回文好きのコピーライター・土屋耕一氏に付いた粋な戒名とは

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2013年06月14日 10:41  BOOK STAND

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 「タイ焼き焼いた(タイヤキヤイタ)」

 これは、よく知られた回文(最初から読んでも最後から読んでも同じ意味になる言葉)です。子供の時に必死になって回文作りに励んだ人もいるでしょう。とても簡単で身近な文章なのに、実はカラクリがある。自分でも作れそうな気がするのに、いざ、ペンを持って考え出すと、これが意外と難しいのです。

「結婚し新嫁宵に新香漬け(ケッコンシニイヨメヨイニシンコツケ)」

「お買い得安いと椅子屋くどい顔(オカイドクヤスイトイスヤクドイカオ)」

「品川にいま棲む住い庭がなし(シナガワニイマスムスマイニワガナシ)」

「ママが私にした我儘(ママガワタシニシタワガママ)」
 
 回文作成の難しさを知っている人からすれば、この4作品のレベルの高さに驚くことでしょう。簡単な言葉をひっくり返しただけでなく、きちんと文章として仕上がっているのです。また、ユニークな情景も浮かんでくるといった奥深さも兼ね揃えているのです。

 この素晴らしい回文を作ったのは、コピーライターの土屋耕一さん(1930年〜2009年)。土屋さんは、「君のひとみは10000ボルト」「おれ、ゴリラ。おれ、景品。」など、有名なキャッチコピーを残しています。

 そんな土屋さんのお葬式でのエピソードが書籍『土屋耕一のことばの遊び場。』のなかで紹介されています。

 土屋さんが亡くなったのは2009年3月。お寺の住職さんと土屋さんの奥さんが、生前、土屋さんがどのような仕事をしていたかと話していました。コピーライターであり、回文も作っていたと奥さんが伝えると、ついた戒名は「至光院耕董柚居士」。「大地を耕し、蓮の花や柚子の木を育み、努力してこられた、この上ない尊い光に包まれた人」という意味です。

 そして、驚くべきことに「しこういんこうとうこんいうこし」と、最初から読み上げても、最後から読み上げても同じ。粋なお坊さんが、戒名を回文にしてしまったのです。言葉で遊び尽くした土屋さんらしい戒名だといえるでしょう。


『土屋耕一のことばの遊び場。』
著者:土屋耕一
出版社:東京糸井重里事務所
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