
どちらもステーキやハンバーグを提供する業態でありながら、株式市場での扱いはここまで違うのか――。
「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービスの株価は、ブームの絶頂だった2017年10月30日に上場来高値8230円をつけた。それが記事執筆時点では210円前後で推移している。実に40分の1の水準である。
一方、名古屋発の炭焼きステーキチェーン「ブロンコビリー」は対照的だ。2026年12月期上期は売上高・純利益とも過去最高を更新。営業利益は前年同期比57.5%増加した。7月には通期純利益予想を32%増の26億円へ上方修正している。株価は年初来で4割近く上昇しているなど力強い。
かつて「いきなり!ステーキ」といえば外食の風雲児的存在であり、ブロンコビリーはというと地方の堅実なチェーンにすぎなかった。両社を比較すると、立場が逆転した理由が浮き彫りになる。
|
|
|
|
●1000円だった300グラムのいきなり!ステーキは、いまや2920円
実をいうと、筆者はいきなり!ステーキの会員プログラムである「肉マイレージ」の上位ランク「プラチナ(20キログラムのステーキを食べた証)」まで到達した身である。
筆者は2018年から毎日のように足を運ぶようになったが、当時300グラムの「ワイルドステーキ」の価格が1529円だった。それが、2026年6月現在で2920円。およそ2倍に上昇している。
冷静に考えれば、この値上げ自体は妥当である。輸入牛肉の価格は上がり、人件費も光熱費も円安も重なった。2018年には期間限定ではあるがこの時は300グラムのステーキが1000円で提供されたこともある。おにぎりでも1個200円や300円でも珍しく無くなった今日から振り返れば、まさに破格といえるだろう。
だが、頭では妥当だと分かっていても「1000円台」と「ほぼ3000円」では印象がまるで違う。
|
|
|
|
そしてこの印象こそが、価格の安さを押し出していた業態にとって致命傷になる。1000円台という記憶が強烈であるほど、2920円の現実は割高に感じられてしまう。
●6年で490店、5年で171店まで縮小
いきなり!ステーキの歴史は、外食史上まれに見る急膨張と急収縮の記録ともいえる。
2013年に銀座で1号店を開いた同チェーンは、2016年末に116店、2017年末には186店へ拡大し、ピークの2019年12月には490店に達した。だがそこから閉店が相次ぎ、2026年2月時点の店舗数は171店。ピークの3分の1近くまで縮んだ。
急成長の原動力は「立ち食い・量り売り・都心一等地」という高回転モデルだった。厚切りステーキを安く速く提供する新奇性は、市場を切り開く存在であった。
|
|
|
|
だが1年で100店を超えるペースの出店は、商圏の食い合いと新奇性の低下を同時に招くことになった。2019年12月期には純損失27億700万円の赤字に転落し、以後は閉店による止血が続いた。
ただし見落とされがちだが、ペッパーフードサービスの業績は足元で回復しつつある。
2026年12月期第1四半期は売上高38億2100万円(前年同期比10.7%増)、営業利益8900万円と黒字転換を果たし、8月14日には上期利益見込みを2億4600万円まで上方修正した。名物だった「オーダーカット」を廃止して定量のカット肉に切り替えるなど、オペレーションの標準化も進む。
ただし、成長路線を取り戻すには依然として長い道のりとなりそうだ。
●値上げしても客が減らないブロンコビリー
対するブロンコビリーはどうか。ブロンコビリーは、1978年に愛知県名古屋市で創業した、東海地方を基盤に郊外型ロードサイド店舗を展開するステーキ・ハンバーグレストランチェーンである。炭火焼きの肉料理と充実したサラダバーを強みに高収益体制を築いている。
ブロンコビリーで注目すべきは増益の中身だ。
同社は2025年11月に値上げを実施し、2026年4月にサラダバーを「ブロンコビュッフェ」へリニューアル。客数を維持しながらも、客単価を上げることに成功した。
しかしなぜ客が離れないのか。まずは直営主義だ。同社はフランチャイズ展開をせず、全店を直営で運営する。出店速度は年10店前後とペースは決して早くない代わりに、品質統制や店舗人材の教育に力を入れている。
内製化している点も見逃せない。同社は1993年に自社加工工場を開設し、現在は愛知と神奈川の2拠点でステーキ、ハンバーグ、ソース、ドレッシング、ケーキまでを自社製造する。製造から店舗までを握る「製造小売」に近い構造が、原材料高の局面でも粗利を守る緩衝材になっている。
●「安さが価値」の店は、値上げの時代に苦境へ
いきなり!ステーキの価値の中核は「安く早くステーキが食べられること」、すなわち価格そのものだった。価格が売りの業態は、インフレで値上げを迫られた瞬間に存在理由が揺らぐ。
一方で、ブロンコビリーの価値の中核は、炭焼きの香りとサラダバーと店の空気、つまり「そこで過ごす時間」にある。価格は価値の一部であるため、値上げしても客は離れにくい。
むしろ値上げで得た原資を商品開発や研究に再投資し、顧客体験をさらに厚くする循環を回している。
ブロンコビリーにも試練はある。
成長の次の一手として西日本への出店を進めるが、これまでの成功が通用した得意エリアを外れた地域だ。ここでも同社のビジネスモデルが通用するかは未知数だ。
直営主義ゆえに出店を急げば、強みである店長育成が追いつかなくなる。同社の快進撃が本物かどうかは、拡大の速度をどこまで我慢できるかで決まる。
最後に一言添えたい。いきなり!ステーキは、今も決して悪いわけではない。300グラムで2920円という価格は、1000円台だった記憶と比べれば確かに高い。だがファミリーレストランや他のステーキ業界を見渡しても、同じ厚みの肉を、この価格で焼いてくれる店はそう多くない。
変わったのは肉の品質ではなく、かつての過剰なブームが植え付けた消費者の記憶(バイアス)ではないか。急激な店舗拡大期に生じたネガティブなイメージが払拭され、そのコストパフォーマンスが正当に再評価されれば、同社が復権する日もきっと遠くないだろう。
FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経て株式会社X Capitalへ参画。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。