50代の転職で年収アップ? いやいや、その前に考えたい「転職が決まるか」という問題

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2026年09月29日 07:21  ITmedia ビジネスオンライン

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50代の転職、動き出すのはいつ?

 「50代の転職では年収が下がる」。多くの方が、そう思っているのではないだろうか。


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 転職に関する各種調査を見ると、50代以降でも、転職後に年収が上がった人が一定数いる、というデータがある。数字だけを見れば、50代以降の転職も決して悲観すべき状況ではないように見える。


 ただ、ここで考えてみてほしい。私たちは「年収が上がる転職なのか、下がる転職なのか」ということばかりを気にしすぎてはいないだろうか。


 3000人以上のシニアのセカンドキャリアを支援してきた実感からすると、50代以降の転職では、年収の増減以前に考えるべきことがある。そもそも、希望する条件で転職が決まるのか、という問題だ。


 今回は、転職に関するデータと実際の転職市場で起きていることの違いを整理しながら、50代以降が今後の働き方を考える上で、本当に見るべきポイントについて考えたい。


●年収を上げた人は、どんな転職をしているのか


 まず、実際に50代以降でも年収を上げて転職している人が、どのようなキャリアを歩んでいるのかを見ていきたい。


 典型的なのは、外資系企業への転職だ。例えば、ある国内メーカーで同期のトップを走り、入社5年目に会社の費用で海外のビジネススクールに派遣され、帰国後は経営企画畑を歩んできた人がいる。


 社内で一定のポジションまで上がり、「これ以上、社内で大きくキャリアを伸ばすのは難しい」と感じ始めたタイミングで、外資系企業から声がかかる。結果として、転職によって年収が大きく上がる。


 外資系企業の場合、日本企業と比べて年齢や社歴よりも、専門性や実績、任せられる役割を重視して採用する企業も多い。そのため、50代以降であっても、企業が求める能力と合致すれば、高い条件を提示されることがある。


 もう1つあるのが、投資ファンドなどが買収した企業へ、経営人材として転職するケースだ。経営企画、財務、事業再生、M&Aなどの経験を持つ人が、企業の経営改革を担う人材として声をかけられ、現在より高い報酬で迎えられることがある。


 こうした人たちに共通しているのは、求人サイトや転職エージェントに登録し、求人に応募した結果というより、外部から直接声がかかるケースが多いという点だ。ヘッドハンティングや、取引先、過去の同僚などを通じた紹介である。


 そして、もう1つ重要なのが、「ジェネラリスト」ではなく、明確な専門性を持っていることである。


 例えば、経理・財務一筋でキャリアを積み、海外会計やM&Aまで経験している。あるいは法務畑を歩み、海外案件やクロスボーダー取引を担当してきた。


 こうした人は、「何ができる人なのか」が外部から見ても分かりやすい。「私は何でもできます」というアピールだけでは、自分の市場価値は伝わりにくい。


 「この領域なら任せられる」という明確な専門性があるからこそ、50代以降でも企業から声がかかるのである。


●「年収が上がった」という数字だけでは実態が見えない


 では、なぜ転職に関するデータを見ると、50代以降でも年収が上がっている人が一定数いるように見えるのか。


 ここで注意したいのが、「何と比較して年収が上がったのか」である。50代以降になると、役職定年や定年退職、再雇用などをきっかけに、年収が大きく下がる人も少なくない。


 例えば、役職定年前には年収1000万円以上だった人が、役職定年や定年退職、再雇用などを経て、年収500万円程度になった。その人が別の企業に転職し、年収600万円になれば、統計上は「転職によって年収が上がった人」になる。


 確かに、直前の年収と比べれば、20%の年収アップだ。しかし、その人の経歴から見れば、最も高かった時期の年収からは大きく下がっている。


 つまり、「転職後に年収が上がった」という数字だけを見ても、その人のキャリア全体の中で本当に条件が良くなったのかまでは分からない。


 年収の上昇率だけを見て、「50代以降でも一定数が年収を上げている。自分も同じように転職できるのではないか」と考えるのは少し危険だと思う。


 重要なのは、その数字の背景に、どのようなキャリアの変化があるのかを見ることだ。


●年収以前に、「転職が決まるかどうか」の壁がある


 もう1つ、重要な前提がある。そもそも年収を上げることばかりを考えている人は多いが、その前に「転職そのものが決まるのか」という問題を考える必要がある。


 私がシニアの転職支援をしている中で感じるのは、年齢が上がるにつれて、応募できる求人や企業から求められるポジションが少なくなっていくということだ。


 30代であれば、比較的幅広い求人がある。しかし40代、50代と年齢が上がるにつれて、求められる経験や専門性はより限定されていく。60歳を過ぎれば、さらに選択肢は少なくなる。


 シニア採用市場では、企業が多くの候補者から選べるケースも多い。その中で、「今の年収と同水準でなければ働かない」「正社員でなければ転職しない」と条件を固定してしまうと、応募できる企業そのものが極端に少なくなってしまう。


 実際、転職活動を始めた当初は高い年収を希望していたものの、なかなか転職が決まらず、希望条件を徐々に緩めていく人は珍しくない。


 50代以降の転職では、「年収を上げられるか」という問い以前に、「自分を必要としてくれる企業と出会えるか」といった問題がある。


 だからこそ、転職を考えるタイミングは非常に重要だ。


 役職定年を迎える前など、まだ社内で一定の肩書や責任を持っている段階で転職活動を始めた人は、それまでの経験やポジションを評価されやすい。一方で、役職定年や定年退職、再雇用を経てから初めて転職市場に出ると、以前と同じ条件を維持することが難しくなるケースもある。


 「まだ今の会社で役員になれる可能性があるかもしれない」「もう少し会社に残ってから考えよう」。そう考える気持ちは理解できる。


 ただ、今後のキャリアについてある程度の見通しが立っているのであれば、早い段階から社外の選択肢を持っておくことには大きな意味がある。年齢を重ねるほど、転職の選択肢は狭くなっていく。


●そもそも「正社員」にこだわる必要はあるのか


 では、そもそも転職が簡単には決まらない状況で、50代以降はどうすればいいのか。1つ提案したいのが、「正社員として転職すること」だけをゴールにしないという考え方だ。


 シニアの方と話していると、「働く=正社員として雇われること」と考えている方は非常に多い。業務委託や顧問といった働き方に、「正社員より格下」というイメージを持っている人もいる。


 しかし、企業から見ると事情は違う。これまで一緒に働いたことのない人を、いきなり正社員として採用するのは、企業にとってもハードルが高い。


 特に中小企業では、給与だけではなく、社会保険や福利厚生なども含め、継続的な固定費を負担することになる。その人が本当に自社で成果を出せるか分からない状態で、いきなり高い年収を提示して正社員で雇用するのは難しい。


 そこで有効なのが、「まずは業務委託で試してもらう」という入り方だ。


 例えば週1回、月5万〜10万円程度でもいい。企業は比較的小さな負担で仕事ぶりを確認できるし、働く側も、その会社の経営陣や社員、組織文化との相性を確かめることができる。


 そして成果を示すことができれば、契約は徐々に大きくなっていく。週1回だった仕事が週3回になり、月5万円だった契約が20万円、30万円に増える。


 場合によっては、「今後は正社員として入ってほしい」と言われることもある。


 多くの人がやろうとしているのは、その逆だ。最初から、「正社員として雇ってください」「この年収を保証してください」と企業に求める。


 しかし企業からすれば、まだ成果を確認していない人に高い固定費を支払うのはリスクが大きい。まず実力を示し、その後に条件を上げていく。50代以降では、この順番のほうが現実的なケースも多い。


 年収についても同じである。最初から高い固定給を求めるより、「成果が出た分だけ報酬を上げる」という設計のほうが企業に受け入れられやすい。


 例えば営業であれば、一定の売り上げを超えた分についてインセンティブを設定する。経営支援であれば、利益改善や事業成長に応じて報酬を上げる。


 企業にとっては固定費を抑えられ、働く側にとっては成果次第で報酬を増やせる。雇用形態や固定給だけを見るのではなく、「自分が生み出した価値をどう報酬につなげるか」という考え方を持つことが重要だ。


●市場は、あなたの過去に値札をつけない


 大企業と中小企業では、給与水準も働き方も大きく違う。そのため、以前と同じ会社規模、同じ役職、同じ年収をそのまま次の会社にも求めることが、現実的ではないケースもある。


 もちろん、これまで積み上げてきた経験や実績には価値がある。ただ、市場が対価を払うのは、過去にどれだけ大きな会社で働いていたかではない。


 これから、その会社でどのような価値を生み出せるかである。だからこそ、「今の年収を守る」という発想だけにしばられないほうがいい。まずは動けるうちに動き、正社員という形だけにこだわらず、自分の実力を示せる場所を見つける。


 そこで成果を出し、条件を上げていく。一見すると遠回りに見えるかもしれない。


 しかし50代以降のキャリアでは、最初から理想の条件を取りにいくよりも、まず企業との接点をつくり、価値を証明してから条件を上げていくほうが、結果として選択肢を広げられるケースは多い。


 「年収が上がる転職か、下がる転職か」。その問いだけで次のキャリアを考えるのではなく、「これから自分は、どこでどのような価値を生み出せるのか」。


 50代以降の転職では、まずそこから考えてみる必要があるのではないだろうか。


(市原大和、BEYOND AGE 代表)



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