日本労働組合総連合会(以下、「連合」 http://www.jtuc-rengo.or.jp/ )が掲載した、「マタニティ・ハラスメント(マタハラ)に関する意識調査」というデータが話題になっている。
ちなみに「マタニティ・ハラスメント(マタハラ)」とは、
働く女性が妊娠・出産を理由とした解雇・雇止めをされることや、妊娠・出産にあたって職場で受ける精神的・肉体的なハラスメントで、働く女性を悩ませる「セクハラ」「パワハラ」に並ぶ3大ハラスメントの1つです。
と定義されている。
調査結果によると、実際に「マタハラを受けた」と答えたのは25.6%と、4人に1人は何らかの被害に遭っていたことが判明した。参考までに連合が発表した「セクハラ」に関する調査データによれば、「セクハラを受けたことがある」女性は17.0%であり、「セクハラ」以上に「マタハラ」を受ける割合が多かったことになる。
また、「マタハラ」の内容としては、「妊娠中や産休明けなどに、心無い言葉を言われた」「妊娠・出産がきっかけで、解雇や契約打ち切り、自主退職への誘導等をされた」「妊娠中・産休明けなどに、残業や重労働などを強いられた」といった項目が上位にあげられている。
安倍政権の提示した「育休3年」以降、どうも産休育休界隈の話題が賑わっているところにこのニュースである。
会社ごとのハウスルールは別として、法律では妊娠9ヵ月までは働かないと産休が取れないので、やむを得ず大きなお腹で満員電車に乗る人もいるだろう。妊娠7ヵ月くらいの時に引越しにともない、朝のラッシュに揉まれることがあり、「そんなデカイ腹で乗ってんじゃねえ!」と言われたことがあった筆者は、どちらかというと「会社」より「社会」での「マタハラ」を味わった一人である。
お腹が目立つようになるとさすがにみんな席を譲ってくれたのだが(お腹張る方だったので助かった)、初期の頃、カバンのマタニティマークを見ると座っている乗客がみんな目を背けてしまったのをすごく覚えている。
いや、譲って欲しい訳じゃなかったのになんだか傷ついた。そのことだけはとてもよく覚えているのだ。
そこで、まわりで見聞きした経験も交えて、「マタハラ」とは何なのか。リアルなところをお伝えしたい。
■CASE1 【え、また……?】
入社早々妊娠が発覚した女性社員、育休復帰後2人目を妊娠、2度目の育休の後、なんと3人目を授かり、3度目の産休育休。
「2年ぶり3度目」って、もう完全に甲子園の学校紹介である。
知人は笑ってこの話をしていたが、快く思っていない同僚も少なからずいるであろうことは確かで、「育休女性社員の犠牲になっている」という切り口のネットコラムが炎上したのも記憶に新しい。
でも、これ言われちゃうと「じゃあ産むな」ってことなのかと思うのだが……。
入社早々の妊娠や、育休明け早々の妊娠発覚に罪悪感を持たずにいられる職場なら、そもそも帰る椅子がしっかりあるのなら、もっと産みたい人はいるのではないだろうか。
■CASE2 【引き継ぎトラブル】
ある女性社員が妊娠出産のため、引き継ぎをすることになったが、引継書がうまくなかったのか、後任者とのやり取りがうまくいってなかった。そんな時、後任者が冗談っぽくつぶやいた。
「ほんとに急に孕みやがってよ、よっぽどどついてやろうかと思った」
未婚時代は実感がなかったが、今なら冗談でもそんなことを妊婦さんに言ってはいけないと強く思うのだ。
(「急に」っていうけど妊娠ってそんな計画的に出来ます? 今にして思うけどそんな一筋縄じゃないぜ!と)
しかし、そこまで険悪になるには、後任者が極度の妊婦嫌いでなければ、その過程で何かあったとしか思えない。カギとなるのは「引継書」の部分だ。
では、この場合どうしたらよかったのか。
妊娠したら産休までの時間は、決まっているようで決まっていない。切迫流産になったら長期で寝込まなきゃいけないし、つわりがひどいかもしれない。いつなんどき何があってもいいように、日頃から業務のマニュアルは、他人が見てもわかりやすく、そしてこまめに更新する癖をつけるのがよいかもしれない。自分じゃなくてもいい仕事、というと悔しい気もするが、リスクヘッジと思えば悪くもない。
このケースでは対・男性であったが、「女性の敵は女性」ということも結構世の中にはあるので、お互いに優しくなれる社会でありたい。
ほら、「子ども叱るな来た道だもの 年寄り笑うな行く道だもの」というではないか……。
■CASE3 【派遣切り】
派遣会社(仮にA社とする)と6ヵ月ごとの派遣契約を締結して働いていたが、妊娠の事実を伝えると、担当営業は「どうします? 3ヵ月毎に切り替えましょうか、ほら、何かあったらいけないですしね」と提案してきた。
「気を遣ってもらったのかな?」と、書類に判を押したが、労基に詳しい友人は、「非正規雇用者の育休」についてもっと調べるよう言った。
その時勤務3年目、出産後はすぐにでも戻る気満々だった、まさか産後があんなにしんどいとは思わずに。
いろいろゴネたあげく、次のタイミングで6ヵ月契約に戻してもらうことには成功したが「産休までは法律で決まっているから保証しますが、その後については、クライアントさんの体制もどうなるかわかりませんしねえ……」と言葉を濁す担当営業。
労働基準監督局に電話して相談してみたが、
「派遣だと『1年を超えて契約される見込みがあることの証明』が難しくなるから、育休の適用にならない場合もあって、産休切りもしょうがないですよねー」
と言われ、「派遣でも育休が取れる」といった啓蒙サイトをA社の営業担当者に見せ、クライアントとの契約がなくても自社契約に切り替えて育休が取れるパターンなど説明したが、あまりいい回答が得られなかった。
最終的には「育休はなくてもいい、せめて出産後2ヵ月で復帰させてほしい」とA社側に伝えたところ、ある日、担当営業の上司という男性が職場に現れ、以下のように言った。
「当社では派遣社員の育休は認めた前例がありません。今後も認めるつもりはありません。前例を作ってはいけないと思っています」
……ちなみにこれは筆者の実話である。
最後の一言はさすがに忘れられない。
わずかな隙間から見えていた希望の光をすべて潰された感じがした。完敗かと。
「会社都合にしますので、ハローワークで手続きを行なってください。半年は(お金が)出ると思いますから」
産休の終了までは契約をしてくれると言った。それも「こちらからクライアント様にお願いして契約してもらった」というような言われ方をした。
――これが世に言う派遣切りか。
幸い第一子の妊娠だったので、「上の子の保育園在園資格が!」と焦る心配はなかったが、世間ってこんなもんっすよねー、と、これまでの経緯で怒り疲れていた私は、なんだかがっかりした。
今にして思えば、これが「マタハラ」だったのか……。
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連合では、「マタハラ」については「なんでも労働相談ダイヤル」にて、相談を受け付けるとのこと。
ああ、3年前にこの相談ダイヤルを知っていれば!
そして次の妊娠がもしあったら(できればあってほしいけど)、こういうところのお世話にならずにいたいなあと思うのだ。
最後に、アンケート回答者からのメッセージで印象的だった一言を引用したい。
「特に何もしてもらわなくていいので、ただ普通に接してもらいたいです。」
ワシノ ミカ1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在は日本テレビグループ・LIFE VIDEO株式会社のデジタルコンテンツ全般を担当。