朝ドラ『あまちゃん』から考える“ひとりっ子親子”論

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2013年08月15日 08:21  MAMApicks

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なぜこんなにも、人は『あまちゃん』を語りたくなるのだろうか。

一日に4回、7:30、8:00、12:45、23:00はツイッターのタイムラインがびっしり、「#あまちゃん」のハッシュタグで埋まる。

さらにネットでは毎日、「これはあの名作のオマージュか!?」と元ネタを探す人々が後を絶たない。

ネタバレにさほど神経質でない筆者なので、先にタイムラインを眺めてから録画を消化する日々である。

もう最終話までの台本は完成し、クランクアップしたとのニュースも先日流れてきた。
全156話のうち、110話を過ぎて佳境を迎えた今、視聴率はほぼ連日20%を越えており、人気の高さがうかがえる。


そして独自の「あまちゃん論」を展開するメディアも数多い。
個人的には、TBSラジオ『東京ポッド許可局』が、途中でレギュラーメンバーの一人であるマキタスポーツがキャスティングされる、という展開も含めて、一番面白かったように思う。

芸能人、文化人などのブログやツイッターを見ては、「え、こんな人までハマってるの?」という驚きが本当に毎日のようにある。あの映画評論家から、“オタク”の生みの親とされるコラムニストまで……。

■「あまちゃん」はひとりっ子の特性が描かれているドラマ!(断言)
前回、「朝ドラ『あまちゃん』のセリフから考える母子関係」と題してコラムを書いたが、その中で、うっかり予想を的中させてしまった項目があった。

<「あまちゃん」はひとりっ子の特性が描かれているドラマ?>

第104回の放送にて、主人公・アキの父、正宗もひとりっ子であることがわかり、母・春子も合わせ、元・黒川家の3人全員が、ひとりっ子という設定が出揃った。

「ひとりっ子」というと、わがままだ、マイペースだ、妄想癖だ、といろんな言われ方をされるのが常なのだが、住んでいる地域や家族形態の数だけ、ひとりっ子もオプション別パターンがあって然るべきで……(たとえば東京出身者には東京への憧れや強い思いが皆無であるように)核家族のひとりっ子と、大家族のひとりっ子でも多少性格が異なると思われる。

■ひとりっ子あるある!
(春子)「根っからひとりっ子だよね。何かこう、イライラするわ!」
(正宗)「君だってひとりっ子じゃないか」
(春子)「そうよ!だから何よ!」
(アキ)「おらもひとりっ子だべ」
(正宗)「そうだな。ここにはひとりっ子しかいない」
(アキ)「ひとりっ子同士仲良ぐやっぺ」

これがその第104話に登場した「ひとりっ子同士の夫婦ゲンカ」である。

ひとりっ子とは、自分とペースの違う相手にイライラする傾向である。
そして、ひとりっ子というのは兄弟ゲンカが物理的に不可能なので、特殊な事情を除いて、ケンカ慣れはしていないのだ。
勢いで途中までやってみるものの、全員ケンカ慣れしてないから、目的を見失って途中で失速する。
何も解決していないのだが、「まあ、いっか」になって終わる。平和、サイコー!

これは、典型的な“ひとりっ子あるある”なのである。

■東京編になってから何かイライラする、というあなたへ
「東京編になってからアキが自由すぎてイライラする」というツイートをたまに見かける。
また、「春子勝手すぎ!よく考えないで行動しすぎ!」という声も聞こえてくるのだが、たしかにこの親子3人、非常に自由だ。各々のペースで全部進めている。

もしかして?と思い、自分で心当たりのあるひとりっ子の特徴を書き出し、春子、アキ、正宗のキャラに振り分けてみたところ、見事にはまったのであった。

正宗のバックボーンが一切明かされていないのでなんともいえない部分はあるが、ひとりっ子歴37年、“プロのひとりっ子”であるところの筆者が、『あまちゃん』そして「元・黒川家の親子関係」から、ひとりっ子の生態を考えたい。

【参考】『あまちゃん』の主要登場人物
父:黒川正宗(尾美としのり)
母:天野春子(小泉今日子)
娘:天野アキ(能年玲奈)
※離婚に伴い姓が異なる

■タイプ1=自分中心に世界が回っている春子(地方出身×ひとりっ子)
・軸が常に自分で、謝罪が苦手
・器用でプロ意識は高い、それを周りにも同じだけ要求する
・正義感が強く姉御肌。世話を焼くのは苦ではない
・気も芯も強いが、思い込みが激しく、執念深い側面も
・ちやほやされているのが常なので、そうでなくなった時にすこぶる機嫌が悪い
・母や娘との距離感が実はわからないまま

自分の非を認めるのが苦手だが、他人に謝罪を要求するのは得意。自分の復讐に娘をナチュラルに巻き込んでみたり、すぐ喧嘩腰になる春子である。

まだまだ親としての意識は薄く、どうしても自分が物語の中心でいたいのが抜けずに、子どもっぽさと我の強さが目立つ、めんどくさい母親に映っている春子である。きっと東京に友だちもおらず専業主婦だった彼女が、娘の成長に自分の過去を投影したり、たくさんの人の心に触れるにつれ、人として、母として、大きく変わるのではないだろうか。

そして、喫茶「アイドル」のマスター・甲斐(松尾スズキ)の言った、
「春ちゃんがこっちでやり残したことって、いったい何なんだろうな」
この台詞が今後の鍵になる予感がするのだ。


■タイプ2=何でも知っていたい正宗(東京出身(?)×ひとりっ子)
・ひとりが好きだけど、知りたがりのさみしがりや
・好きだから詮索したい。転じて世話を焼きすぎる
・甘えん坊で、ちやほやしてくれる人に弱く、異性においては流されがち
・ドンくさいわりに思い切った行動に出がち

ひとりっ子は、「自分が自分のことを知っているのと同じ分だけ他人のことも知っていたい」という思いがあり、その反面、自分のことは踏み込んでほしくないと思っているので、わがままだと思われることもある。

好きな人を追う半面、「かまってくれる人」を常にそばにおいておきたいのが本心。これがよく現れていたのが、「マンションの女」「チャットの女」のシーンであろう。大小は問わず、連続的に、日々ちやほやされていたい。

本命には思い切ってぶつかる傾向にあり、喫茶「アイドル」で春子に、「あなたのファン第一号です」と迫って警察を呼ばれそうになるシーン(第97話)にもよくあらわれている。
このアタックの仕方は、アキに受け継がれているかもしれない。

■タイプ3=自分を殺して周りに合わせながら生きてきたアキ(東京出身×ひとりっ子)
・親は絶対
・時間が経ってから腹が立ってくる
・大人カルチャーのほうが慣れているから自由だ
・場に我の強い人が一人いるとドン引き
・豊かな妄想力

家族内に頼れる年上が親しかいないひとりっ子にとって、特に幼少期は、親に反抗することは、即ち死を意味する。
「事務所をやめるよ」と啖呵を切った春子に、当初あっさりついていったのも、親が絶対という暗黙の了解があったからだろう。

とっさの判断のときは何も考えていないので、少し冷静になってからふつふつと怒りがわいてくることが多い。
これがゆえに、上手にケンカができない。
最初の頃、アキが春子に怒られると泣くだけで反論しなかったのはそのせいだと思われる。

方言にカモフラージュされているが、大人に対してはだいぶタメグチだ。大人に囲まれて育つので、同じ目線からの物言いが常になってしまう。結果として失礼だと思われることがあるが、何故かかわいがられる。それがひとりっ子。

春子という存在が、常にそばにベッタリとあったことで、消されてきた潜在的“巻き込み力”の高さが、環境の変化により開花する。

その能力に春子も気づいているのだが、親子の距離感をうまく取れない春子は、娘への所有感が抜けずについつい手を出しすぎてしまう。

ひとりっ子同士の親離れ、そして子離れは現代の大きなテーマかもしれない。

■そんなひとりっ子3人の共通項は?
・誰にも相談しないで決める、進める

勝手に北三陸に来て、黙って仕事を見つけてくるくだり(第40話)が特に顕著な正宗。
若かりしころの春子が挫折し、実家に一度だけ電話したときも、詳細は話さず、相談もしていない。
海女も、転校も、転科も、アイドルも、全部相談しないまま決めて、強行突破するアキ。

こうして見ると、この3人、実に似たもの親子であるし、両親の要素をちょうど半分ずつ受け継いでいるのがアキであることがよく分かる。

・仮面をつけることで変われる自分

「妄想力」につながってくるが、何かを演じることで自分が変われることを知ったあとの人間は強い。

スナック出勤時の衣装、社長の椅子など、コスプレ感覚で演じ分けられる自分を知っている春子に対して、北三陸で親子3人だけの生活から離れ、「方言」というアイテムを手に入れ、今までと違う自分に変われることを、背中を押されて知るアキ。
いつか、方言がなくても、強くなって素の自分で勝負できるアキが見られるのだろうか?


春子の代で掛け違えたボタンをちゃんとかけなおす。それがアキの役割なのかもしれない。
劇中でアキが出演する子ども番組の設定のように、壊したものを逆回転して直す特殊能力が彼女自身に備わっているのだとしたら。

春子と同じように、親としてどう振る舞っていいのかまだ定まらない、筆者のリアルな子育て。
ひとりっ子というのはどうしても、「まあいっか」で先延ばしにして、自力でハードルを乗り越えるのが困難なところがある。
背中を押してくれる人が身近にいることは幸せなことなのだ。

 私は自分の背中を自分で押すことができるかな?
 いつか息子の背中をポンとうまく押すことができるかな?

親子のシーンを見るたびにそう考える。

ワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在は日本テレビグループ・LIFE VIDEO株式会社のデジタルコンテンツ全般を担当。

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  • 今日から「朝まであまテレビ」でしたっけ。最近日曜ダイジェスト版を見るようになったので、この機会に録画。
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