侍ジャパン・井端弘和監督◆ 白球つれづれ2026・第10回
井端ジャパンがWBC(ワールドベースボールクラシック、以下同じ)東京ラウンドの1位通過を決めた。
開幕2連勝の勢いで迎えたオーストラリア戦は、終盤まで緊迫した展開が続いたが、吉田正尚選手の逆転本塁打や代打・佐藤輝明選手の適時二塁打などで逆転勝ち。60年ぶりとなる「天覧試合」は最高の結末を得た。
東京ラウンドは、10日にチェコ戦を残しているが、ひとまず3連勝の戦いを総括してみる。
初戦の台湾戦が13−0。第2戦の韓国戦が8−6。そしてオーストラリア戦は4−3。
3戦合計は得点25に対して失点は9だから、一見楽勝に見える。しかも得点の大半が大谷翔平、鈴木誠也と吉田というメジャーリーガーたちのアーチ競演。力でねじ伏せる豪快さばかりが目立った。
しかし、楽勝だったのは台湾戦だけだ。韓国と豪州戦はいずれも逆転勝利。それも一歩間違えば敗戦となってもおかしくない展開だった。
第6回を数えるWBCにあって、侍ジャパンは劇的な変質を遂げている。何より特徴的なのはメジャー侍が圧倒的な力を持つようになったことだ。
メジャー組の招集は過去最多の9人(パドレスの松井裕樹が辞退で現在は8人)打線を見ても大将格の大谷を筆頭に鈴木、吉田、さらに今季からメジャー挑戦の岡本和真に村上宗隆選手と重量級がズラリ。投手陣でも先発は山本由伸、菊池雄星、菅野智之の3投手。もはや侍ジャパンもメジャー組なしでは成立しない時代である。
こうなると、戦い方そのものも変わって来る。
日本野球と言えば、盗塁、スクイズにヒットエンドランといった小技を絡めた接戦に強い機動力と組織力の野球が特徴だった。
前回大会で言えば準決勝のメキシコ戦。1点ビハインドの9回。塁上には大谷と代走の周東佑京を置いて村上が起死回生の中越え二塁打。周東が俊足を飛ばして一塁から一挙生還してサヨナラ勝ちをおさめたシーンが印象深い。
だが、本大会の3試合を見る限りでは、周東に2盗塁が記録されているものの、小技や堅守と言った隙の無い日本野球は影を潜めている。
特にオーストラリアに苦しめられた第3戦では、毎回のように塁上を埋めながら12四球で11残塁。しかも攻守に雑な凡ミスが露呈する。
四回二死満塁、打者・大谷の場面で二走の牧秀悟選手が不用意な飛び出しで捕手からの牽制に憤死。六回の一死二塁のピンチではオーストラリアのホワイトフィールド選手に三盗を許し、さらに若月健矢捕手が悪送球を犯して先制点を献上している。いずれも緻密な野球を求める侍ジャパンでは、あってはならないミスが続いた。
力でねじ伏せた東京ラウンドでは、これで通用したかも知れない。
しかし、フロリダで戦う準々決勝以降はベネズエラ、ドミニカ共和国、アメリカと超難敵が揃う。昨季55本塁打の大谷に、32本塁打の鈴木(吉田は4本)を擁しているとは言え、パワーだけでライバルを倒せるとは思えない。そこで必要となって来るのが、これまでの日本野球だが、力比べの重量打線では緻密さを求めるのは難しい。事前の強化試合で周東や牧原大成、小園海斗選手ら“機動部隊”を使った秘密練習を行ったフシもない。
そもそもメジャー選手がこれだけ増えると事前合宿の集合日はバラバラ。しかも強化試合の出場にも制限がかかり彼らの出場は2試合に制限された。これでは全体の練習も不足するし、意思疎通をはかるのも難しくなる。そこにピッチクロックやピッチコムらが導入されたから、そちらの習得に手一杯となる。
打球速度が格段に速くなるフロリダラウンドでは外野手の守りもより重要になる。果たして鈴木、吉田、近藤の守備力で大丈夫なのか? 試合の最初から周東や牧原などスピード型の起用はないのか?
投手陣でも抑えの切り札・大勢の出来に不安がある以上、再編に迫られている。
現役時代は守備の名手と勝負強い打撃で鳴らした井端弘和監督の目指す野球は現時点では見えていない。
従来の小技を絡めた日本式野球に戻るのか? それとも近藤、岡本、村上の浮上を待ってこれまで通りのメジャー流で世界一を狙うのか?
今後の侍ジャパンの“流儀”も問われる新たな戦いが始まる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)