限定公開( 2 )

当時、赤字が続いていた現ソニーグループを再生させた平井一夫元社長兼CEOが3月16日、早稲田大学で「変革をリードするモチベーショナル・リーダーシップ」と題して講演した。
早稲田大学ビジネススクール(WBS)の部活である「WBSものづくり部」と、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター(WBF)のイノベーション戦略研究部会が主催したイベントだ。WBSものづくり部の顧問を務める早稲田大学大学院経営管理研究科の長内厚教授は「私も元ソニーグループ出身で、平井氏流のリーダーシップを若い世代に伝承したかった」と話す。
平井氏は、ビジネスリーダーを目指す学生や卒業生を前に、リーダーとなるために必要な心構えを、熱っぽく語った。
平井氏は「求められるのはIQ(知能指数)ではなく、高いEQ(心の知能指数。感情を理解し管理する能力を指す)に基づくリーダーシップ」だといい「大事なことは、正しい人間である人がリーダーになること」だと強調。社長時代に「タウンホールミーティング(経営者との対話集会)などで現場に足を運び、心を込めて、腹落ちしてもらうまで何度も社員と対話を重ねた」と振り返った。
|
|
|
|
平井氏が自ら実践し、体験を通じて会得したビジネスリーダーに必要な要件とは?
●「超競争」のビジネス環境 リーダー「5カ条」の心得とは?
平井氏は「超競争」ビジネス環境と言われる中で、あらゆる職種やビジネスにおいて変革が求められていることを指摘した。「この10年はデジタル、ネットワーク、さらにはAIによるインパクトが大きい。新しい技術が出てくるたびに常に変革を求められています」と話す。
「いろんなビジネスで、新規や異業種からの参入が増える中、競争していかなければならなくなっています。ソニーがホンダと組んで、バッテリーEVを出すと誰が想像したでしょうか」
こうした中、企業は、自社の社員に誇りと自信を感じてもらいながら、高いモチベーションを保ち、同じゴールに向かって協力して進んでもらわなければならないという。そのためには(会社の方針について)オープンに議論する機会が与えられ、一定のリスクをとり、物事を前に進めていかなければならないと指摘した。
|
|
|
|
ソニーという会社の存在意義については「私がCEOとなった2012年に、エレクトロニクス、エンターテインメント、金融の事業を展開することで、『世界に感動を提供すること』とコンセプトを決めました。これは社内外に定着し、いまのソニーの経営にも引き継がれています」と述べた。
平井氏は、リーダーシップを発揮しなければならない立場と、リードされる側の両方の視点でリーダーシップを考えてもらいたいと述べた。その上で、社員に高いモチベーションを持って働いてもらうための「5カ条」を以下のように挙げている。
1. 自らが高いEQに基づいた正しい人間であること
2. 高いIQを持ったマネジメントチームを組成する
3. パーパス、ミッション、ビジョン、バリューを定義する
|
|
|
|
4. 戦略を立案する
5. 現場に行って社員と対話する
リーダーはいかなる状況でもプラス思考で、リーダーシップを発揮できるようにすることが肝心だと強調。「中でも1番目が最も重要です。長い間マネジメントをしてきましたが、正しい人間でなければ、他をいくら頑張っても成果が出ない。それくらい大事です。順番を間違えてはいけません。これがリーダーシップマネジメントの原点です」と訴えた。
●EQの高いことが一番大事
「リーダーになる人に必要なのは、『正しい人間』になることです。リーダーとしての要件を満たした人とは、言い換えれば人徳がある人です」
平井氏はエン・ジャパンの8000人に聞いた「理想の上司」調査の結果を挙げ、昇進した人と、その部下との間に意識のギャップがあることを指摘した。
「会社でプロモーションされる人は、仕事ができるから昇格されます。一方、上司に対して社員が期待しているのは、仕事の実績ではなく『その人が人間として尊敬できるかどうか』なのです。このため昇格した上司と、その上司につかえる社員との間にはギャップがあることを認識すべきです。上司に期待することは何か? と聞いたアンケートで分かったことは、意見をよく聞いてくれて、公平公正な判断ができることが上位に来ています。上司に対しては仕事の実績を求めていません」
「俺は部長だから偉いのだ。会社に40年も長く勤めているから偉いのだ。こう思った瞬間にアウトです。年功ではありません」
IQも大事ではあるものの、それよりも必要なことは人間としてリスペクトされるかどうかだという。人間的にリスペクトされている人が、たまたま部長とか社長とかという肩書を持つから、さらにパワーアップするのだ。そうではなくて、単に実績のある部長だから「俺の言うことを聞け」といった瞬間、社員のモチベーションは上がらなくなると指摘。人間としての言動の重要性を強調した。
「意見をよく聞いてくれて、公平な判断ができる。そんな上司が来れば、社員のモチベーションは上がります。『この上司のためには何が何でも頑張ろう』と思って能力の120%を発揮して仕事をしてくれます。そうでないと『まあ、適当にやっておけばいいか』となり、能力の80%しか仕事をしてくれません。約11万人の社員がいるソニーの場合、120%で仕事をするのと、80%でするのとでは大違いになります」
●若くして昇格・昇進した人は要注意
スポーツの世界でも「名選手、名監督にあらず」といわれる。結果を出せる監督といわれる人は、過去の実績は置いておき「チームをまとめるにはどうしたらよいか」とマネジメント重視に切り替えているという。「そうでない監督はいつまでもホームラン王の武勇伝に頼ってしまい、チームはまとまりません」と話す。
「ぜひとも勘違いしないでもらいたいのが、若くして実績を上げてプロモーションされた方です。残念ながらこういう人が(ギャップのあることが)理解できなくて、俺は実績があるから部長になったのだと思ってしまう。その瞬間に、もっと出世されると思われていた人が、そこから伸びなくなってしまうケースがあります。このためリーダーは、EQの高さを求められることを十分に認識しておいてもらいたい。これがないと、社員はついてきません」
「社員は(トップに対して)完璧なマシーンを求めていません。意見を取り入れて間違ったら責任を取る勇気。分からないことがあったら、教えてもらう勇気。知ったかぶりをしないことです。新しいことをやってみて間違ったら『ごめんなさい』と言って、早めに軌道修正することが肝心です。リーダーであるためには、この勇気と自信が求められます」
●「腹落ちするまで説明」
平井氏がプレイステーション事業を率いていた時期に、ディスクからネットワークに切り替える大変革を進めた。平井氏は2006年にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の社長に就任。2011年にはソニーの副社長、2012年に社長兼CEOとなった。この間、プレイステーション事業は大きな進化を遂げ、ネットワークサービスへの移行が加速したのだ。現在のデジタル・クラウド主流の流れは、この時期に大きく形作られたといっていい。
平井氏は「この時に、どうして変えなければならないのかを、社員が腹落ち(納得)するまで、繰り返し現場に出向いて説明しました」と明かす。
「重要なのはハートで語ることです。よくあるのが、説明するときにスタッフが書いた原稿を棒読みすることです。上から目線で原稿を読むだけだと、社員から見るとパッションがないように感じられてモチベーションが下がります」
「(プレイステーションの変革のときのように)大きな変革をする際には、プラス面だけでなくマイナス面もしっかりと説明することが大事です。例えばネットワークに切り替えた場合に、ディスクを保管する倉庫が必要なくなり、物流も要らなくなります。そうした場合、そこで働いていた従業員はどうするのか。こういうマイナス面についてもきちんと説明することが求められます」
平井氏の場合、プラス面は3割、マイナス面の説明は7割ほどするようにしていたという。「社員からみれば、プラス面は言わなくても分かっているので、聞きたいのはマイナス面なのです」と説明した。
「ソニーの社長時代は、6年間で70回ほど社員を前にしたタウンホールミーティングを開きました。『あの社長はまた来て説明している』といわれるくらい、繰り返し説明しました。ミーティングでは何を聞いてもよいことにしました。それでも特に大きな反対がある場合は、何度も説明して地ならしをする必要があります」と、話し合いの重要性も強調した。
加えてグローバル企業には「自分の物差しでなく視野の広さが求められます。トップには自社をアピールする能力が求められ、英語で説明することが必要で、会社をPRしていかなければなりません」と指摘した。
「米国企業のCEOはテレビの経済チャンネルなどにもどんどん出演して、自社の数字や商品のことをよく知っていてアピールしています。事前に質問などはもらえないので、全てライブで答えなければなりません。日本企業のトップはあまり生放送には出ませんが、米国企業のトップは出演して質問に答えるなど、アピール力があります」
●社員目線に立った経営
平井氏は、ソニーが赤字で苦しんでいた2012年に社長に就任。黒字に転換して最高益を稼ぐ会社にするなど、再生の立役者となった経営者だ。その原動力となったのが、平井氏が常に念頭に置いていたEQを大事にする「社員目線に立った経営」だった。平井氏が重視したのは、徹底的な対話を通じて社員のモチベーションを高めることだ。
平井氏は社長就任時に、赤字続きで落ち込んでいた会社全体に「この社長となら一緒にやっていこう」という雰囲気を出すことに成功し、業績は大きくターンアラウンドすることになった。
変化の激しい時代に、何をモチベーションにしていけばよいのか。迷える若い世代にとって、平井氏の豊富な経験に裏付けられたリーダー論は、重い意味を持つ。
(中西享、アイティメディア今野大一)
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。