高校生の求人倍率4.12倍、過去最高 それでも職場見学は「1社以下」? 高卒就活の不思議

3

2026年09月29日 06:11  ITmedia ビジネスオンライン

  • 限定公開( 3 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

なぜ高校生は1社しか見ない? 「1人1社制」の実態

 高校生の新卒採用が、かつてないほどの売り手市場になっている。厚生労働省によると、2026年3月卒の求人倍率は4.12倍となり、比較可能な1988年3月卒以降で最も高い水準を記録した。一方、2026年3月卒の大学生の求人倍率は1.66倍(リクルートワークス研究所調べ)で、高校生との差は大きい。


【その他の画像】


 数字上は高校生が就職先を選べる立場だ。しかし、インターンシップや説明会を重ねる大学生と比べると、高校生が応募前に企業と接する機会は少なく、主に職場見学に限られる。その職場見学も、1社で終える高校生が目立つ。


 高校生の就職支援を手掛けるジンジブ(大阪市)が、2026年4月入社の高卒社員に実施した調査では、職場見学をした企業の数は「1社以下」が4割を超えた。


 就職活動の仕組みは、大卒と異なる。学校に届いた求人票の中から教員と相談して候補を決め、学校の推薦を受けて応募するのが一般的だ。例年、求人票の公開は7月、選考の開始は9月中旬で、職場見学も主にその間の夏休みに学校を通じて申し込む。


 選考が始まってから一定期間は、1人が応募できる企業を1社に限る「1人1社制」も、都道府県ごとの申し合わせによって続いてきた。選択肢を狭める制度にも映るが、利点もある。求人が少ない年でも、多くの生徒に応募の機会が行き渡り、学校は短期間で内定まで導きやすいため授業への影響を抑えられる。企業は内定辞退を心配せず、採用計画を立てやすい。


 一方で、早期離職につながるとの指摘もあり、近年は最初から複数社への応募を認める地域も増えている。しかし、ジンジブの新田圭常務取締役によると、高校生が比較検討する企業の数は、ほかの地域とあまり変わらないという。応募の縛りを緩めても、比べる企業の数に差が出ないのはなぜか。


●解禁された複数応募の実態は


 最初から複数社への応募を認める地域は、2027年3月卒では大阪府や埼玉県など7府県になった。ほかの40都道府県でも、9月末から10月末ごろまでの期間を過ぎれば、原則として複数社に応募できる。


 ただ、2022年度から複数応募を認めている大阪府でも、制度を利用した生徒は初年度の16人にとどまった。なお、2026年3月時点でも、大阪府の就職問題検討会議は、制度の利用者は少ないと指摘している。


 理由の1つは負担だ。複数社に応募すれば、その分だけ履歴書の作成や面接練習などに時間と労力がかかる。就職希望者が多い学校では、教員と生徒の負担を考えて複数応募を勧めないケースが多いという。ジンジブが進路指導の教員237人に聞いた調査でも、1人1社制に「賛成」「どちらかといえば賛成」と答えた人は、合わせて78.9%に上った。


 もう1つの理由が、応募できる求人の範囲が限られていることだ。大阪府で複数応募できるのは、どの高校の生徒でも応募できる「公開求人」に限られ、特定の高校にだけ出す「指定校求人」は1人1社のままだ。


 新田氏は、比べる企業の数を左右していたのは地域ごとのルールよりも、学校によって届く求人の数や業界に偏りがあることだとみる。


●情報は学校を通って届く


 高校生に、企業を比較する意欲がないわけではない。合同企業説明会の来場者を対象にしたジンジブの調査では、「2社以上」の職場見学を希望する人が7割を超え、教員の約9割が複数社の見学を勧めていた。


 「多くの教員は『応募は1社』を推奨する一方、『応募前の職場見学は複数社行く』よう指導する教員も、全国的に増えている」と新田氏は語る。


 それでも、職場見学が1社以下の高校生が4割を超える背景には、情報の届き方がある。高校生が企業を知る経路は、主に学校だ。新田氏によると、応募先を最終的に決めるのは生徒だが、学校を通じた推薦が一般的なため、教員の影響力は大きい。


 先輩の入社実績がある企業を紹介されるケースが多いほか、成績上位の生徒から順に応募先を選ぶ「校内選考」を行う学校もある。つまり、生徒が職場見学先を選ぶころには、すでに候補企業が絞られている。


 候補を広げるには教員の手助けが欠かせないが、学校側にも限界がある。新田氏は「限られた教員で多くの生徒の進路を支える体制の中では、複数社の比較検討まで丁寧にサポートすることは簡単ではない」と指摘し、学校だけに頼らず情報を届ける仕組みが必要だとみる。


●届かない求人票


 情報が届かないのは、企業の側から見ても同じだ。少子化と進学率の上昇を背景に、高校生の獲得競争は激しさを増している。2026年3月卒の求人数は約49万9000人で前年とほぼ同じだった一方、求職者数は約12万1000人で、1992年3月卒の約50万人から約4分の1に減った(厚生労働省)。


 高卒採用を実施する企業からは、求人票が生徒に届かない、学校との関係づくりが難しいという声が寄せられる。「学校を訪ねてPRするか、求人票を高校に送る現在の就職活動の仕組みでは、高校生に直接自社の魅力や求人情報を伝えるすべがないため、知ってもらうことのハードルが高い」(新田氏)


 高卒採用を行う企業は、中小・零細企業が多い。人手が限られる企業にとって、学校を回る専任の担当者を置いたり、関係を築くまでの時間を割いたりするのは簡単ではない。


 裏を返せば、今の仕組みは、学校とのつながりが長い企業ほど有利に働きやすいが、変化の兆しもある。


 求人数が増え、生徒が減る中、生徒自身が求人を選ぶ傾向も強まっている。そのため、これまで学校とのつながりを頼りに採用してきた企業でも、指定校求人だけでは生徒を集めにくくなっているという。指定校求人を公開求人に切り替える企業や、工業科に限らず、普通科の生徒を未経験から育てようとする企業も増えている。


●比べられる時代に、選ばれる企業とは


 1人1社制そのものには、生徒のセーフティーネット(安全網)としての役割もあり、地域ごとの違いを残しながら、制度として続く可能性が高いと新田氏は分析する。


 ルールが大きく変わらなくても、情報の届き方は変わり始めている。2027年3月卒からは、厚生労働省の求人閲覧サービス「高卒就職情報WEB提供サービス」を、生徒本人が自宅のPCやスマートフォンから利用できるようになった。保護者と一緒に求人を見ながら、応募先を検討することもできる。


 これまで届く求人が少なかった学校の生徒も、ほかの学校の生徒と同じように公開求人を探せるようになった。保護者と相談しながら早めに就職活動を始めたり、県外の求人に目を向けたりする生徒も出てきたという。新田氏は、求人情報を事前に詳しく知る機会が増えれば、入社後に「思っていた仕事と違った」といったミスマッチによる離職を減らせるとみる。


 リクルートワークス研究所の調査(2020年)でも、就職活動時に得た情報が「十分」だった高卒就職者のうち、最初の会社を10点満点で0点と評価した人は11.9%で、「不十分」だった人の47.9%を大きく下回った。


 高校生が複数の求人を見比べるようになれば、知名度や学校とのつながりがなくても、仕事や育成の内容で選ばれる機会が生まれる。学校とのつながりに頼らず、仕事や職場の実像を応募前にどこまで自ら伝えられるか。売り手市場の高卒採用では、情報発信のあり方が企業の採用を左右しそうだ。


(カワブチカズキ)



    ニュース設定