
くちばしの形が特徴的なインコ。飼ったことがある人にはおそらく共通の悩みが「なんでも齧(かじ)られる」ことではないだろうか。とくに新聞紙や本などの「紙」は齧って穴を開けたりボロボロにしたりしてしまう。そういう習性だから仕方ないとはいえ、油断するとすぐ齧られてしまうのが悩ましいところ。
【動画】楽しそう♪「齧られたい本」で遊ぶオカメインコのスーちゃん
だが、齧りたいなら齧ってもらいましょうという発想で、初めから齧られるための絵本「齧られたい本」を制作したのが、大阪でPerch Branch Designとして活動するフリーランスデザイナー・カトウカエさんだ。
「齧ったらアカン!」を逆転の発想で「どうぞ齧ってください」へ
B6サイズ(128mm×182mm)の大きさで、蛇腹に折られた11ページの絵本。中身は片面が日本語版、もう一方の片面が英語版になっていて、インコが通り抜けできるドアや顔出しできる窓、姿が映るミラー、齧ったり引っ張ったりして遊べる紐とビーズが付いている。
一風変わったデザインの本こそ、鳥(特にインコ)に齧られることをコンセプトに、カトウさんが制作した「齧られたい本」だ。
|
|
YouTube動画には、カトウさんの愛鳥でオカメインコのスマイル(スーちゃん)が、この「齧られたい本」で機嫌よく遊んでいる様子が見られる。
▽「齧られたい本」PV feat. オカメのスーちゃん
インコが物を齧るのは、好奇心から正体を確かめようとしている、くちばしの手入れ、齧ることを遊びとして楽しんでいる…などの理由からといわれている。
読み聞かせ中に絵本を齧られて閃いた
カトウさんが「齧られたい本」を着想したきっかけは、お子さんに絵本の読み聞かせをしているときだった。スーちゃんがバタバタと飛んできて、絵本を齧り始めたのだ。
「コラ、齧ったらアカン!」
|
|
叱ってみても後の祭り。インコのくちばしは噛む力が強いため、絵本に穴があいてしまった。
「やられたー」と思ったと同時に、カトウさんは閃いた。
「どうせ齧るんだったら、インコにとって安全な素材を使って思う存分齧れる仕掛け絵本をつくってみるのはどうだろう?」
内容を工夫すれば、トレーニングや飼い主とのコミュニケーションツールにもなりそうだし、実現できたら面白いと考えた。
しかし、実現までの道のりは平坦ではなかった。「鳥用」の仕掛け絵本なんてつくったことがない。
|
|
「どんな工程で進めたらいいのかも分からず、とにかく手探りで進めていきました。話の内容は? イラストは? 仕様は? 印刷をどこに頼むの? 費用は?……」
課題は山積みだった。
ひとまず、印刷関連会社とクリエイターがタッグを組んで商品開発をするイベント「ペーパーサミット2025」へ出展する目標を立てた。簡単な企画書をつくり、2024年に運営ボランティアで参加したサミットの懇親会で、印刷会社にプレゼンしながら制作パートナー探しをするところから始めたカトウさん。
そこで知り合った製紙会社が興味を示してくれたことから、カトウさんの構想は実現へ向けて動き始めた。
「制作が決まってからペーパーサミットでのお披露目まで6カ月半しかなかったことに加え、通常のデザイン業とも並行しながらの作業だったため、時間のやりくりにも苦労しました。無事完成したときは、心底ホッとしましたね」
本のキャラクターが鳥と一緒に遊びながら、本はどんどん齧られていく。けれども、それが嬉しくて「また遊んでね」と伝える。そんな想いを元に、ストーリーを組み立てたという。
鳥に齧られることが前提なので、素材にもこだわった。
表紙のエリプラペーパーはバージンパルプ使用した、蛍光染料不使用の高密度厚紙。これはプラスチックの代替素材に使われるほど丈夫で、環境に配慮したFSC森林認証紙だ。
中面は漂白や着色をしていない、未さらしタイプのクラフトパルプを使用したFSCRミックス認証製品。紐(コード)は、フェアトレードのオーガニックコットン100%を使用し、ビーズは国産・無着色のウッドビーズが使用されている。
「安全な素材とはいえ食べものではないので、愛鳥が紙やビーズを誤って飲み込まないよう、必ず飼い主さんの目の届く場所で遊ばせてください」
トレーニングのお供にするのも良し、心ゆくまで齧ってもらうも良し。愛鳥との楽しいひとときを彩り、絆をさらに深めるきっかけになるようにとの、カトウさんの願いを込めた1冊になっている。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)