最後も神になる! 今季限りで引退する阪神原口文仁内野手(33)が9月30日、兵庫・西宮市内で会見。不本意な成績で進退を決断したことを明かした。ただ、心もバットもまだエネルギーに満ちている。会見にユニホームで登場したのは、2日ヤクルト戦(甲子園)の引退セレモニー後も戦い続ける意思表示だ。藤川球児監督(45)は短期決戦の特別な1枚として期待を寄せる。大腸がんを乗り越えた不屈の魂で、日本一という最高のエピローグを描く。
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開始から6分、ついに涙があふれた。狭くて、ほこりも舞う2軍の情景がよみがえった。「全然1軍に上がれなかった時から優勝に貢献したいと志高くやっていた。目標を持ち続けて、1人で鳴尾浜の室内で…」。そう言って声を詰まらせた。ドラフト6位入団から、努力ではい上がってきた原口らしい引退会見だった。
腰痛、3年超の育成契約、大腸がん闘病…。いつも不屈の精神力と鍛錬で打ち破ってきた。帝京からプロ入りして16年。長い戦いの旅を終える時がきた。今季1安打という成績不振が理由。「何とかしたい気持ちで打席に向かったけどファンの皆さんに苦しい思いをさせてしまった。チームに貢献できなかったのは悔しい」。結果の世界で生きてきたから腹を決めた。9月末、球団に意思を伝えた。
今季初安打は9月13日の巨人戦。投手がはじく間に全力で走り、大きな体を一塁ベースに投げ出した。幼少期、23年に69歳で亡くなった父秀一さんに連れられ、埼玉から何度も訪れた思い出の東京ドーム。この時には重大な覚悟を決めようとしていた。「特別な球場だった。あの時期に1本目というのは情けないけど、お世話になった人にいいところを見せたいという気持ちでした」。天国の父をはじめ、多くの人に感謝を込めた魂の一振りだった。
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約30分の会見に通常と違う雰囲気があったのは「続き」があるからだ。「スーツはまだ早い。ユニホームが戦闘服」とタテジマを着用した。2日に甲子園でのヤクルト戦で引退セレモニーが行われるが、ポストシーズンも戦列にとどまる。藤川監督も戦力としての期待は大きい。「勝ちも負けもある大きな勝負の中で戦ってきた選手。勝負師ですから。1日1打席にかけて何年間も努力してきた。彼の力が必要になる」。
神様と同じ道をいく。桧山進次郎氏は13年に引退試合を行ったあと、CS広島戦の現役最終打席で本塁打。代打で生きる原口にも特別な力が宿るかもしれない。「CSや日本シリーズで貢献したい気持ちを持ってずっと練習している。その瞬間、瞬間をかみしめて、全力で結果を求めてやっていきたい」。勝負に生きた男の花道にふさわしい戦いが、甲子園で待っている。【柏原誠】
▽阪神梅野 同じポジションで、切磋琢磨(せっさたくま)して、いい争いをしてきた。一生懸命取り組む姿とかリスペクトする選手。今後の野球人生で、積み重ねがどれだけ大事かを教えてくれた。病気(がん)から帰ってきて、(ZOZO)マリンで打った一打(代打適時二塁打)は一緒にお立ち台にも立てて、鮮明に覚えています。
▽阪神岩貞 もう一緒にやれないと思うと悲しい。若いころはずっとバッテリー組んでいて助けられっぱなし。病気になってグッチなら乗り越えられるとみんな思っていたけど、それ以上になって帰ってきたのでさすがだなと。(思い出は16年に)東京ドームで完封したのが人生のベストゲーム。2人でつくった試合で思い出深いです。太陽のような人ですね。
▽阪神平田2軍監督(原口入団時も2軍監督として指導)あいつの初ヒット、ナゴヤ球場でライト前に打ったの(脳裏に)焼き付いているもん。その時からもうバッティングがよかったよ。真面目に真摯(しんし)に練習に打ち込んで。今の若い選手にいい手本を示してくれたしね。病気とか戦ってる人たちにも彼は勇気を与えてくれたんじゃないかな。これから野球以外にも、いろんなことに携わって勉強してほしい。
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○…阪神原口の引退会見に、盟友たちがサプライズで駆けつけた。91年組で同学年の岩崎、岩貞、梅野、昨季限りで引退した秋山ベースボールアンバサダー(BA)、1学年下の島本も登場。秋山BAから花束を受け取った。ハグとともに「ありがとう」と涙を流し、1人1人に感謝を伝えた。
○…阪神竹内孝行球団本部副本部長は、原口の引退後のポストについて「決まってお話しすることがあればまたご報告します」と話した。何らかの形で球団に関わるとみられる。原口の入団時は広報として接するなど、長い付き合いを振り返り「本当に記録に残るというよりも、記憶に残る選手だったかなと思っております」と功績をねぎらった。
◆原口文仁(はらぐち・ふみひと)1992年(平4)3月3日生まれ、埼玉県出身。帝京(東京)3年夏の甲子園で8強入り。09年ドラフト6位で捕手として阪神入団。12年オフに育成契約、16年途中に支配下復帰。同年は107試合で11本塁打。18年の代打23安打は球団最多タイ。19年1月に大腸がんの手術を受け、5年経過した24年1月に完治を報告。22年から内野手登録。通算563試合に出場し29本塁打、152打点、打率2割6分9厘。182センチ、97キロ。右投げ右打ち。今季推定年俸は4000万円。家族は夫人と3女。
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