限定公開( 1 )
英ノッティンガム大学に所属する研究者らが発表した論文「Why people follow rules」は、「人はなぜ規則に従うのか」という疑問に答えるための実験を行った研究報告だ。
実験では1万4034人を対象に次のような内容を実施した。参加者はコンピュータ画面で丸を動かし、赤信号を通過してゴールを目指す。持ち時間は20秒で、1秒ごとに報酬が減っていく。つまり、赤信号を無視してすぐにゴールすれば最も多くの報酬がもらえる。しかし「信号が青になるまで待つ」という規則が示されている。
重要なのは、この実験が完全に匿名で行われ、誰も見ていないということだ。規則を破っても罰則はなく、誰にも迷惑を掛けない。それでも驚くべきことに、平均65.6%の人が報酬を犠牲にして規則を守った。信号待ちで報酬の約半分を失うにもかかわらずである。
なぜ人は損をしてまで規則を守るのか。研究チームは4つの理由を検討した。「規則そのものへの敬意」「罰則への恐れ」「他人の目を意識すること」「他者への配慮」の4つだ。この実験では罰則もなく誰も見ておらず、他者への影響もないため、純粋に規則への敬意と社会的な期待だけが理由となる。
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別の実験では、他の参加者の行動を伝えるとどうなるかを調べた。「他の人の0〜20%しか規則を守らない」と告げられた場合の順守率は平均35.2%だったのに対し、「他の人は81〜100%守る」と告げられた場合の順守率は平均56%であった。個人レベルでは、19%が他者に関係なく常に規則を守り、29%は常に規則を破り続けた。
別の実験では、他者の行動を実際に観察する影響を検証。参加者は最初1人で課題を行い、次に6人の他の参加者の動きを見ながら課題を行い、最後にまた1人で行った。結果は6人全員が違反する場合、順守率は基準の77%から55%に低下したが、それでも半数以上が規則を守った。
研究者たちは、規則違反が慈善団体への寄付を取り消すという「他者への影響」を加えた実験も行った。これにより少しだけ順守率が上昇した。
さらに違反者を罰する仕組みも導入した。10%の確率で全報酬を失う弱い罰則ではほとんど変化がなかったが、90%の確率の強い罰則では順守率が77.8%まで上昇。しかし100%には達せず、約6%の人は非合理的にも無条件で規則を破り続けた。
これらの実験を通じて、約23%の人は他人がどう行動しようと関係なく規則を守る「無条件派」で、約30%は周りの人が規則を守るなら自分も守るという「条件付き派」であることが明らかになった。
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Source and Image Credits: Gachter, S., Molleman, L. & Nosenzo, D. Why people follow rules. Nat Hum Behav(2025). https://doi.org/10.1038/s41562-025-02196-4
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
【訂正:2025年6月11日午前10時35分:当初、米ノッティンガム大学と記載していましたが、正しくは英国のノッティンガム大学でした。おわびして訂正いたします。】
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