
寄付の集まりにくさが課題の子ども食堂。そんな中で、高校生2人のあるアイデアが多くの寄付を集めた。コンビニを舞台にしたそのアイデアとは?「シリーズSDGsの実践者たち」の第43回。
身近なコンビニで子ども食堂を広げたい地域の子どもたちに、無料または低額で食事を提供する子ども食堂の活動は全国に広がっている。ただ、課題もいくつかある。1つは民間の自主的なボランティア活動によって維持しているケースが多いために、運営費や人手が不足していること。もう1つは、貧困家庭を対象としたイメージが強いことで人の目を気にして食堂に入りづらくなるなど、本当に利用してほしい子どもたちに来てもらうのが難しいことだ。
このような課題の解決法を考え、かつ、寄付を増やすアイデアを実践したのが、兵庫県宝塚市の雲雀丘学園高校を今年3月に卒業した西村麻佑さんと山本実侑さんだ。
きっかけになったのは、高校2年生の時に学校が課外プログラムとして実施している「アクション探求」に参加したことだった。SDGsについての取り組みを考えていくうちに、子ども食堂の現状を知ったと西村さんが説明する。
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「最初は貧困といった抽象的なテーマに取り組もうとしていました。けれども、貧困について調べていくうちに、子ども食堂の現状や課題を知ったことで、子どもと食に関することに取り組むことを決めました。そこで焦点を当てたのがコンビニとフードリボン(プロジェクト)です」
多くの人が利用するコンビニエンスストアに子ども食堂の機能があれば、もっと多くの子どもたちに食事が届くのではないかと考えた。調べてみると、子ども食堂としてフードリボンを実施しているコンビニが、全国で4店舗だけあった。
フードリボンの取り組みは、飲食店などを利用する客が1つ300円のリボンを子どもの1食分として先払い購入し、店内に掲示する。子どもたちは掲示されたリボンを1つ手に取ることで、1食分の食事ができる仕組みだ。ただ、フードリボンも購入してもらうのはなかなか難しいといった課題がある。
今よりも多くフードリボンを購入してもらう方法がないかと考えていたとき、あるヒントを得た。学校で実施されている探求ゼミで食品メーカーのマーケティングを学んだ際、アプリの登録者を増やす方法として、バラバラになったピースをはめていくモザイクアートを活用する案が出た。このモザイクアートとフードリボンを組み合わせると、より多くの寄付を集めることができるのではないかと思いついたのだ。
「貧困問題は解決しにくいという先入観から多くの人にとっては取り組みにくいと思います。それが、モザイクアートであれば楽しみながら参加できます。それに使い道が不透明だとなかなか寄付しようとは思いませんが、モザイクアートを貼って可視化することで、自分が貢献できていると思えるのではないかと考えました」(西村さん)
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このアイデアを高校生によるSDGsアクションアイデアコンテスト「SDGs QUEST みらい甲子園」に応募したところ、高校2年生の3月に開かれた関西大会で、文章を西村さんが、絵とデザインを山本さんが担当したプレゼン資料が、審査員や参加者から共感を集めて最優秀賞を受賞した。
宝塚市内のコンビニでアイデアを実践ところが、この朗報に2人は困惑することになる。最優秀賞に選ばれると、そのアイデアを実践して、7月に開催される全国交流会で発表するのだが、高校3年生になり、大学受験に向けた勉強も本格的になるほか、2人が所属していたダンス部の大会も5月に控えていた。だが、悩んだものの、実践することを選んだ。
実はフードリボンを実施している全国4か所のコンビニのうち、1店舗は宝塚市内にあるローソン宝塚市役所前店だった。2人が店を訪ねてアイデアを説明したところ、快く引き受けてもらえた。店長の森下忠明さんは、2人の提案は「嬉しかった」と振り返る。
「高校生がフードリボンに注目してくれて、世の中の役に立とうと思って行動を起こしたいというので、ものすごく嬉しかったですね。全力で2人を応援しようと思いました」
店舗から承諾を得られると、山本さんがデザインを考えて、モザイクアートの作成に入った。最初のアイデアでは、モザイクアートのギネス記録を更新する縦13メートル、横13メートルの大きさで作ることを考えていた。しかし、モザイクアートのピースを貼り付けるパネルの見積もりを業者にお願いしたところ、2000万円かかることがわかり、ひとまず1メートル四方のモザイクアートを作ることにした。
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2人は昼休みや放課後、帰宅後の自宅で準備を進め、なんとかゴールデンウィーク明けに店頭に設置することができた。
寄付も集まり、コンビニの売り上げも増加店頭にモザイクアートを置かせてもらったものの、はじめから上手くいったわけではなかったと山本さんが振り返る。
「最初は認知度が低くて、なかなか寄付が集まりませんでした。そこで、ポスターを作って店頭に貼らせてもらったり、学校のインスタグラムで告知をさせてもらったりしました」
2人がさまざまな方法で周知に取り組んだことで、徐々に認知度は広がっていった。その結果、7月までに約1000枚のピースが貼られて、モザイクアートが完成した。完成によって、1つ300円のフードリボンが約1000個、合計30万円分購入されたことになる。
しかも、この取り組みを行ったことで、店舗自体の売り上げも、同時期に比べて1.5倍も伸びた。子どもを救うことと、コンビニの売り上げに貢献することが両立したのは、アイデアの実践にともなう大きな成果だった。2人には店長とスタッフから感謝の手紙が贈られた。
アイデアを実践した結果を「SDGs QUEST みらい甲子園」の全国交流イベントで発表すると、最高賞のグランプリを獲得。「SDGs QUEST みらい甲子園Future Session」で表彰された。
この授賞式の後、2人は受験勉強に専念して、それぞれ関西圏の大学に合格した。経済学部に進学した西村さんは行動経済学を、経営学部に進学した山本さんはマーケティングを学ぶことにしている。その学びも生かしながら今後も取り組みを続けていく。2人の目標は、全国のコンビニに子ども食堂を広げることだ。
(「調査情報デジタル」編集部)
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。