「ボスの言うことは絶対」「まず実装・スピード重視」 モンゴル人の仕事観から、日本の働き方を眺めると……?

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2026年10月15日 11:11  ITmedia ビジネスオンライン

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モンゴル人の仕事観から、日本の働き方を眺めると……?

 日本で働く海外出身者の視点から、日本の企業風土や社会のありようを見つめる連載「ニッポンを『職場』に選んだら」。今回はモンゴルを取り上げる。


【画像で見る】ウランバートル市の街並みなど、モンゴルの風景


 モンゴルといえば、広大な草原で暮らす遊牧民やゲルを思い浮かべる人が多いだろう。元横綱の朝青龍や白鵬、国語の教科書で読んだ「スーホの白い馬」を思い出す読者もいるかもしれない。


 人口は約359万人。鉱業や牧畜業、流通業などを主要な産業とし、1990年代初頭の民主化以降、順調に経済成長を遂げ、直近2025年の成長率は6.8%と堅調に推移する。


 ICT産業も伸びており、首都ウランバートル市では、AIやフィンテックなどの分野でスタートアップが台頭。政府も「デジタルファースト」を掲げ、行政サービスの電子化などに力を入れている。


 日本語の学習熱が高く、人口あたりの日本への留学生の割合が世界トップレベルといわれるモンゴル。人手不足が課題となる日本では、日本語にも精通したモンゴル人材への関心が高まっている。


 日本とモンゴル、仕事の進め方や人々の就労観はどう異なるのだろうか。元JICAビジネス交流支援専門家で、モンゴルの就労事情に詳しい中村功氏に話を聞いた。


●「その時を懸命に生きる」 遊牧民文化が仕事観にも影響


──日本とモンゴルでは、仕事の進め方や価値観にどのような違いがありますか?


 日本人とモンゴル人はかなり対極にいる存在だと思っています。源流にあるのは、モンゴル人の遊牧民文化と、日本人の農耕文化の違いです。


 モンゴル人は、簡単に言えば「その時その時を一生懸命生きる」という感覚があります。あした吹雪で死ぬかもしれない、あした馬から落ちて死ぬかもしれない。そういう環境では、日本人のように長期的な視点を持って生活することが必ずしも合理的ではありません。


 日本では稲作をして「2年後、3年後はどうなるか」と長期的に考えるじゃないですか。そこが根本的に違うのかなと感じています。


 もちろん今のモンゴルでは都市化が進み、首都ウランバートルで育った若い人の中には馬に乗ったことがない人も増えています。それでもGDPに占める農牧業の割合は鉱業に次ぐ11%、労働者の約3割が従事しています。遊牧生活は今もモンゴル人の根底に残っていると思います。


●ボスの言うことは絶対


 モンゴルは上下関係が徹底していて、日本よりもかなり厳しいところがあります。「ボスの言うことは絶対」という文化ですね。


 ボスがイエスと言えばイエス、ノーと言えばノー。だから決断はすごく早い。一方で、ボスがいないと判断できないということもあります。


 例えば、モンゴルの人々は夏に長期休暇を取ります。夏に社長が1カ月くらいバカンスに行ってしまって「社長がいないので1カ月決裁できません」ということもあります。日本の会社ではなかなか考えにくいですよね。


 理想の上司像にも違いがあります。モンゴルでは「お父さん」のような上司が理想です。「これをやりなさい」と細かく指示を出して、間違ったら「俺が責任を取る」というタイプです。


 日本では、部下の意見を聞いてまとめる「兄貴」のような上司が好まれるじゃないですか。でも、モンゴルで同じことをすると「この人は自分に能力がないから、部下に聞いているのか」と思われる可能性があります。特に役所などでは、そういう傾向が残っていると思います。


──ワーク・ライフ・バランスや余暇についての考え方は?


 モンゴルはやはり、家族が一番なんですよね。


 遊牧生活では、草原にゲルがポツンとあって、そこで家族と暮らしている。10キロ、20キロ先どころか、100キロ圏内に誰もいないということもあります。そういう生活では、家族が中心になるのは自然なことです。


 だから「余暇を重視しますか」と聞かれたら、余暇そのものよりも「家族と一緒にいることを重視する」というイメージが強いと思います。


 例えば自営業の人なら、お父さんの出張に家族がついていくことも珍しくありません。公私混同がOKなんですよね。


●「8カ月で回る」モンゴル社会


 日本人から見てみると、モンゴル社会は身を入れて働ける時間が少ないと言えるかもしれません。


 モンゴルでは7月にナーダムという大きな祭りがあり、人々は地方に帰省します。7〜8月、なんとなくモンゴルの社会は動きません。12月になると忘年会シーズンになり、人々は浮かれてあまり仕事に身が入らない。年が明けると今度は旧正月がきて、やはり1カ月ほど社会は動かない。


 モンゴルの社会は8カ月くらいで回っているような感じがします。社会全体がそれでよしという雰囲気があります。ワーク・ライフ・バランスという言葉を特に意識しているわけではなく、社会全体として家族との時間を大事にしているように思います。


●ベータ版でも社会実装するモンゴル


──モンゴルの人々にとって、日本の企業や社会にどのようなギャップを感じるのでしょうか?


 僕自身も半分モンゴル人みたいなところがあるので、実体験として感じるのは、日本人はやはり細かいですよね。100%完成してから何かを始めないと不安になるところがあると思います。


 例えば、2021年に起きたみずほ銀行の大規模なATM障害のように、日本で銀行システムが止まると大きなニュースになります。一方、モンゴルでも銀行のシステムが止まることが時々あります。それでも「仕方ないな」と受け止める社会風土があります。


 モンゴルでは、ある程度できた段階で「ベータ版」として社会実装して、実際に使ってもらいながら不具合が出たら直していく、という進め方が多く見られます。


 日本では、社会実装する前にバグを徹底的に取り除こうとします。その分、時間がかかります。


 これはICT産業の伸長にもつながる部分です。モンゴルには電子政府の仕組みがあり、さまざまな行政手続きがアプリケーション上でできます。


 特に印象に残っているのが、コロナ禍のワクチン接種です。


 日本では接種券を配るなどの準備をしている間に、モンゴルでは電子政府の仕組みを使って外国人も含めて接種できる体制が整い、3カ月ほどで全国民が接種できる状態になりました。


 日本から見ると「そんなに早くやって大丈夫なの?」という不安もあると思います。でも、ある程度のところで始めて、実践の中で直していく。そのスピード感はモンゴルの良さだと思います。


──そのスピード感は、モンゴルのICT産業の成長にもつながっているのでしょうか?


 それもあると思います。


 若い人がモンゴルで「何か一発当てたい」と思ったとき、ITは手っ取り早いんです。


 モンゴルの大きな産業の一つである鉱山は、既存の企業や事業者が大きな役割を担っているため新規参入は難しい。銀行も参入にはハードルがある。カシミア産業や食品製造なども、限られた国内市場において新規参入は容易ではありません。


 そう考えると、ITでサービスを作って成功する方がチャンスがあります。


 最近はフィンテックも盛んで、モンゴルで作ったサービスをキルギスやカザフスタンなど中央アジアに展開する企業もあります。米国や日本の企業が入りにくい地域を狙って事業を広げようとしているわけです。


 モンゴル人はロシア語を話せる人も多いので、そうした地域に進出しやすい面もあります。


●「安全・安心・安い」 日本が選ばれる理由


──モンゴルの人々にとって日本で働く、日本で学ぶことの魅力は?


 今の日本の強みは「安全」「安心」「安い」。この3つの「安」だと思います。それしかないとも言えます。


 給料だけを比べれば、日本がいいわけではありません。モンゴル人が海外で働く先としては、米国やオーストラリア、ヨーロッパなどがまず候補になります。


 その次にシンガポールやマレーシアがあり、さらに近い国で考えると日本、中国、韓国などが候補になる。その中で日本には、安全で安心して暮らせるという強みがあります。


 親にとっても、子どもが留学先で安全に暮らせることは大きい。学費も米国などと比べれば安い。そういうところは日本の魅力だと思います。


 こうした環境の中で、日本で働くモンゴルの人々にとって学びになると思うのは、日本のものづくりの部分です。トヨタの生産方式などがその代表です。


 逆に、情報通信産業については、日本がモンゴルから学ぶところもあると思います。日本は完璧さを求めるあまり、社会実装までに時間がかかる。一方、モンゴルはある程度できた段階で動かしてみる。


 お互いに学べるところはあると思います。


──中村さんは青年海外協力隊員としてモンゴルに赴き、23年間にわたってモンゴルと関わってこられました。これまで印象に残っているモンゴルの言葉はありますか?


 モンゴル語で「テンゲル・シグ・バイ」(Тэнгэр шиг бай)という言葉があります。「天のようにあれ」という意味です。


 「テンゲル」(Тэнгэр)は空、「シグ」(шиг)は「〜のような」、「バイ」(бай)は「〜であれ」という意味です。


 大きな空のような、広い心であれ。細かいことを気にするな、というような意味合いがあります。


 モンゴル人にとって、天というものはとても重要です。モンゴルの大きな空のようにありたい。僕自身も、時々この言葉を思い出しています。


 日本で働く外国人に対して、日本のやり方に合わせてもらうことを求める場面もあると思います。でも、僕は「郷に入ったら郷に従え」という言葉を、僕たち迎える側が言ってしまうと傲慢(ごうまん)になると思います。


 日本で働こうと思って来てくれる人自身が、日本の文化に合わせようと思うのはいい。でも、迎える側が一方的にそう言ってしまってはいけないと考えています。


 お互いに学び合える関係をつくっていくことが大切だと思います。


(濱川太一)



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