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長崎県大村市のペット斎場で火葬業務に従事していた男性(当時45歳)が、火葬で使うブランケットの素材のセラミックファイバーを吸引しぜんそくの発作を起こして2020年に死亡したとして、諫早労働基準監督署から労災認定を受けていたことが遺族らへの取材で判明した。遺族は会社が安全配慮義務に違反したなどとして約7200万円の損害賠償を求める訴えを長崎地裁大村支部に起こした。【樋口岳大】
提訴は8月4日付。訴えは長崎地裁に回付され、11月17日に第1回口頭弁論がある。
訴状などによると、男性は19〜20年ごろからペットの火葬業務に従事。20年8月17日の退勤後には自宅でひどくせき込み、翌18日の夕食中に突然意識を失って救急搬送された病院で死亡が確認された。男性の妻(46)は、遺体を解剖した長崎大医学部法医学教室の医師から、セラミックファイバーの吸引による「作業増悪ぜんそく」で死亡したと説明を受けた。
妻は21年3月に諫早労基署に労災の請求をし、22年5月に認定を受けた。
男性の職場では火葬の際、ペットの下に断熱性があるセラミックファイバーでできたブランケットを敷いていた。セラミックファイバーは「アルカリアースシリケートウール」(AES)という種類の人造鉱物繊維だった。
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労働安全衛生法に基づいてメーカーが作成したAESの「安全データシート」には、粉じんを長期にわたり多量に吸入すると呼吸器への影響が生じる恐れがあるとして、屋内作業時には局所排気装置を使い、防じんマスクを着用するなどの注意事項が記載されている。
遺族側は、会社が労働安全衛生法令に基づいてAESの危険性・有害性調査(リスクアセスメント)をしてリスク低減措置を取ることや防じんマスクを使用させるなどの安全配慮義務に違反したと主張している。
会社の担当者は取材に「係争中なので申し上げられることはない」と答えた。
夕食時に突然転倒 帰らぬ人に 妻「幸せな時間が…」
「なぜ、夫は死ななければならなかったのか」。大村市のペット斎場でペットの火葬業務に従事していた男性(当時45歳)が2020年8月に急死してから5年あまり。残された妻(46)は、今もこの思いが消えない。
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男性は高校時代、サッカー部のゴールキーパーとして県大会で準優勝し、国体のメンバーにも選抜されるなど活躍した。2人は15年8月末に結婚し、一緒によくキャンプへ行くなど幸せな時間を送っていた。
男性は責任感が強く、ペット火葬と並行して、担当するごみ収集の仕事も忙しくこなした。「もうすぐ結婚して5年だね」。夫婦でそう語り合っていたが、男性は20年8月18日の夕食中に突然、椅子ごと後ろに転倒して意識を失った。妻が呼んだ救急車で搬送され、帰らぬ人となった。
男性は、火葬するペットの下に敷く断熱性ブランケットの素材の「アルカリアースシリケートウール」(AES)の繊維を吸い込み、ぜんそくの発作を起こして死亡したとして労災認定された。
産業分野ではかつて、断熱や耐火材などとして天然鉱物繊維のアスベスト(石綿)が使われていたが石綿関連がんの中皮腫や肺がんなどの健康被害が世界的問題になり、人造鉱物繊維の「リフラクトリーセラミックファイバー」(RCF)などに置き換えられた。やがてRCFも発がんの危険性が指摘され、代替品としてAESが使われるようになった。
AESは欧州の規制の発がん性分類の適用から除外され、国内でも厚生労働省の特定化学物質障害予防規則の対象外の素材として幅広い用途で使われている。
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妻は「会社がきちんと労働環境を管理していれば夫は命を落とさなかった」と訴え、「多くの人がAESの製品を使っていると思う。安全には厳重に注意してほしい」と警鐘を鳴らす。
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