
9月3日は、秋の「睡眠の日」だ。
【画像で確認】日中の過度な眠気による勤務中の悪影響(調査データ)
睡眠計測アプリや機能性寝具などの睡眠関連市場は拡大を続けている。2026年6月には医療法施行令が改正され、内科などと組み合わせて標榜(ひょうぼう)できる事項に「睡眠障害」が追加された。睡眠を巡る社会の関心は、確実に高まっている。
そんな中「睡眠時間は足りているはずなのに、日中は頭が働かない」と感じた経験がある読者の方も多いのではないだろうか。こうした「寝ても眠い」状態に着目したのが野村総合研究所(NRI)だ。
同社は8月26日にメディアフォーラムを開き、眠気による経済損失の推計を発表した。日中の過度な眠気による経済損失は「年間約19.8兆円」に上り「寝ても眠い」層だけで、年間5兆円を超える労働生産性の損失が見込まれるという。
|
|
|
|
同フォーラムには、同社ヘルスケア産業コンサルティング部グループマネージャーの若林城将氏、シニアコンサルタントの芦川仁美氏と宗俊吾氏、コンサルタントの竹原佳歩氏が登壇。日中の眠気を個人任せにせず、企業の経営課題として捉え直すべきだと提言した。
「寝ても眠い」を経営課題と言い切る、その根拠となるデータとは?
本稿は、2026年8月26日に野村総合研究所が開催した「第411回NRIメディアフォーラム『「日中の過度な眠気」の経済インパクト〜企業の生産性向上・経営リスク低減に向けて〜』」の内容を一部抜粋・編集したものです。
●「寝ても寝ても日中眠い」 睡眠時間が足りていても「眠気」に悩む層がいる
日本の平均睡眠時間は7時間42分。OECD(経済協力開発機構)の調査では、35カ国中最下位だ。米シンクタンクのRAND研究所は、日本の睡眠不足による経済損失を年間約20兆円規模と試算している。
|
|
|
|
※参照:野村総合研究所「第411回NRIメディアフォーラム」発表資料(2026年8月26日)。以下の調査数値・事例も同資料および当日の発表による。
こうした議論では、これまで「睡眠時間が足りているか」が大きな焦点の一つになってきた。しかし、NRIは、睡眠時間だけでは捉えきれない問題があると指摘する。
「日中に強い眠気を感じたとき『昨晩の寝不足が原因か?』と思われる方が多いのではないでしょうか。しかし今回の調査からは、夜に十分な睡眠時間をとっていても、日中に過度な眠気を感じている層の存在が明らかになりました」(芦川氏)
日中の眠気は、睡眠時間の不足だけで生じるものではない。睡眠の質や心身の不調など、背景にはさまざまな要因がある。そこでNRIは、2026年5〜6月に実施した調査で「夜にどれだけ眠れているか」と「日中にどれほど眠気を感じているか」を分けて分析した。
日中の眠気の評価に用いたのが、国際的な指標「エプワース眠気尺度」(ESS)だ。ESS5点以下を「眠気なし群」、6〜10点を「軽度眠気群」、11点以上を臨床的にリスクがあるとされる過度な眠気を自覚している「日中の過度な眠気(EDS)群」とした。
|
|
|
|
睡眠時間が足りているかどうかを見るだけでは、日中に仕事へ支障を来すほどの眠気を抱えている人を捉えきれない。芦川氏は、夜の睡眠だけでなく、日中の状態にも目を向ける必要があると語る。
「これからは『夜にしっかり眠れたか』だけでなく『日中に能力を発揮できる状態を維持できているか』という観点も含めて評価していく時代に入っていると考えます」(芦川氏)
●日中の眠気、経済損失は年19.8兆円 「寝ても眠い」層だけで「5兆円」超え
そこでNRIは、日中の眠気の度合いとは別に、夜の睡眠を「睡眠十分」と「睡眠不十分」に分け、2つの軸を掛け合わせて分析した。
「睡眠十分」は、平日の睡眠時間が6時間以上あり、入眠困難や中途覚醒、早朝覚醒といった不眠症状が週2日以下の人を指す。調査は2026年5〜6月に実施し、一次調査で18〜75歳の男女6万9318人、詳細調査で就業者5150人から回答を得て、人口構成比に合わせて拡大推計した。
その結果、就業者のおよそ3人に1人がEDS群に該当した。さらに、そのうちの約3割は「睡眠十分」に分類されていた。つまり、就業者全体のおよそ10人に1人が、NRIの基準では夜の睡眠が十分とされながら、日中に過度な眠気を感じている計算になる。NRIは、この層を従来の「睡眠不足」という文脈だけでは捉えきれなかった領域と位置付ける。
NRIはさらに、睡眠十分・不十分を含むEDS群全体について、眠気による労働生産性の低下を金額に換算した。
測定に用いたのは、労働生産性を評価する国際的な質問票「WPAI-GH」(Work Productivity and Activity Impairment Questionnaire General Health)だ。健康問題による欠勤などを示す「アブセンティーズム」と、出勤していても健康問題によって本来のパフォーマンスを発揮できない「プレゼンティーズム」の2つから生産性の低下率を算出。就業者数と平均年収を掛け合わせて、日本全体の損失額を推計した。
その結果、EDS群全体による経済損失は年間約19.8兆円に上った。従来指摘されてきた睡眠不足による損失と同等の規模だ。
内訳を見ると、睡眠不十分のEDS群による損失は約14.5兆円。睡眠十分のEDS群による損失だけでも約5.3兆円に上る。「寝ても眠い」層だけで、年間5兆円を超える労働生産性の損失が生じている計算だ。
ただし、19.8兆円や5.3兆円の数字に含まれるのは、欠勤や生産性低下を年収換算した労働生産性の損失に限られる。事故やインシデントによる損害、離職コストなどは含まれていない。
●「会議中に意識が飛ぶ」「作業スピード低下」 職場でヒヤリハットの経験も
前述した経済損失は、欠勤や仕事中の生産性低下を金額に換算したものだ。その背景にある具体的な支障をみるため、NRIがEDS群と「眠気なし群」を比較したところ、EDS群では日常業務のさまざまな場面で支障が多く見られた。
「会議中やPC作業中に意識が飛ぶ・うとうとする」と回答した割合は、EDS群の30.0%に対し、眠気なし群は1.3%。その差は22.7倍に上った。
他にも「作業スピードが極端に落ちる」は16.8倍、「入力ミスなどの単純ミスが増える」は13.5倍だった。
こうした眠気は、本人にとっても自分の意思だけでは制御しにくい。EDS群の41.0%は、眠気をコントロールできないことに苦痛や不安を感じていた。さらに34.0%には「やる気がない」「怠けている」と周囲から誤解された経験があった。
そして、仕事上の支障が重要な判断や安全確認に及ぶと、問題は個人の作業効率だけでは済まない。重要な商談や会議で内容が頭に入らない、重要な判断を先送りする、書類やPCを置き忘れたり誤送信したりする、安全確認の手順を飛ばす、運転・機械操作中に事故直前の状況になる……。こうしたヒヤリハットの経験率は、EDS群では眠気なし群の3〜12倍に上った。
中でも、安全に直結する業務ではリスクの大きさが目立つ。運転業務に従事するEDS群では、49.0%が運転・操作中に「ハッとしてブレーキを踏む」といった事故直前の体験をしていた。
重要な意思決定を担う管理職でも、仕事上の支障が確認されている。部長・課長級のEDS群では、53.0%が「重要会議で居眠りをした、内容が頭に入らなかった」と回答。47.0%が重要書類やPCの置き忘れ・誤送信を、46.0%が重要な判断の先送りを経験していた。
こうしたデータを踏まえ、宗氏は日中の過度な眠気を、単なる個人のパフォーマンス低下ではなく、企業が向き合うべきリスクとして捉える。
「重要な意思決定や組織マネジメントを担う管理職や、安全第一の現場における過度な眠気は、企業にとって致命的な経営リスクとなり得ます」(宗氏)
●医療機関の受診経験は13% 未受診者の半数が「ただの疲れ」と判断
このように、EDS群では日中の眠気が仕事や判断、安全にまで支障を及ぼしている。ただそれは、EDS群の当事者たちが眠気を放置しているからではない。
調査の結果、眠気を感じたときにその場で眠気を覚まそうと身体を動かす人は53.0%、カフェインや食べ物を取る人は43.0%、仮眠を取る人は41.0%に上っている。日常的な対策でも、EDS群は眠気なし群に比べて、サプリメントや寝具、アプリなど外部の製品やサービスを活用する傾向が見られた。
セルフケアにとどまらず、医療機関や産業医に相談する人もいる。医療機関や産業医に相談したEDS群では、33.0%が「高い効果を実感した」と回答している。
ただ、EDS群全体に目を戻すと、医療機関を受診した経験がある人は13.0%にとどまる。受診しない理由として多かったのは「単なる睡眠不足や疲れだと思うから」で51.0%を占めた。その一方で、EDS群の58.0%は、我慢できないほどの強い眠気を経験していた。さらに、気分の落ち込みなど抑うつに関連する症状や、睡眠時の呼吸停止・激しいいびき、入眠困難や中途覚醒といった症状も4割前後に見られた。
「日中の過度な眠気は、身体・精神の健康課題を示す重要なサインです」(竹原氏)
さらに、職場で取れる対策には、本人の意思だけでは決められないものもある。EDS群の半数以上は、自身の体質や不調に対する職場の理解が十分ではないと感じていた。仮眠や柔軟な働き方、体調についての相談がしにくい職場環境も、日中の眠気への対処や早期受診を妨げる要因になるという。
自分で眠気をしのぎ、製品やサービスも試している。しかし、必要に応じて医療機関を受診することや、職場で仮眠・柔軟な働き方を取りやすくすることなど、本人だけでは変えにくい部分はどうしても残る。日中の眠気への対応を、個人の自己管理だけに委ねることには限界があるのだ。
●三菱地所は昼に「仮眠」推奨 「寝ても眠い」は経営課題
個人の自己管理だけでは限界があるなら、企業には何ができるのか。一部の企業では、すでに睡眠や日中のコンディションを支える取り組みが始まっている。
例えば、三菱地所では昼に15〜30分の仮眠を推奨している。実証実験では、午後の集中スコアが5ポイント改善したという。
ウェディング事業を手掛けるCRAZY(東京都渋谷区)は、一定時間以上の睡眠を取った社員にポイントを付与する「睡眠報酬制度」を導入。平均睡眠時間は5.5時間から6.1時間に伸びたという。
SOMPOひまわり生命保険では、睡眠データの可視化に、研修や専門家への相談を組み合わせた。その結果、睡眠満足度は12.0%から65.0%へ上昇した。
このように、仮眠しやすい環境をつくる、睡眠習慣の改善を後押しする、睡眠状態を把握して専門家につなぐなど、さまざまな方法で企業も働きかけている。
ただ、こうした取り組みは、まだ誰もが利用できるものではない。NRIの調査では、就業者の約7割が「勤務先で利用できる睡眠関連制度がない」と回答した。
勤務先に利用できる制度がないという「制度不足」に加え、制度があっても使われない「活用不足」、支援が必要な人を把握できない「発見不足」も課題となる。つまり、制度を用意するだけでは十分ではない。
そこでNRIが提言するのが、個人任せの「点の支援」から、継続的な「線の支援」への転換だ。
年1回から数回、ストレスチェックなどと合わせて日中の眠気やコンディションを把握する。その結果に応じて、労務環境の整備や睡眠改善プログラム、医療機関の受診・治療など必要な支援につなぎ、その後の状態まで確認する。「評価→支援→フォローアップ」を一続きにする考え方だ。
そのためには、従業員が自身の眠気や不調を安心して伝えられる環境も欠かせない。若林氏は、眠気や不調を申告しても人事評価で不利益を被らない運用を明確にし、安心して相談できる環境を整える必要があると指摘する。
重要なのは、睡眠に関する制度があることだけではない。必要な人を把握できているか、実際に使われているか、その後の改善まで追えているか。日中の眠気を経営課題として捉えるなら、企業には制度の導入だけでなく、その「届き方」まで設計する視点が求められそうだ。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。

渋谷 西武とハンズ閉店の影響は(写真:ITmedia ビジネスオンライン)41

渋谷 西武とハンズ閉店の影響は(写真:ITmedia ビジネスオンライン)41