
新入社員として働き始めたAさんは、早起きにも慣れてきたと油断して寝坊してしまいます。いつも家を出る時間を大幅に過ぎていることに気づき、血の気が引く思いで飛び起きます。身支度もそこそこに家を飛び出し、息を切らして駅にたどり着くとホームは既に通勤客でごった返しています。
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改札前の電光掲示板には「運転見合わせ」と表示されており、駅の構内は仕事場や学校に遅刻の連絡をする人たちで溢れかえっています。そこでは「いつになったら動くんだ!」「こっちは急いでるんだ!」と大きな声が聞こえ、Aさんは驚いて振り返ると、中年の男性が駅員に詰め寄って、理不尽な言葉を一方的に浴びせかけていたのです。
事故対応に追われている駅員に声を荒げても電車は動くわけではありません。それでもその男性は、顔を真っ赤にし駅員を睨みつけています。
事故などで電車が運転停止している状況は誰にとっても不幸な出来事でしょう。しかしこの男性のように、自分の感情をコントロールできずに周囲に当たり散らす行為は明らかに迷惑です。
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このような行為は、社会的に許される範囲を超えているとAさんは考えます。何かしら法的な問題はないのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
ーこの中年男性は罪に問われる可能性がありますか?
単に大声で文句を言う程度では、直ちに犯罪として立件されるとは限りません。行為の態様、継続時間、周囲への影響などを総合的に考慮して判断されます。ただし、状況次第では罪に問われる可能性があります。
まず考えられるのは「威力業務妨害罪(刑法234条)」です。これは、威力を用いて人の業務を妨害した場合に成立します。今回のケースでは、男性が大声で怒鳴りつけた結果、駅員が本来行うべき業務を著しく困難にさせていた場合、「威力」を用いて「業務を妨害」したとみなされる可能性があります。
また、公共の場所で著しく粗野または乱暴な言動で迷惑をかける行為(同法1条5号)とみなされた場合、「軽犯罪法違反」に問われる可能性もあります。
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ーもし状況がさらに悪化すると考えられる罪はありますか?
この男性の衝動が収まらず行為がエスカレートした場合、さらに重い罪に問われる可能性があります。
実際に駅員や他の乗客に手を出して怪我をさせれば暴行罪・傷害罪(刑法204条)となる可能性がありますし、駅の設備を蹴ったり殴ったりして壊した場合は、器物損壊罪(刑法261条)に問われかねません。もし、駅員などから退去するように求められたにもかかわらず、駅構内や事務所などに居座り続けた場合には、不退去罪(刑法130条後段)も考えられます。
ー実際にあった事例はありますか?
駅や公共交通機関において、従業員に対する暴力行為や迷惑行為が犯罪として立件されるケースは後を絶ちません。2025年2月には、新幹線の改札で駅員に暴力を振るったとして逮捕された事案も発生しています。
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この男性のような行為は、決して許されるものではありません。状況次第では犯罪として処罰される可能性があることを私たちは認識しておく必要があるでしょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)