限定公開( 3 )

カンロ(東京都新宿区)の「ヒトツブカンロ」事業が好調だ。飴(あめ)やグミをギフト向けに展開し、2023年には100個限定で販売した1万円のギフトボックスが約9時間で完売。看板商品「グミッツェル」(1個190円、6個セット1100円)は、累計3300万個以上を販売し、同事業は2025年度に過去最高の売上高を更新した。手頃なおやつを、なぜ高単価ギフトとして成立させることができたのか。
カンロはロングセラーの「カンロ飴」など、老舗の飴メーカーとして知られる。近年は、ピュレグミなどグミ事業でも存在感を高めている。一方、飴の価値向上を目的に、創業100周年を迎えた2012年、グランスタ東京(東京駅)に直営店「ヒトツブカンロ」をオープンした。
飴は気軽に人にあげられるコミュニケーションツールだが、単価が低く、日常的なおやつの域を出にくい。「飴が持つ可能性をどう伝えていくかが大きな課題だった」と、カンロ新規事業本部ヒトツブ事業部長の金澤理恵氏は振り返る。
直営店という形を選んだのは、看板商品の一つである「グミッツェル」が割れやすく、一般流通での取り扱いが難しかったためだ。配送から販売まで、自社でコントロールできる環境が必要だった。
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●「ご褒美」から「ギフト」へ
オープン当初、ヒトツブカンロは丸の内のオフィスワーカーが「自分へのご褒美」として購入することを想定していた。しかし、オープンすると、観光客や出張帰りのビジネスパーソンの利用が目立つようになった。
当初は商品をバラ売りで展開していたが、来店客から「お土産用に箱入り商品がほしい」「セット商品があるとうれしい」という声が相次ぎ、約半年後には箱入り商品を投入。ギフトとしての需要を本格的に取り込んだ。顧客の反応をすぐに商品に反映できる直営店ならではのスピード感が、ギフトブランドへの転換を可能にした。
ギフトとしての体験価値を高める上で、デザインへのこだわりも大きい。根底にあるのは「見たときに誰かにあげたいと思わせる」という発想だ。ボックスタイプの商品には、食べ終えるとメッセージが現れる仕掛けを用意するなど、渡した後にも会話が生まれるよう工夫した。
ブランドカラーにはネイビーを採用し、フォーマル感と誠実さを表現した一方で、商品自体はカラフルに仕上げ、飴ならではのポップさや気軽さも両立。ターゲットを性別や年代で絞らず、「ギフトを贈りたい人」に向けて設計していることも特徴だ。
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飴やグミには日常的なおやつというイメージがあるからこそ、渡す側も受け取る側も気負わずに済む。この気軽さにデザインの力でギフトの体裁を加えた。
●「1万円で売れる」というインパクト
ギフトブランドとしての手応えをつかむと、来店客の声を受けてグミッツェルをバラ売りから6個セット、12個セット、30個セットへと段階的に拡大。5000円のボックスセットも投入し、どこまでの価格なら許容されるかを顧客の反応を確かめながらテストした。
その延長線上に生まれたのが、2023年に発売した1万円のギフトボックス(100個限定)だ。中身はグミッツェルと、"もふふわ"食感マシュマロ「mofuwa」の詰め合わせで、金澤氏もチャレンジングな価格だったと認めつつ、「1万円でも売れるという世の中へのインパクトを出したかった。ギフトとしてきちんと認知してもらいたかった」と語る。
このギフトセットは約9時間で完売するなど、社内でも想定外の反響だった。「1万円のお菓子を贈るのは、会話のきっかけになる。コミュニケーションの一部として評価いただいた」と金澤氏は分析する。
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グミッツェルのパリパリとした咀嚼(そしゃく)音がASMR(聴覚を刺激して心地よさを感じさせる動画)としてSNSで広がり、ユーザーが急増したことも要因だ。
2025年には、飴とグミの両方を詰め合わせた8000円のギフトボックスも発売し、中元や歳暮などフォーマルなギフト需要を捉えて好調だった。今後、再び1万円前後のギフトボックスを展開する構想もあるという。
また、グミッツェルの認知度の向上は、販路の拡大にもつながった。コロナ禍で実店舗がクローズした際、全国から「買いたい」という声が寄せられたことをきっかけに、ECを緊急で立ち上げたほか、2024年6月にはサブスクの「グミッツェル for me」を開始。
毎月届く商品に開発者のこだわりを記したメッセージカードを同封するなど、ブランドの世界観を伝える場としても機能させ、会員数は右肩上がりで増加している。
●グミに抜かれた飴市場
ヒトツブカンロの成長を牽引しているのは、グミッツェルをはじめとするグミ商品だ。カンロはグミ事業を成長ドライバーと位置付け、長野県の朝日工場にグミラインを増設し、2027年7月に生産能力を約5割引き上げる計画を進めている。
一方で、飴のギフト展開にはグミとは異なる難しさがある。インテージの調査によると、国内のグミ市場は2025年に1297億円に達し、飴の市場規模を上回った。これは5年前の2.3倍という急拡大だ。
グミはさまざまな形や食感で商品を展開しやすく、市場の流れとして飴が押されているのは否めない。ただ、金澤氏は「飴は若年層の掘り起こしができていない。そこに可能性がある」と語る。
カンロでは大学生との共同研究で「なぜ飴から離れてしまうのか」を探っており、その知見をヒトツブカンロの商品企画にも取り入れていく考えだ。
飴市場の掘り起こしという課題を抱えつつも、ヒトツブカンロは認知拡大の手を打っている。ポップアップストアの全国展開に注力しており、羽田空港や百貨店など、ギフト需要が見込める場所を中心に出店している。
狙いは単なる認知拡大にとどまらない。カンロによると、ポップアップ開催後はECの売り上げが伸びるという。常設店を増やす代わりに、ポップアップでブランドとの接点をつくり、ECにつなげている。
●常設店は増やしすぎない
2026年1月にグランスタ東京店が閉店し、現在の常設店は原宿の「ハラカド」内の1店舗のみだが、5月20日に新宿伊勢丹店をオープンする。ギフト需要が強い百貨店という立地を選び、伊勢丹新宿店限定セット(3601円)も用意する。
ただし、常設店を大量に展開する考えはないという。「常設店はお客さまと向き合って、深くファンになっていただくための場所。大規模に増やすことは考えていない」と金澤氏は語る。
多くの人にブランドを知ってもらう役割はポップアップストアが担い、そこからECへとつなげる。常設店はファンの育成と顧客の声の収集に徹するという役割分担だ。
一方で、筆者が原宿店を訪れた際、気になったのはインバウンド客の取り込みだ。原宿店は訪日外国人が多く訪れるエリアにあるが、購入するにはLINEのデジタル整理券が必要なため、海外からの来店客にとってはハードルが高い。
ハラカドの別フロアに不定期で整理券不要の販売機会も設けているが、ギフト向けの商品特性と立地のポテンシャルを踏まえると、インバウンド向けの認知拡大を含めた対応が今後の課題となりそうだ。
ヒトツブカンロは、2030年に売上高25億円の目標を掲げている。飴の価値を高めるという課題から始まった事業は、顧客の声をもとにギフトへと軸足を移し、直営店、EC、ポップアップそれぞれの役割を明確にすることで、13年をかけて過去最高売上を更新する事業に育った。
若年層の飴離れや、インバウンド対応といった課題は残るが、ヒトツブカンロは手頃なおやつがギフトになることを証明している。
(カワブチカズキ)
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