限定公開( 1 )

今年、日本のテック界隈はかなり忙しい年になりそうだ。AI搭載スマートグラスは次々と日本市場に参入し、ようやく市場が立ち上がってきた印象がある。スマートウォッチは堅調で、例年秋口には新製品で賑わうのが恒例となっている。
一方で立ち上がりは早かったものの、日本ではあまり普及の糸口が掴めていないのが、スマートリングである。指輪型のウェアラブルデバイスに様々な機能を持たせたものだ。ところが今年に入り、インフルエンサーを中心にスマートリングの露出が急速に高まっている。
そもそもスマートリングは、電子決済系、通知系、健康トラッキング系の3タイプに分類できるようだ。
スマートリングの元祖ともいえる製品は、2013年に登場した「NFC Ring」だ。名前の通りNFC技術を搭載し、スマートフォンのロック解除やドアの開錠、認証などに利用する。電源を必要としない、いわゆるパッシブ型だが、決済機能は搭載しなかった。これが後に、電子決済系へと進化していく。
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同じく13年にクラウドファンディングで発表された「Smarty Ring」は、スマートフォンと連携して通話やSMSなどの着信通知や置き忘れ警告などを発するという、通知系の先駆け的なコンセプトだった。ただし量産出荷には至っていない。
この系統は後にリング上に小さなディスプレイを搭載し、簡単な表示も可能になっていく。スマートウォッチの簡易版といった方向性だ。Amazonも音声対応の「Echo Loop」という指輪型のEchoを19年に試験的に発売したが、一般販売には至らなかった。現在、通知系のリングは、ほぼ市場から姿を消している。
健康トラッキング系としては、15年にフィンランドの「Oura」が初めて、スマートリングに健康トラッキング機能を搭載した。スマートウォッチの小型化ではなく、純粋にトラッキングするだけのセンサーという方向性を見出したといえる。現在もOuraは世界シェアではトップだ。
日本企業としては22年に「SOXAI(ソクサイ)」が市場参入し、日本ではこちらのほうが普及していると思われる。また24年には韓国Samsungが「Galaxy Ring」としてグローバル市場に参入し、日本では25年2月に発売された。これでスマートリング市場は、トラッキング系が主流ということが確定した格好だ。
筆者はこれまでスマートリングを使ったことがなかったのだが、サンプルとして 「Ultrahuman Ring AIR」をご提供いただいた(機材協力:Ultrahuman)。Ultrahumanは19年にインドで創業し、22年に同社初となるスマートリング「Ultrahuman Ring」を発売した。後継のRing AIRは 23年に発売されている。公式サイト価格は349ドルとドル建てとなっているが、日本での希望小売価格は5万9800円。日本市場には24年より参入している。
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今回はUltrahuman Ring AIRの使用体験をもとに、スマートリングの市場性について考えてみたい。
●Ultrahuman Ring AIRでできること、できないこと
スマートリングは量販店などでも取り扱いを開始しているところだが、スマートウォッチと違ってサイズがベルトで調整できるようなものではないので、サイズが問題になる。
UltrahumanのECサイトで購入した場合は、まずはサイズを測るためのキットが送付され、それでサイズを確認したのち製品が送付されるという段取りになる。
サイズ確認用のリングは、あまりゆるゆるでもなく、手を握ったときにきつくなく、他の指にも付け替え可能なサイズを選ぶ必要がある。例えば指を怪我したとか、かぶれたといった場合に他の指に付け替える必要があるからだ。
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指のサイズは時間帯によっても変わるので、Ultrahumanでは2晩ほどはめたままで問題ないか試してみることが推奨されている。どの指にはめるかという問題もあるが、筆者は人差し指を想定し、いざとなれば薬指にも付け替えられるサイズを選択した。
またサイズキットにはカラーのサンプルも付属している。色味や質感が現物と同じように確認できるのはありがたい。今回は肌色に近く目立たないカラーとして、ローズゴールドを選択した。
実際のリングは、指輪としてはやや厚みがある。センサーや基板、バッテリーが内蔵されているため、そこはしかたがないところだ。内径は1カ所だけ平たくなっている部分があり、そこにセンサーがある。この部分を手の平側になるように装着する。
充電は専用充電器で行う。ゼロからフル充電までは3時間かかるので、特にセンシングが必要のない時間帯に継ぎ足し充電を行っておくというスタイルになる。バッテリー寿命は4日〜6日となっているが、動作モードによって変わる。
Ring AIRは装着するとすぐに計測が始まり、ある程度のデータは確認できる。正確な身体パターンを学習するためには、2週間のキャリブレーション期間が必要になる。本番は2週間後からというわけだ。
スマートリングで取得できるバイタルデータは、心拍数、皮膚温度、血中酸素濃度など、スマートウォッチが取得できるデータとそれほど違いがあるわけではない。それらを分析して、睡眠、運動、回復、ストレスといった要素へと整理していく。
スマートウォッチの場合はウォッチ自体にモーションセンサーやGPS受信機を搭載しており、移動スピードや移動距離などから運動の種類を推測して、自動的にトレーニングモードに移行するものが多い。
一方、スマートリングはモーションセンサーは搭載するもののGPSは受信できず、距離やルートの計測はスマートフォン側に依存する。Ultrahumanでは歩行や走行などの運動を自動検出できるが、種目の確定はユーザー確認が前提だ。一方睡眠状態はかなり細かくモニターしており、日々の連続値を取得することで、睡眠効率や回復率などを分析する。
Ultrahumanの場合、基本的な機能は無料で利用できる。他のスマートリングでは、継続的な利用にはサブスク料金がかかるものもある。リングが買い切りかどうかは、長期間の利用ではかなり大きく効いてくる要素だ。
Ultrahumanでは、基本機能以外はオプションとして、パワープラグ(PowerPlugs)として追加できるようになっている。パワープラグには無料のものもあるが、一部はサブスクのものもあるといった格好だ。
睡眠に関しては、体内時計の調整のため、日光浴するタイミングなども提示してくれる。ただスマートリングはスマートウォッチのように振動したりメッセージを表示したりするわけではないので、スマホを見なければ通知に気が付かないことも多い。このあたりが現時点での課題といえるだろう。
スマートリングには通知系のものも存在したが、スマートウォッチの普及によって次第に市場がなくなっていった。現在、健康トラッキング系リングは、単にセンサーの塊だが、今後は通知機能を搭載する方向性も出てくるかもしれない。
●日本に市場はあるか
日本では、スマートリングの市場はそれほど大きくない。考えられる理由としては、スマートウォッチの普及はかなり進んでいることもあり、健康トラッキング系の機能はスマートウォッチがカバーしている点はあるだろう。
もう1つは指輪をすることに対して、社会的コンセンサスがあまり高くないことが挙げられる。もちろんプライベートではファッションとして普及しているが、仕事中に指輪をしている人は、アパレルやファッション系以外ではそれほど多くないのではないか。例えば指輪が原因で商品が傷つくとか、衛生面で外さざるを得ないとか、逆に指輪が傷つく可能性があるなどの理由が考えられる。
こうした条件をクリアした上でスマートリングが普及するかは、むしろスマートウォッチがどう進化するか、というところにかかっている。例えばスマートウォッチで睡眠をトラッキングできたとしても、バッテリーが2日程度しか持たないというのでは、連続的なトラッキングは難しい。普通は、時計を使わない時間は睡眠時である。
むしろ常時センサーを動かす生体トラッキングはスマートリングに任せて、スマホの通知連携に特化して駆動時間を延ばすか、あるいは運動する際に装着するといった、フィットネス専用に特化する動きがあってもおかしくない。
また近年、スマートグラスのようにAIをウェアラブルデバイスに搭載する流れになってきている。この路線で行けば、スマートウォッチにAIが載るという方向性もありうる。そうなれば、スマートウォッチの役割自体が変わってくるだろう。
同じ目的のために、高価なデバイスを2つ使用することはあり得ない。実際に使ってみるとスマートリングも悪くないと思えるのだが、普及に至るにはスマートウォッチとどう住み分けるのかのロジックが完成しないと、難しいように思える。
一方で、住み分けなど必要なく流行に乗るという見方もある。先週もお伝えしたように、日本は、不眠に対して自己責任を強く求める社会である。よって睡眠を積極的に管理する方向性は、年々強まっている。
23年に公開された「ポケモンスリープ」は、1年で100万MAUを記録し、2位の米国を2倍以上引き離して、日本がトップである。
着るだけで疲労回復をうたうリカバリーウェアは、22年に薬機法上の品目が追加されたことで市場環境が整い、30年には1700億円規模になるという予測もある。
睡眠関連商品の隆盛によって、スマートウォッチとは別の文脈でスマートリングが波にのる可能性がある。寝るときに時計は外したい、寝ているときにスマートウォッチを充電したいといったニーズにも合致するだろう。
世界的に見ても、スマートウォッチに比べてスマートリングは、市場規模としてはまだ取るに足らないレベルである。だが日本の睡眠市場の規模は拡大しており、事業者にとってはかなりのブルーオーシャンに見えているはずだ。
この流れに乗って日本でどのぐらい普及するのか、プロモーション戦略も含め、注目しておきたい。
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