「入社1カ月で退職なんて…」嘆く上司の裏で、新入社員は何に戸惑ったのか　“すぐ辞める若者”では片づけられない離職の背景【専門家解説】

大手製造業の人事担当Aさんは、夏季休業を控えて憂鬱な気分を抱いていました。4月に入社した新入社員のうち数名が、ゴールデンウィーク明けに退職代行を使って退社していったためです。夏季休業明けにも同じことが起こるのではないかと思うと心が晴れません。

【写真】男性上司「セで始まってスで終わるものなーんだ？」　バイト仲間女性の模範解答に「カッコ良すぎるだろ」「完璧な返し！」

Aさんは、今年の新入社員採用には特に力を入れてきました。一人ひとりの個性に合わせた面接時間を確保し、内定後も定期的なオンライン面談や、先輩社員との交流会を企画するなど、入社前の不安を少しでも取り除けるよう、心を開いてきたつもりです。しかし、辞めてしまう社員を止めることはできませんでした。

社内では、「最近の若い者は長続きしない」といった声もあがっています。しかし、その一言で済ませていいのでしょうか。キャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を聞きました。

流行の退職代行を使って早々に…上司の心も砕かれる

―入社後すぐに退職を考える新入社員の傾向とは？

まず、「思っていたのと違った」という入社後のギャップを感じているケースがあげられます。就職活動の段階で、企業側も学生側も、お互いの理解が表面的なレベルに留まっているケースが多いことが背景にあると考えます。早く就職活動を終えたいという焦りから、じっくりと企業研究をする時間が取れていないことも要因です。

「この会社で働き続けても、自分の将来のキャリアが見通せない」と感じると、比較的早い段階で見切りをつける傾向もあります。少しでも会社に疑問を感じると「ここではないかもしれない」と、次の選択肢を探し始めるのです。

ー最近の若者はすぐ辞めるって本当ですか？

数日から1カ月といった非常に短期間での離職率は、統計的にも緩やかに増加している傾向がみられるのは事実です。確かに「最近の若者は根性がない」「我慢が足りない」といった声があがることもありますが、短期離職の理由を若者の性質にのみ帰するのはやや一面的です。現代の若者を取り巻く社会や労働環境の変化も踏まえて、より多角的に見る必要があると考えます。

若者向けの求人が多く選択肢が豊富にあることや、一つの会社に長く勤め続けることへの安心感やメリットの減少といった社会構造、就職・採用を取り巻く環境の変化といった、様々な要因が短期離職の増加に影響を及ぼしていると考えます。

「長く働きたい会社」になるために大切なこととは

ー企業側はどのような手を打つといいのでしょうか

「働きやすさ」や「福利厚生の充実」は、求職者の応募を促す魅力的な要素ではあります。ただ、それだけでは求職者がその会社で働く意味・意義を見出すことは難しいのも事実です。

企業側が発信すべきは、もっとリアルな情報です。たとえば、実際にどんな仕事をするのか、その仕事が社会の中でどんな価値を生み出しているのか、現場の社員が何にやりがいを感じているのかなど。

こうした情報を丁寧に伝えることで、求職者は「この会社でどんなキャリアを築けるか」を具体的にイメージできます。そうすることで、入社後のギャップも小さくなり、結果的に定着率の向上にもつながります。

万が一、早期離職者が出てしまった場合には、その原因を会社としてしっかりと分析し、次の採用活動や社内環境の改善に活かしていくことも不可欠です。「長く働きたい会社」になるためには、単なる条件の良し悪しだけでなく、社員の成長や位置づけを支える環境づくりがますます重要になっていくでしょう。

◆七野綾音（しちのあやね）キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント　やりがいを実感しながら自分らしく働く大人を増やして、「大人って楽しそう！働くのって面白そう！」と子ども達が思える社会を目指すキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント。

（まいどなニュース特約・長澤 芳子）

動画・画像が表示されない場合はこちら