多発するフィッシング詐欺(イメージ) フィッシング詐欺で乗っ取られた証券口座による不正取引で、証券会社の被害補償が本格化してきた。ただ、各社の対応は割れており、ネット証券の顧客を中心に全額補償を求める動きもある。新NISA(少額投資非課税制度)で「貯蓄から投資へ」の流れが進む中、投資家の信頼を回復できるかが試される。
対面・ネットの大手証券10社は5月、約款にかかわらず一定の補償を行うと表明した。原則として対面証券が最大で被害前の口座の状態に戻す「原状回復」を行うのに対し、ネット証券は被害額の2分の1の金銭補償にとどめるもので、SBI証券と楽天証券は7月から案内を始めた。しかし、被害顧客の一部は「証券口座のっとり被害者の会」を結成。全額補償を求める訴訟も起きているのが現状だ。
補償の差異について、ネット証券各社はビジネスモデルの違いを指摘する。営業員が手厚く接客する対面と異なり、顧客による管理を前提に安価なサービスを提供する以上、「顧客にも応分の負担をしてもらう」(松井証券)との考えだ。会社側での情報漏えいが確認されなかったことも理由に挙げる。ただ、楽天証券の楠雄治社長は1日の記者会見で「至らぬ部分が多かった」と述べ、セキュリティー対策の周知不足を認めている。
一方、大手の対面証券は「顧客の大切な資産を元の形に戻すのが最優先」(SMBC日興証券)との姿勢だ。野村証券も「しっかりした対応が企業価値向上につながる」(野村ホールディングス幹部)と判断している。
3月から急拡大した乗っ取り被害は、ピーク時からは減少しつつある。だが、顧客の利用と同時並行で情報が即時に盗まれる「リアルタイムフィッシング」も発生。SBI証券が今秋にも、パスワードを使わない本人認証策の導入を予定するなど、対策の強化は引き続き最重要課題だ。