初めての育児は戸惑うことばかり。「こればかりはやってみないとわからない」ということもたくさんある。いや、実はそういうことばかりかも。でも、出産すると、アメリカ人からも日本人からも聞かれる質問がある。
子どもが新生児の時は、
「寝てる?」
が、そのひとつ。
寝てないのはお互い百も承知。「新生児は1日14時間寝ます」というような、育児書によくある説明が、「続けて14時間」ではないことを身をもって体験している最中では、苦笑いするしかない。
しばらくすると、
「もう一人で寝てるの?」
「一緒に寝てるの?」
といった質問が、アメリカ人から、またはアメリカ人と結婚した日本人からよく聞かれるようになる。
なぜそんなことを聞くのかと思うかもしれないが、これは英語では "cosleeping"(コースリーピング)という「親子が一緒に寝ること」が、「アメリカではNG」というのが、一般に広まっているからだ。
ちょっと検索するだけで、アメリカ小児科学会が今年1月にも、「乳幼児突然死症候群(SIDS)を含む睡眠が関係する乳幼児の死亡リスクを減らす」ことの提言で、「部屋は一緒でもベッドは共有しない」ということを挙げている記事などに行き当たる(※1)。
周囲のアメリカ人も、「気づいた時には自分の部屋で一人で寝かされていた」と言う人が少なくなく、さらに、「一人で寝かせるようにしないとだめだよ」と、わざわざアドバイスをしてくる人もいるので、一歩下がって客観的に見ないと、なんとなく「アメリカではNG」と思い込まされそうだ。
日本人とアメリカ人の国際結婚カップルにおいてはさらに複雑らしく、「日本人の妻が添い寝、アメリカ人の夫が別々と主張するから、子育てでまず最初に意見が対立するのがそれ」と、先輩お母さんたちから聞かされた。
しかし、蓋を開けてみると、我が家では特に「意見の対立」と言えるようなものはなかった。寝かせ方について話し合いはしたものの、乳児の時はベビーベッドで寝かせたり、一緒に寝たりで、1歳になった時に自分の部屋で寝かせてみたら、もう歩けるようになっていた子どもは自分でこちらの寝室まで歩いて来る。
「夫婦の寝室に鍵をかけておく」「ドアのノブを取って外から開けられなくする」「子供が泣き叫んでも完全無視」という対策もあるが、結局一緒に寝たいなら最初から一緒に寝れば、ということになり、3歳になろうという今もそのままだ。
今回この記事を書くにあたり、1歳〜4歳の子どもを持つ日本人女性とアメリカ人男性の国際結婚カップル8組に、添い寝について改めて聞いてみたところ、うち7組が、「一緒に寝ている」と回答した。理由は「その方が楽」「その方が自然」「その方がよく寝る」「その方が楽しい」「子どもがそれがいいという」と、さまざま。アメリカ人の夫もそれを受け入れているという。
なんだ、「アメリカではNG」ではなくて、「アメリカでは賛否両論」なんじゃないか? そう思いながら関連記事を検索すると、英語の人気育児情報サイトである『Ask Dr Sears』で、4人の子どもを育てた先生が、「睡眠においてはケース・バイ・ケース」と書いている記事を発見した(※2)。
そうだ、移民国家のこの国では、「アメリカ人」と言っても、人種も経歴も文化もさまざま。だから添い寝にだって、いろいろな意見があるほうが自然だ。「アメリカでは賛否両論」。
それでも親と子どもがそれで幸せなら、「一般的に」「アメリカでは」といった言葉で自分をわざわざしばることはない。自分の子どもとの二度と戻ってこない時間を大いに楽しめれば、それに越したことはないんだから。
1)
SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Expansion of Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environmenthttp://pediatrics.aappublications.org/content/128/5/e1341.full?sid=bd9574fb-4575-4d35-a46e-a63394e68331
2)
Ask Dr Searshttp://www.askdrsears.com/topics/health-concerns/sleep-problems/co-sleeping-yes-no-sometimes
大野 拓未アメリカの大学・大学院を卒業し、自転車業界でOEM営業を経験した後、シアトルの良さをもっと日本人に伝えたくて起業。シアトル初の日本語情報サイト『Junglecity.com』を運営し、取材コーディネート、リサーチ、ウェブサイト構築などを行う。家族は夫と2010年生まれの息子。