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米コーネル大学などに所属する研究者らが発表した論文「Droplet Outbursts from Onion Cutting」は、「玉ねぎを切ると涙が出る」現象の科学的メカニズムを解明した研究報告だ。
タマネギを切ると、涙を誘発する液体成分が放出されるが、これら液滴生成の根本的なメカニズムは十分に解明されていない。
研究チームは高速カメラ技術を駆使し、毎秒5000〜2万コマという超高速で、玉ねぎを切る瞬間を撮影。さらに特殊な粒子追跡技術とゆがみ分析技術を組み合わせることで、肉眼では見えない微小な液滴の動きを詳細に分析することに成功した。
この研究で明らかになったのは、玉ねぎから液滴が放出されるプロセスが2段階で起こるということだ。第1段階では、ナイフが玉ねぎを切り始めた瞬間に内部に蓄積された圧力によって高速(秒速1〜40m)で液体を噴出。第2段階では、この噴出した液体の糸状の流れが空気中でさらに小さな液滴に分裂していく。
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注目すべき発見は、ナイフの切れ味と切る速度が液滴の放出パターンに大きく影響するという点だ。研究では、刃の鋭さが0.91μm(非常に鋭い)から13.3μm(比較的鈍い)まで、また切断速度が秒速0.44〜2.03mまでの範囲で実験した。
結果として、切れ味の悪いナイフを使うと、放出される液滴の数が最大で約40倍に増加することが判明。また切断速度が速いほど、液滴の数は約4倍増加した。
この現象を詳しく理解するため、研究チームは玉ねぎの組織構造に着目。玉ねぎの各層には硬い表皮と柔らかい内部組織があり、この二層構造が液滴放出のメカニズムに重要な役割を果たしている。切れ味の悪いナイフを使うと、表皮が破れるまでに内部組織が大きく圧縮され、その結果、表皮が最終的に破れた瞬間にバネのように高圧で液体が噴出するのだ。
さらに研究チームは、玉ねぎを切る方向や温度(冷蔵または室温)が液滴放出に与える影響も調査した。これらの条件による液滴の速度分布には統計的に有意な違いは見られなかったが、一方で冷やした玉ねぎからはより多くの量の液体が放出される傾向が観察できた。
Source and Image Credits: Wu, Zixuan, et al. “Droplet Outbursts from Onion Cutting.” arXiv preprint arXiv:2505.06016(2025).
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※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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