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「警察なら助けてくれる」。歌手活動をしていた冨田真由さんは2016年、警視庁に過激化するファンの男性の対応について相談した。
だが、その12日後、男性からナイフで全身34カ所をめった刺しにされた。命は助かったが、後遺障害は残り、人生は一変した。
警察が必要な対策を取らなかったと起こした裁判で28日、和解が成立した。冨田さんは願う。
「警察には相談に来た一人一人に向き合ってほしい」
「時代の流れに沿った判断を」
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事件が起きたのは16年5月。冨田さんはその数カ月前から、交流サイト(SNS)で岩崎友宏受刑者=殺人未遂罪などで懲役14年6月の実刑=から、危害を加えるような書き込みをされていた。
警視庁武蔵野署にSNS上の書き込みを持参し、相談した。しかし、受刑者に対して警告や聴取はないまま、事件が起きた。
場所は冨田さんがライブを予定した会場の目の前だった。
あれから9年がたった。警察にストーカー被害を相談しても、同じような悲劇は全国で後を絶たない。
こうした報道を見る度に、つらい思いを抱いてきた。
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「被害者の声に真摯(しんし)に耳を傾け、危険性及び切迫性の的確な判断と組織的な対応を強化する」
警視庁は今回の和解でこう約束した。訴訟を通じて冨田さんが望んでいた結果だ。
警察はストーカー事案だけでなく、多くの事件を扱っている。
それでも和解後の記者会見で「被害者の不安な声に真摯(しんし)に向き合い、相談して良かったと思える対応をしてほしい」と訴えた。
この事件で、SNS上のつきまといの危険性が社会で広まった。ストーカー規制法が改正され、SNSでのつきまといも規制対象となった。
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「当時はまだ警察の人もSNSの危険性を理解していなかったのだと思う。法律の規制がなかったとしても、警察は時代の流れを考慮して危険性を判断してほしい」
「生きづらさを抱えている方へ」
冨田さんは和解後にコメントを公表した。全文は以下の通り。
事件に遭ってから9年がたちます。
振り返ってしまうと、つらい、苦しいという言葉が当てはまる日の多い9年だったと感じています。
しかし、さまざまな痛みに耐え、今日までこられたのは、家族や友人はもちろん、私を助けようと手を差し伸べてくださった、たくさんの方々のおかげです。その温かい手や言葉に、本当に、本当に救われました。ありがとうございました。
そして、さまざまな被害によって生きづらさを抱えている方へ。思うように生活できないもどかしさ。自分にしかわからない苦痛。被害はそれぞれ違うので、「全部わかる」とは言えないけれど、私も似た不安を抱えている1人です。
あなたが、少しでも早く穏やかな日々を送れることを、いつも心から願っています。【安元久美子】
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