限定公開( 2 )
ストレス下での高脂肪食摂取は血管機能に悪影響を与えることが知られている。英バーミンガム大学に所属する研究者らは2024年11月、論文「Cocoa flavanols rescue stress-induced declines in endothelial function after a high-fat meal, but do not affect cerebral oxygenation during stress in young, healthy adults」で、ココア由来の成分「フラバノール」がこの悪影響を軽減できることを示した研究報告を発表した。
フラバノールは、チョコレートや緑茶に多く含まれる健康に良い成分で、血管機能の改善効果や体の酸化を防いだりする働きがあるポリフェノールの仲間だ。
現代社会において、ストレスを感じた際に高脂肪の食品を過度に摂取する傾向は広く見られる。この現象は多くの人が経験しているが、実はこうした食べ方が血管に深刻なダメージを与えることが分かっている。
そこで研究チームは、健康な若い男女23人に協力してもらい、2つの異なる条件で実験を行った。どちらの場合も高脂肪食(有塩バター10gを塗ったクロワッサン2個、チェダー チーズ1.5枚、全乳250ml。総エネルギー891kcal、脂肪56.5g)と共に、高フラバノールココア、または低フラバノールココアを摂取した。
|
|
食事の1時間半後、参加者には8分間の計算問題を解いてもらい、意図的にストレスを与えた。その後、血管の健康状態を調べるため、腕の動脈の機能を測定(FMD)した。
結果は低フラバノールココアを飲んだ場合、ストレス後30分と90分の時点で血管機能が著しく悪化していた。これは高脂肪食とストレスの悪影響が重なったためだ。ところが、高フラバノールココアを飲んだ場合、ストレス後30分では血管機能の悪化が防がれ、90分後にはむしろ改善していた。
フラバノールは血管の内側を覆う細胞に働きかけて、一酸化窒素という物質の産生を促進する。一酸化窒素は血管を広げて血流を良くする働きがある。また、血管を収縮させる有害な物質の産生を抑え、炎症や酸化ストレスも軽減する。これらの作用により、血管が健康な状態を保てるのである。
一方、フラバノールの保護効果は末梢血管に限定されており、脳の血管に対する効果は認められなかった。研究者らは脳の血流を特殊な機器で測定したが、フラバノール摂取による違いは見られなかった。これは脳の血管が体の他の部分と異なる調節を受けているためと考えられる。
Source and Image Credits: Rosalind Baynham, Jet J. C. S. Veldhuijzen van Zantena and Catarina Rendeiro. Cocoa flavanols rescue stress-induced declines in endothelial function after a high-fat meal, but do not affect cerebral oxygenation during stress in young, healthy adults.
|
|
※ちょっと昔のInnovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。X: @shiropen2
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。