられるのか。
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トランプとネタニヤフの蜜月関係は、第1次トランプ政権時代から際立っていた。2018年の在イスラエル米国大使館のエルサレム移転や、2020年の「アブラハム合意」など、トランプ氏はイスラエル寄りの政策を推し進めてきた。第2次政権でもこの傾向は続いている。ネタニヤフ氏は、ガザやレバノンでの戦闘を停止したが、相手の対応次第では戦闘再開も視野に入れており、トランプ氏がこういったネタニヤフ氏の姿勢を支持すれば、今後イランやその支援勢力との対立や衝突が再びエスカレートすることだろう。既に3月時点で、イスラエル軍はガザへの攻撃を再び実施しており、報復の連鎖が中東全体に広がる兆候が見られる。
トランプ氏の思惑は複雑だ。中東での紛争解決を自らの功績とし、国際的評価を得たい一方で、イスラエルの強硬姿勢を支持することで、米国内の保守層やユダヤ系ロビーの支持を固めたい狙いがある。しかし、このバランス感覚が崩れれば、中東は一気に不安定化する恐れがあり、最も懸念されるのはイスラエル、米国VSイランの軍事的対立だろう。
日本企業にとって、この中東リスクは無視できない。特にエネルギー依存が大きい日本にとって、原油価格の上昇は深刻な打撃だ。2024年のデータでは、日本の中東からの原油輸入は全体の約9割を占め、サウジアラビアとUAEが主要供給国だ。もし紛争が拡大し、ホルムズ海峡が封鎖されれば、原油価格は1バレル150ドルを超える可能性もあり、日本企業の製造コストが跳ね上がる。例えば、化学や鉄鋼業界では、エネルギー価格が製品価格に直結するため、収益悪化が避けられない。
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また、中東での事業展開にも影を落とす。日本企業はUAEやカタールでインフラやエネルギー関連のプロジェクトを多数手掛けており、例えば三菱重工業やJGCは現地で大規模契約を結んでいる。紛争が拡大すれば、これらのプロジェクトが中断や撤退を余儀なくされ、数千億円規模の損失が発生するリスクがある。さらに、日本人駐在員の安全確保や撤退コストも課題となり、企業経営に重い負担となるだろう。
金融市場への波及も見逃せない。中東情勢の悪化は、円安圧力を強め、輸入物価の上昇を招く。2025年3月の為替市場では、既に1ドル=155円台に達する兆候があり、トランプ関税と相まって日本企業の収益を圧迫する。特に、中東に販売網を持つ自動車産業や電機産業は、現地での需要減とコスト増のダブルパンチを受ける可能性が高い。トヨタやソニーが中東市場での売上減少に見舞われれば、株価下落も避けられない。
こういった状況に、日本企業はどう対処すべきか。今年に入って中東と関係を有する複数の企業と会合を持った際、筆者は以下のように提言した。まず、短期的には限界があろうが、エネルギー調達の多角化が重要であり、北米からの輸入拡大や再生可能エネルギーへの投資加速などが求められる。また、リスクヘッジとして、中東以外の新興市場へのシフトが有効であり、アフリカや東南アジアでの事業拡大は、中東依存を減らす策となる。さらに、危機管理体制の強化も不可欠であり、現地スタッフの安全確保や事業継続計画(BCP)の見直し・強化が、紛争リスクへの備えとなるだろう。トランプ政権下でのイスラエル攻勢は、中東の不安定化を通じて日本企業にエネルギーコスト上昇、事業中断、金融リスクをもたらす。トランプ氏の和平野心とイスラエル支援の間で揺れる政策が、どのような結末を迎えるのか。日本企業は不確実性の中で、柔軟かつ先を見据えた戦略が求められている。
◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。
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