
数年前の大地震で被害に遭ったAさんは、ふと当時のことを思い出していました。幸い自宅は倒壊を免れたものの、ライフラインは完全に停止し、電気も水もない生活を強いられたのです。
長期出張から帰ってきたら「自宅が解体されていた!」 …衝撃トラブルの補償は?
備蓄していた飲料水も尽きてしまい、Aさんは猛烈なのどの渇きに襲われます。「もう限界だ…」と思ったAさんは、ふと自宅近くに自動販売機があったことを思い出します。Aさんは「あの自販機を壊して中の飲み物を持って帰れればいいのに…」と強く思ったのでした。
しかしAさんは、「そんなことをしたら犯罪だ」と思い直し、自動販売機を破壊することはありませんでした。ただ最近になり報道で、災害時に自動販売機を壊して飲み物を確保するケースがあることを知ったAさんは、この場合犯罪として罰せられるのか気になってきました。実際に災害時に自動販売機を破壊して飲み物を手に入れた場合、犯罪として罰せられてしまうのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
ー自動販売機を破壊して飲み物を手に入れる行為は罪に問われるでしょうか
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災害などで緊急事態であったとしても、自動販売機の保有・管理する者の許可なく破壊をした場合、罪に問われる可能性があります。
まず刑事責任についてです。他人の物を故意に壊す行為は、「器物損壊罪」にあたります。この場合、自動販売機という他人の所有物を壊していますので、この罪に該当する可能性があります。また、中の飲み物を持ち去った行為は、「窃盗罪」にあたる可能性が高いでしょう。
次に、民事責任についてです。他人の権利や法律で保護される利益を故意または過失によって侵害する行為は、民法で「不法行為」と定められています。不法行為と判断された場合、自動販売機を壊した人には損害賠償責任が発生し、壊れた自動販売機の修理代や、持ち去った飲み物の代金などを、持ち主や管理会社に対して弁償しなければなりません。
ー生命の危険を感じていても罪に問われるのでしょうか
他に取るべき手段がなく、自分の命を守るためにやむを得ず行った行為であれば、「緊急避難」と認められ、罪に問われなかったり、賠償責任が軽減されたりする可能性もゼロではありません。ただし「緊急避難」と認められるには、厳しい条件をクリアしなければなりません。
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目の前に危険が迫っていたということ、その危険を避けるための行為であったこと、危険を避けるために最小限の行為であったこと、行為によって生ずる害が、迫っている害を上回っていないこと、などが条件となっています。
もしも自動販売機を壊した人が、他に助けを呼べる状況だったり少し我慢すれば水が手に入る見込みがあったりすれば、緊急避難は認められない可能性が高くなります。
近年では大型災害時に内部の飲み物を無料で取り出せる「災害支援型」の自動販売機も増えています。逆に目の前の自動販売機が災害支援型でなければ、無理に破壊しないほうがいいでしょう。少なくとも保有・管理者に連絡してから判断することをおすすめします。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
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