朝ドラ『あまちゃん』のセリフから考える母子関係

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2013年05月11日 08:30  MAMApicks

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まさにNHKの関係者は、「うれしい悲鳴」ならぬ、「うれしい『じぇじぇ!』」になっていることだろう。

初回視聴率20%超え! ゴールデンウィークのロケ地の観光客は昨年1年間のおよそ倍! ドラマで使われている驚いた時のフレーズ「じぇじぇ!」は今年の流行語大賞か? と早くも噂されている、現在放映中のNHK朝ドラ、『あまちゃん』。


各種メディアが特集記事を載せているなか、どうしても掘り下げたいテーマがあった。
作中の、「女3代の母子関係」である。本稿では登場人物たちのセリフから、このドラマの魅力を「2組の母子」という視点でお伝えしたい。

【参考】『あまちゃん』女3代の登場人物
祖母:夏(宮本信子)
母:春子(小泉今日子)
娘:アキ(能年玲奈)

内に秘めた強さ、いつかは帰る場所。それが北三陸のお母さん



【検証セリフ1】
「来る者は拒まず、去る者は追わずだ」

遠洋漁業の漁師の夫に嫁いだ海の女の心構えともいえる、夏(宮本信子)のセリフだ。

娘・春子(小泉今日子)が家出したあとも、「腹が減ったら帰ってくる」と言って、捜索願も出さずじっと待ち続けた、お母さん。
その娘が24年ぶりに帰ってくるが、二人の間の溝は、すぐには埋まらない。

「『おかえり』ぐらい言えないの?」と迫る春子に、
「『ただいま』と言えない娘に『おかえり』が言えますか」

このくだりをきっかけに僅かではあるが、改善していく?親子関係。
自分から締め出しはしないし、帰ってきたら黙って受け入れる。ただし挨拶だけはしっかり言え、と。

24年分の心配事などを胸に秘めつつも娘を信じ、好きにさせる。一本芯の通った、強いお母さん像が伺えるシーンであった。


「あまちゃん」はひとりっ子の特性が描かれているドラマ?



【検証セリフ2】
「ママが嫌いなものばっかり、好きになんないでよ!」

ヒロインの母・春子(小泉今日子)が、娘・アキ(能年玲奈)に向かって放った言葉である。
海もウニも田舎の暮らしも、かつて自分が一度は捨てたものを、東京から一緒に来た娘が目をキラキラさせて受け入れていく姿に、春子は何を思ったのか。

実はこのセリフ、筆者も同様に子どもに言ってしまったことがある。
急に自分のことのように思えて、放映後、しばらく考えてしまった。

つい子どもを自分の所有物と思ってしまう。
そのようなことはないだろうか。その気はなくても、だ。

春子もアキも「ひとりっ子」であるというのが、実はセリフや態度によく表れている。

──ひとりっ子が故、自分の思い通りにならないことへの憤り。

子育てなんて自分の思い通りにならないのはあたりまえ!とみなさん思うだろうが、ひとりっ子として育つとそのへんの感覚は希薄になりがちかもしれない。自分より小さな親戚がいなかったり、犬や猫などのペットを飼っていなかった場合はさらにだ。

アタマでわかっていても、目の前に理屈でどうにもならない「自分の身体から出てきたのに自分とは別の思考パターンを持った生き物」が出てきた時、パニックになる。

いつか子どもは勝手に自分の道を探して進んでいくものなのだが、こちらにそれを受け入れる心構えができていない。父親が1年のほとんどを留守にする母子家庭のような状況や、核家族で母子の接する時間が長いと、距離が近い上に第三者視点を失うので、つい、子どもを自分の所有物のように見てしまうことが、なくもない。

そして、テンパった挙句のとっさの一言、だったのではないだろうか。


【検証セリフ3】
「ごめんね親バカで。でも耐えられない。娘が見世物になって……」

春子が幼馴染で今は北三陸駅長になっている大吉(杉本哲太)に、アキを観光の目玉に使うなとクレームを入れるシーンでのひとこま。

このセリフから伺えるのは、高校生の親にしてはやや過保護な側面と、春子にはアイドルを目指して挫折した過去?そして今、自分の娘がアイドル化し始めていることへの危惧と嫉妬なのかとも思わせる絶妙な展開。

この先娘が傷つくことが見えるから、先回りして守りたいと同時に、自分ができなかったことを成そうとしている娘への嫉妬、そして世間の注目が自分から娘に移ることへの取り残され感……。

これは初めての出産時にも起こる現象であるが、赤ちゃんが生まれた瞬間、家族親戚の注目が一斉に小さきものに向かう。これには筆者(ひとりっ子)もショックをうけたのは事実だ。

久しぶりに実家に帰ったら、チヤホヤされるポジションが自分から子にすりかわってしまう。そう、アイドルグループのセンターが変わるときのように。


【検証セリフ4】
「ママになる前のママもいるんです。ってか、いたんです」

1980年代をそのまま真空パックしたような、24年前に家出をするまで春子が使っていた部屋。その部屋に娘のアキと踏み入れたことで、春子の中で止まっていた“18歳感”はより加速したのではないだろうか。

「この部屋でママって言われるとなんか変な感じ」と言った春子に対して、アキが「春ちゃん!」と呼ぶ。「バーカ」と返す春子は完全にかつてのヤンキーの雰囲気で、まるで二人が年の近い親友のようにも見える。

あたりまえだが、人はみな、昔は子どもだった。
しかし子どもとしては、親が生まれつき「ママ」や「パパ」だったわけじゃないことをなかなか理解しづらい。自分の両親の過去についても、確かに知らないことがたくさんある。

私は「ママになる前のママ」を子どもに聞かれたらどう対応するだろうか。
ピンク色した髪の写真は見せられるだろうか?
つい、自分だったらどうするだろうかと思いながら見てしまうのだ。

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『あまちゃん』は、アキの、そして春子の、さらには急に孫の存在を知った夏の成長ストーリーでもあり、それぞれの「娘」たちにとって「親からの卒業」というテーマも並行して存在している。娘を信じて干渉しない夏と、大人としては未熟さも含み過保護気味な春子。二人の「母」の行方も注目だ。

地方出身者も東京出身者も、それぞれの視点から自分に重ねて見てしまうだろう。
サブカル寄りな人も、「だってクドカンの脚本だし」と楽しめる。アイドルや鉄道ファン要素も盛り込み、「ネットユーザー」がここまでフィーチャーされる朝ドラも珍しい。
他人事だったことが「自分事」に変わったとき、大きなうねりが起きる。

気づけば老若男女、家族が同じドラマの話で毎日盛り上がる。
<ああ、そうだ、これが朝ドラの本来の姿でしたよね、と、“伝説の朝ドラ”『おしん』をリアルタイムでぎりぎり知る世代としては、改めて思うのでしたー。>(←夏ばっぱのナレーション風)


ワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在は日本テレビグループ・LIFE VIDEO株式会社のデジタルコンテンツ全般を担当。

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