日産が追浜工場の生産終了へ、再起の条件とは【播摩卓士の経済コラム】

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2025年07月19日 14:02  TBS NEWS DIG

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ついに、その日がやってきました。日産自動車は、神奈川県横須賀市にある追浜工場での生産を2027年度末に終了すると発表しました。日産を代表する主力工場の終わりは、今回のリストラの象徴的な出来事です。

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日産社長「苦渋の決断」

日産自動車は15日、追浜工場での生産を2027年度末までに、また平塚市にある日産車体湘南工場での生産を26年度までに終了すると正式に発表しました。記者会見したエスピノーサ社長は、「非常に痛みを伴う決断だった。しかし成長に戻すためにはやらなければならない」と苦渋の決断だったことを強調しました。

国内工場の閉鎖は、カルロス・ゴーン元社長の下で行われた2001年の村山工場以来、四半世紀ぶりのことで、今回のリストラで、日産の国内工場は今の5つから、九州2工場と栃木工場のあわせて3工場に集約されることになります。

日産を象徴する主力工場

追浜工場は、1961年に操業を開始。日本のモータリゼーションと日産の発展を象徴する主力工場です。現在は、ノートやノートオーラを生産、かつてはブルーバードやマーチ、キューブが、この工場から全国、世界へと送り出されました。電気自動車の初代リーフも追浜で作られました。現在も従業員およそ2400人、生産能力24万台を擁していますが、販売不振から稼働率は46%にまで落ち込んでいました。

研究施設や走行実験施設、専用埠頭もある広大な敷地があり、エスピノーザ社長は工場以外の施設は引き続き使用し、工場跡地については売却する方針を示しました。

一方、日産車体の湘南工場は、商用車などを生産しており、こちらの稼働率も32%と低迷していました。これで創業の地で現在は本社を置く神奈川県から、生産拠点がなくなることになります。

日産としては、生産能力の高い九州の2工場と、次世代生産技術の導入を目指す栃木工場の3つの工場の稼働率を大きく上げることで生産コストを引き下げ、現在の販売台数でも利益が出せる体質にしたい考えです。

全世界で7工場を閉鎖予定

追浜工場での生産終了は、「聖域なきリストラ」に不退転の決意で取り組む姿勢を内外に示す意味でも必要でした。日産は世界全体で17のうちの7つの工場を閉鎖する方針を発表しており、すでにインドとアルゼンチンの工場からの撤退を発表しています。残る閉鎖候補としては、メキシコの一部や南アメリカなどの工場が取りざたされており、本国のマザー工場すら閉鎖というメッセージは重要だったのでしょう。

日産としては、こうした生産能力の削減によって、採算ラインを世界生産250万台レベルにまで下げたいのです。昨年度6709億円もの最終赤字を計上した日産にとって、生産能力を、まずは身の丈に合ったレベルにまで落とすことは避けられなかったのでしょう。

問われるべき経営者責任

それにしても、事態をここまで悪化させた、過去の日産の経営者達は一体、何をしていたのでしょうか。退任した内田社長と3人の副社長には、合計で6億4000万円もの役員退職金が支払われました。3人の副社長は、それぞれ、開発、生産、マーケティング責任者でした。4人は、「売れる車がない」といわれる日産の無残な状況を作り出した、いわば張本人です。

そして、こうした経営者を監督できなかった社外取締役達の責任も厳しく問われるべきです。社外取締役を増やし、執行と監督の分離や、社長指名委員会の設置など、色々な仕組みを作ったところで、結局は、ガバナンスが全く機能していなかった典型例と言えそうです。

その一方、今回のリストラによって全世界で2万人もの従業員が職場を追われるのですから、モラルハザードと言われても仕方なく、今後の再建に向けた士気への影響が心配です。

「売れる車がない」から脱却できるか

250万台の生産でも採算がとれるようにするというリストラは、最初の一歩に過ぎません。リストラしただけで、販売店が「売れる車がない」と嘆く状況が急に改善するわけではありません。

新型のエルグランドやリーフなど今後投入される車がどれだけ支持を集め、さらにそれに続く魅力的な新型車が投入できるかどうかが、再起に向けた今後のカギになります。

その上で必要なことが、クルマがかわる将来への投資です。

日産・ホンダが基盤ソフト共通化へ

こうした中で14日、日産とホンダが、自動車を高度に制御する基盤ソフトウエアを共通化する方向で調整に入ったことが明らかになりました。基盤ソフトウエアは、自動運転やライドシェア、車内でエンタメなどの機能を拡張するための中心となる技術で、SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)の基盤となるものです。

SDVでは、この基盤ソフトウエアが更新されることによって、車の機能が随時、より進化、高度化する仕組みです。自動車会社のビジネスモデルを、これまでの「車の売り切り」から、ソフトウエア更新による継続課金(サブスク)へと、大きく変化させることになります。

基盤ソフトウエアの開発には、巨額の投資が必要なことから、いったん経営統合協議を打ち切った日産とホンダが協力する方向になったものです。小さくなった日産が将来への投資を続けるためには、ホンダや自動車企業に限らず、外部との幅広い協業が必要です。

外部との協業で将来投資

クルマの未来像がなかなか1つに絞れない中、トヨタのように、ハードもソフトも、EVもハイブリッドも水素車もと、フルライン、全方位で開発が進められない中、日産が「勝ち筋」を見つけるためには、お得意の「内向き」志向から、「外に開かれた企業」に変わることが欠かせません。

ホンダとの経営統合が破綻した今は、将来のために必要な投資は、具体的な項目ごとに協業相手を見つけていく以外、当面、道はありません。

再起をかけた、いわば最後の戦いは始まったばかりで、エスピノーサ社長をはじめとする現経営陣の肩には、その重い責任がかかっています。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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