
家族同然の愛猫を亡くした後、飼い主はどう心を立て直し、前を向けばいいのだろう。きっと、心が納得する答えは人それぞれ違うが、2024年2月に愛猫シドくんを亡くした「なべ」さん(@nabe1103h)が辿り着いた考え方は、似た暗闇から抜け出せない人に響く。
【写真】雪が積もり、あたり一面真っ白になった自宅付近で保護された猫さん 気温は氷点下でした
シドくんは「猫伝染性腹膜炎(FIP)」と闘い、14歳で空へ帰っていった。
氷点下の日に出会った“1匹の野良猫”
2011年1月、雪が積もり、あたり一面真っ白になった自宅付近で、飼い主さんはシドくんと出会った。
あどけない顔のシドくんは当時、生後6カ月ほど。数日間、見守る中で、シドくんには帰る家がないことを知り、飼い主さんは保護を決意した。
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「寒い地域なので、野良として生きていくのは無理だと判断しました」
シドくんは警戒してなかなか近づいてこなかったが、玄関のドアを開けたまま待っていると、家の中へ。
意外にも、お迎え後はあまり警戒せず。毛布を敷いた段ボールを用意したり、電気ヒーターをつけてあげたりすると、安心した様子を見せた。
「警戒していたのは、数日間だけ。寒かったからか、すぐ膝に乗ってくれました」
最初はケージで過ごしてもらっていたが、寂しそうな鳴き声が心に刺さり、室内で自由に過ごしてもらうことに。毎日、布団で一緒に眠るのがルーティンになった。
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「当初は迷い猫として飼い主を探していましたが、見つからなかったので、正式にお迎えしました」
子育て中には「メンタルケア」をしてくれた
保護から2カ月後、東日本大震災が起きた。幸い自宅付近はそれほど揺れなかったが、震災当日は停電。テレビで情報を得ることもできず、ヒーターで温まることもできず、不安な時間を過ごした。
そんな時、心の支えになってくれたのはシドくん。飼い主さんはシドくんを抱きしめて眠り、温もりに救われた。
23歳で母親となった飼い主さんは、育児中もシドくんに助けられたという。シドくんは飼い主さんが子どもたちを叱ると必ず走ってきて、「なおーん」と鳴き続けた。
まるで、「お母さん、やめて」と言われているみたい…。そう感じ、「分かったよ。もう怒らない」と言うと、シドくんは言葉を理解したかのように、その場から立ち去ったそうだ。
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「若く未熟な母だったので、シドには本当に助けられた。威嚇は1度もされなかったし、とても優しい目をした子でした。話しかけると、いつもお返事をしてくれて…。一緒にいる月日を重ねるにつれ、人間の言葉を理解していっているように見えました」
14歳で「猫伝染性腹膜炎(FIP)」に…葛藤の末に“自宅療法”を決断
シドくんの体調に異変が見られたのは、2024年12月20日のこと。食欲が落ち、ほぼ食事を摂らなくなった。
動物病院を受診するも、症状は快方へ向かわず。翌年1月には、腹水が溜まった。
獣医師からは、猫コロナウイルスの突然変異によって起きる「猫伝染性腹膜炎(FIP)」の可能性が高いと言われ、14歳とシニアであることから「おそらく助からない」との診断が…。
飼い主さんはシドくんの年齢や体にかかる負担を考慮し、1回だけ腹水を抜いてもらい、その後は自宅療法を選んだ。大好きなおうちで好きなものを食べて、残りのニャン生を楽しんでもらいたいと思ったからだ。
「毎日、ペットショップをめぐり、マタタビや高齢猫用の介護食、猫用ミルクなど、ありとあらゆるものを買い、好きなものや食べられるものを探しました」
しかし、シドくんの食欲は戻らず、日に日にやせ細っていったそう。飼い主さんは毎日、細くなった体を撫でては泣いた。自分が寝ている間に旅立ってしまわないだろうか。夜はそんな不安に襲われ、できる限り近くにいたという。
「痛みが少しでもとれるように、苦しくないようにと願いながら撫でていました。シドはいつも穏やかな顔をしてくれ、泣いている時は駆け寄ってきてくれて…。『大丈夫だよ、苦しくないよ』と伝えてくれているようでした」
自分の帰宅を待って旅立った愛猫の優しさが染みた「最期」
やがて、シドくんは水も飲めず、声も出せなくなった。別れが近いことを悟った飼い主さんは「仕事へ行かなければ」と「看取りたい」の間で悩み、知人に相談。すると、「何で休むかは、その人次第。堂々と休めばいい」と言ってもらえ、心が楽になった。
ひとりで逝かせたくない。そう思い、家族が起きている時間に眠り、夜中に起きてシドくんを撫でる生活を送った。その際はシドくんの心を気遣い、「大丈夫だよ、怖くないよ。本当のお母さんが迎えにきてくれるよ。もうすぐ楽になるからね。ありがとうね」と伝えた。
ほぼ食事ができなくなってから1カ月半ほど経った2024年2月6日、シドくんは逝去。何も出ない状態だったが、やせ細った体を起こし、最後まで自力でトイレへ行く誇り高さも見せてくれた。
「その日、娘さんは休校で、私は仕事でした。帰宅すると、シドがぐったりしていて…。驚いて抱き上げ、名前を呼ぶと少しだけ動きましたが、2度痙攣した後、動かなくなりました」
まるで、自分の帰りを待っていてくれたような最期に、飼い主さんは胸が熱くなったという。
愛猫の死から100日経って、ようやく前を向けるように
シドくん亡き後は、涙に暮れる日々だった。携帯で撮り溜めた大量の写真をコンビニで印刷し、飾ったり持ち歩いたりしたが、心は晴れず。
このままでは自分がダメになると感じ、図書館でペットロスに関わる本を借り、読み漁りもした。
「苦しいのは私だけじゃないと言い聞かせていましたが、涙を止めることは無理だったので、気がすむまで泣きました」
心境に変化が起きたのは、シドくんが旅立って100日ほど経った頃。「あの子は見えなくなっただけ」と、自分が納得できる“死”の受け入れ方に辿り着いた。
「家にはいないかもしれないけれど、心の中にはいるんだなって。いつか、私が年をとって死んだら、きっと迎えにきてくれる。そしたら、また一緒に暮らせる…と思えるようになりました」
悲しい時も苦しい時も病気の時も怒った時も笑った時も、いつも側にいてくれたシドは家族以上の存在。そんな飼い主さんの猫愛に共感する猫飼いさんは、きっと多い。
自分の一部と言っても過言ではない愛猫の死をどう受け入れ、前を向くか。飼い主さんとシドくんの絆は、そう考えるきっかけを授けてくれる。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)