“お仕事”と“推しごと”を両立させた「推し活ジャケット」、女性服のポケットがない問題の解決にも寄与…オタク新卒社員の企画が商品に

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2025年05月29日 09:10  ORICON NEWS

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推し活ジャケット着用例(画像提供:ニッセンホールディングス)
 「推しに見守られ、推しを見守りながら仕事がしたい!」。そんな願望を叶えてくれるニッセンの「推し活ジャケット」が話題となっている。立案し、開発にあたったのは、入社間もない新卒社員。研修で立案した企画が商品化するのは同社のなかでも前例のないプロジェクトだったという。「推し活=自分の人生」と語る当人に、実現に至った経緯とジャケットに込めた思い、今後の展望を聞いた。

【写真】約17cmのアクスタも内ポケットにすっぽり…推し活ジャケットポケット収納例

■「推しとの時間が足りない」社会人になって直面した悩みを社内研修企画に反映

 ファッションアイテムの通販事業を行うニッセンが昨年10月4日に世に送り出した「推し活ジャケット」。推しのグッズを収納できる大小様々なポケットに加え、ストラップやキーホルダーを下げられる金具も装備したその名の通り、“推し活”を応援するスーツジャケットで、「大好きな推しといつでも一緒にいられる」と大反響。Xのニッセン公式アカウントによる投稿は530万を超える表示数を獲得と注目を集めている。

 立案し、開発にあたったのは、入社間もない新卒社員。社内研修時に出された課題がこの前代未聞のジャケット誕生のきっかけとなった。その研修内容について、広報の山本久美子さんはこう説明する。

「新卒社員の社内研修では、ニッセンのブランドミッションである“想像以上の「あったらいいな」を。期待以上の「ちょっといいな」を。”に則した行動ができるようになるため、毎年、商品や事業の提案という課題に取り組んでいます。『推し活ジャケット』はこの活動の中で、一人の新卒社員が提案したものでした」(株式会社ニッセンホールディングス 広報 山本久美子さん)

 その新卒社員が、現在、ライフスタイル本部に所属している水谷莉奈さん。幼少期からアニメのキャラ・声優推しで、近年はチケット代やグッズなどに年間10万円以上費やし、「推し活=自分の人生」と言い切る自称「隠れオタク」だ。

 しかし、当初は推し活商品を企画として提出することにかなり躊躇したという。

「私は隠れオタクで、限られた人にしか推し活をしていることを言っていませんでした。ですので、やはり会社の方々を前にオタクである自分の思いを公表することにはひじょうにためらいがありました」(株式会社ニッセンホールディングス ライフスタイル本部 水谷莉奈さん)

 それでも踏み出した背景には、社会人になったからこそ直面したオタクならではのこんな悩みがあった。

「社会人になるまでは、推しの顔が入っている缶バッチやぬいぐるみを通学バッグにつけるなど、常に推しのグッズと一緒でした。けれど社会人になってからは、グッズを付けられる機会も減り、あまり持ち歩きませんでした。でも、家に帰ってから推しを見るだけでは時間が足りないという思いが募って。子ども時代からずっと推しに助けられ、オタク文化に救われてきた私にとって、推しは“心のお守り”でしたから、できるなら会社でも推しの存在を常に感じていたいと思ったんです」(水谷さん)

 イベントやライブに足繁く通い、近年の推し活市場の拡大をリアルに体感していた水谷さんは、自分と同じような思いを抱えている人はきっと多いはずと立案を決意。ニッセンがアニメとのコラボを多数展開し、公式Xのフォロワーに推し活をしている人やサブカルが好きな人が多いことも、同社でやる意義や事業としての可能性に言及できる後押しとなった。

 そんな熱い思いを胸に社内研修のプレゼンに臨んだ水谷さん。研修指導役員から「ではどんな商品が作りたいのか」と問われ、「周囲にバレずに日常生活で身につけていられ、忙しい毎日の中でも推しと自分の世界に没頭でき、こっそり楽しめるものは?」と考えた末、思いついたのが「大切な推しのグッズを包み込めるジャケット」だった。

■会社としては前例のないプロジェクト、通常業務と並行して1人で企画実現へ

 しかし、新卒社員の社内研修で出されたアイデアを商品化するというのは同社にとって「これまでなかったこと」(広報部・山本さん)。研修はあくまで教育が目的で、会社側からすれば実際に商品や事業をその場から生み出すことは念頭にないのだから当たり前の話だが、今回は違った。山本さんは振り返る。

「私の上長や取締役がプレゼンに参加した後、『めちゃくちゃ熱い人がいた』と水谷さんの話でひじょうに盛り上がっていました。そして、『あそこまでやりたいという熱意があるのだったら、本人にやらせてみたらきっといいものができるのではないか』と判断されました」(山本さん)

 こうして開発への一歩を踏み出すことになった水谷さん。社内研修が終わると新卒社員は会社に対する理解を深めるために各部署をローテーションで回ることになるが、水谷さんはその業務と並行して、様々な先輩方の力を借りながら、たった1人で開発に取り組み始めたという。

 しかし、大変よりは楽しい思いが強かった様子。「先輩方に助言をいただきながら、どんどんアイデアが膨らんでいって、ワクワクしながら進められた」と笑顔で語る。

■「内ポケットにいる推しを見て緊張をほぐす」“お仕事”との両立を大切に

 そんな推し活ジャケットの特徴は、左側を「推しに見守られる」、右側を「推しを包み込んで守る」というテーマで設計していること。

「左側は、内ポケットに常に推しがいて、例えば会議などで緊張している時にそっと開いて推しを見ることで勇気づけられ頑張れるというようなシチュエーションをイメージして私が当初から考えていた設計でした。一方の右側は、外出時にアクリルスタンドを並べて写真撮影をするときに、サッと取り出せるような機能を考えていた際、仕様担当の方から『台座を収納できるポケットがあったら嬉しい』という意見をもとに考えたものでした。推しに守られ、推しを守る”ことをテーマに、着るだけでちょっと気合が入る戦闘服のようなスーツジャケットが作れたらと考えました」(水谷さん)

 ビジネスで着用することを目的としているだけに、「推しごと」と「お仕事」の両立も大事にしたテーマ。そのため、生地は、「仕事の際も仕事終わりにライブやイベントに行った時も動きやすいよう、また汗をかいても自宅で洗えるよう、厳選して採用した」という。

 そんな中で開発にあたりもっとも苦労したのは、「HPに掲載する商品説明で思いを伝えることだった」と水谷さん。

「通販の場合、対面販売のように商品を手に取ってお客様に事細かに説明できない分、ネット上でどれだけ思いを伝えられるかがひじょうに重要になります。言葉のチョイスや画像の作り方など、こだわりとジャケットに込めた思いを伝えることは初めての私にはとても難しく、一番時間がかかりました」(水谷さん)

 ニッセンでは、通常、新商品の開発期間は1年くらいだが、「推し活ジャケット」は1年半の期間を要したという。

■女性服のポケットが少ない問題の解決としても反響…推し活をしていない層からも支持

 こうして発売前の告知時点で早くも話題となり、発売当日完売となった「推し活ジャケット」。「左胸の缶バッチが装着できる内ポケットに、『推しに心音を聴かせられる』『推しの缶バッチで九死に一生を得る胸熱展開!』などの声が届いたことが本当に嬉しかった」と水谷さんは笑顔をこぼす。

 さらに思いもよらなかった嬉しい反響も。なんと「推すものがなくてもこれくらいの収納力はありがたい」「単純にポケットが多くていい」など、推し活をしていない人からも評価の声が多数寄せられたのだ。

 たしかに女性のジャケットはポケットがなかったり、ついていても男性のポケットに比べ小さく、収納の機能を果たしていないことがほとんど。ミニマリストの生活がSNSやメディアで盛んに特集され、「カバンを持ち歩きたくない」「ジャケットに荷物全部入れて手ぶらででかけたい」という人たちが増えている昨今、多ポケットの「推し活ジャケット」は推し活をしていない人にとっても“かゆいところに手が届く”商品となったのだ。

 しかし、なぜ、従来の女性用のジャケットはポケットが少ないのか。

「所説あるのですが、18世紀の終わりに女性服のシルエットが変化して、機能性よりもデザイン性を重視したためポケットが省略されたのでは、と言われています」(山本さん)

 そんな常識をものともせず、「推しといる生活をもっと長く、自然体に過ごしてほしい」という熱い思いから前代未聞の新商品を実現させた水谷さん。そんな水谷さんに今後の展望を聞いてみると……。

「アパレル系だけでなく、インテリア系など、ライフスタイル全体で推し活を応援できるアイテムをお客様目線で作れるよう頑張りたいです。とともに、ニッセンの推し活商品のことをより多くの方々に認知していただきたいですし、お客様を巻き込んだ展開もしていきたいので、SNSを通じてお客様と密にコミュニケーションをとって、いずれはニッセンの推し活部のような形で社内外にコミュニティーが作れたらいいなと考えています」(水谷さん)

(取材・文/河上いつ子)

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  • コレが許される職場なら普通に好きな服を着ればよいのでは??
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