
香港の投資会社アフィニティ・エクイティ・パートナーズ(以下、アフィニティ)は11月18日、バーガーキングの日本事業を米金融大手ゴールドマン・サックスに売却する契約を締結した。
アフィニティが韓国ロッテグループからバーガーキングの日本事業を取得したのは2017年。当時の店舗数は100店舗ほどで、前年に同じく韓国ロッテグループから取得した韓国法人の“ついで”に買収したような印象だった。取得額は約8億8000万円といわれる。
なお、韓国のバーガーキングは、2015年に200店に到達。2022年には400店以上にまで増えた。
今回のゴールドマン・サックスの取得額は明らかにされていないが、報道によれば約700億円。これが正しければ、アフィニティは買収時の約80倍もの価格で売り抜けた計算になる。
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2017年からの8年間で、バーガーキングの日本における店舗数は異例の急成長を遂げた。10月31日時点で337店舗となっており、この勢いが続けば500〜1000店舗への拡大も十分可能だ。その将来性を見込めば、さらに高値で売却できる可能性があるとゴールドマン・サックスが判断しても不思議ではない。
アフィニティは、マクドナルドとモスバーガーの2強が長年支配してきた日本のハンバーガー市場において、バーガーキングの日本事業を安く買収した。当時は将来性が疑問視されていたが、地道に育成し、結果として大きなリターンを得た形だ。アフィニティにとっては、投資ファンド冥利(みょうり)に尽きる成果といえる。
本稿では、バーガーキングの日本事業がたどってきた軌跡を振り返り、成功要因を探っていきたい。
●運営会社が次々と入れ替わった歴史
バーガーキングは1954年に米国フロリダ州マイアミで創業した。現在は世界100カ国以上で約1万9500店舗を展開する、マクドナルドに次ぐ巨大ハンバーガーチェーンだが、日本では厳しい状況が続いた。
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1993年、西武グループの西武商事(現・西武不動産)が米バーガーキングとFC(フランチャイズ)契約を結び、日本での展開を開始。同年9月、埼玉県入間市のショッピングセンター「西武入間ペペ」に1号店をオープンした。その後、首都圏に続々と出店したものの、売り上げは伸び悩み、店舗戦略でも米国本部と折り合わず、提携は解消された。
その後、1996年にはJTがバーガーキング・ジャパンを設立し、米バーガーキングの持株会社である英グランド・メトロポリタン社と提携した。新たな体制での日本事業は、森永製菓の子会社からハンバーガーチェーン「森永ラブ」を買収し、25店舗まで拡大。しかし、日本経済のデフレが進むなか、マクドナルドがこれまでの半額となる1個65円でハンバーガーを販売。こうしたファストフードの価格破壊に対応できず、2001年にまたも撤退した。
2007年、バーガーキングは“三度目の正直”として日本に再上陸した。ロッテと、ファーストリテイリングの元社長・玉塚元一氏と元副社長・澤田貴司氏が立ち上げた経営コンサル会社リヴァンプが共同出資し、バーガーキング・ジャパンを設立。社長には、日本マクドナルドを経て日本ウェンディーズ社長も務めた笠眞一氏を迎えた。
1号店は新宿アイランドタワー店。奇しくも日本マクドナルドホールディングス本社と同じビルに位置していた。オープン直後は連日、長蛇の行列ができ、マクドナルドを強く意識したような広告宣伝を次々と展開し、「一泡吹かせてやろう」という気概が感じられた。
●“本物志向”とブランド力で風向きが変化
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しかし、2008年のリーマン・ショックによる不況の影響もあり、事業は次第に苦戦。2010年には韓国ロッテリアに買収された。買収額はわずか100円で、約14億円の負債も引き継ぐ形だった。
韓国ロッテリアの健闘もあり、店舗数は徐々に回復し、2017年には100店舗近くまで拡大。さらに2010年代にはインバウンドが急増し、和食に飽きた観光客がバーガーキングを訪れるようになった。世界的ブランドとしての安心感も追い風となり、顧客数は着実に伸びていった。
また、2015年には“ポスト・マクドナルド”といわれたシェイクシャックが上陸し、日本のハンバーガー市場にも変化が見え始めた。安価なファストフードだけでなく、少し高くても本当においしいものを求める“本物志向”の層が広がっていったのだ。
バーガーキングが愚直に貫いてきた、パティを直火で焼くシンプルな調理スタイルと、牛肉の旨みを最大限に引き出す姿勢は、この“本物志向”の潮流と重なり、じわじわと支持を集めていった。
●ある出店戦略で知名度も向上
そして2017年、アフィニティがバーガーキング・アジア・パシフィックとマスターフランチャイズ契約を締結。日本法人を買収し、ビーケージャパンホールディングスを設立した。ここから、日本事業の本格的な立て直しが始まる。
まず出店戦略の見直しに着手し、初期投資を抑えられる商業施設やショッピングセンター内への出店を重視した。その一環として、ロッテリア運営時代に残っていた収益性の低い店舗を整理。2019年までに韓国ロッテリア系列などの約20店舗が一斉に閉店している。
2019年以降は一転して積極出店へとかじを切り、2019年5月時点で77店だった店舗数は、わずか6年ほどで4倍近くに増え、2025年には300店舗を突破した。
店舗の分布を見ると、特に首都圏では鉄道路線に沿って出店を進めているのが分かるが、これは偶然ではない。特定エリアに集中的に店を出すことで認知度を高め、物流や人材面の効率も上げる「ドミナント戦略」を採用したためだ。例えばJR京浜東北線では、大宮〜赤羽間の駅前には複数のバーガーキングがある。この地域に住む人にとっては、自然とよく見かける店となり、ブランド認知が高まっている。
近年は、マクドナルドの値上げが続いたことで価格帯も近づいてきた。「ビッグマック」は480円〜に対し、バーガーキングの主力「ワッパー」は590円。100円ほど高いものの、直径12センチの大きなバンズ、肉厚のパティ、店内カットの新鮮な野菜など、体験価値を考慮すればワッパーを選ぶ消費者も多いだろう。
●ファンを巻き込んだ出店拡大は吉と出るか?
2023年に代表取締役社長に就任した野村一裕氏は、キリンビールで営業やマーケティングを担当した後、2019年にマーケティングディレクターとしてビーケージャパンに入社した人物だ。
ユニークな取り組みとして挙げられるのが、ファンから出店候補地を募る「バーガーキングを増やそう」キャンペーンである。これまでに2回実施し、紹介された物件が成約に至った場合は賞金を支払うという、気前の良い仕組みになっている。昨年は7万8000件を超える応募が集まり、その中から12店舗を出店。12月に一挙25店を全国に出店するが、そのうち10店が当該キャンペーン対象店だ。このように、ファンとともに新店舗を増やしていく戦略により、バーガーキングの出店ペースは今後さらに加速していきそうだ。
勢いに乗るバーガーキングだが、ゴールドマン・サックスの投資判断が吉と出るか凶と出るか。現状の勢いなら期待が持てるのではないだろうか。
(長浜淳之介)
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