育児はパンク!か?『アナーキー・イン・ザ・子どもかわいい “父親に成る”ということ』を読んで

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2013年12月27日 15:01  MAMApicks

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以前、当サイトのコラム「平成サブカルお母さん考 〜わかるヤツだけわかればいい〜」( http://mamapicks.jp/archives/52124775.html )において、『一億総ツッコミ時代』を紹介させていただいたが、今回は舞台を「家庭」に移した同じ著者による子育てエッセイである。

著者の槙田雄司氏(以下:マキタさん)は、「マキタスポーツ」の芸名で活躍する芸人であるが、近年は映画『苦役列車』でブルーリボン賞新人賞に輝いたことも記憶に新しい。バンド活動もしており「歌うま芸人」としても有名、「作詞作曲モノマネ」シリーズは必見だ。

……と、前置きはこのくらいで。

■「うちの子かわいい」に潜む、なんか奇妙なもの
実はこれ、書店の育児書コーナーにまぎれて置いてあったのをたまたま見かけて買って帰ったのだった。

マキタさんには2人の女の子がいるのだが、その日々の様子を、『一億総ツッコミ時代』でいうところの「メタ」でもなく「ベタ」とも言い切れず、「俯瞰は得意ではなく、虫の視点で生きてきた」と本人はいうものの、本書は“宇宙人の視点”で、自分自身をも含めて定点観測しているという。このカメラのスイッチングのような視点切り替え芸はもはやプロの領域である。

「うちの子かわいい」。
これは子どもを持ったら必ず1回は思うであろう感情である。
「うちの子かわいい。全世界で一番かわいい」。
最終的にはナンバーワンを通り越して宇宙規模のオンリーワンに行き着くのである。

引いて見ると、確かにちょっと奇妙な光景に映るのだ。

独身のころ、赤ちゃんを抱っこすると急に赤ちゃん言葉であやしだす親御さん、というものにちょっとした面白さをいただいていたのだが、自分に子どもができたら、ま〜あ、見事にやった。「あら、ちゃむかったでちゅか、かわいちょうでちたね」くらいは口をついて出る。つい。

これが本の帯にあった、「親になるということは、正気ではなくなるということだ!」というフレーズの正体なのかもしれない。

その領域に一歩踏み込んだら、自分や家族が変なハイテンションのまま止まることを許されずにただ進んでいく、とてつもない規模の“巻き込まれ感”。それは産後の1週間で実感したことでもあった。


読み進めながら思い出していたのは、夫が運動会のたびに、「自分の子どもに必死でカメラを向けている保護者の皆さん」を毎回撮影していること。

父親というのはそういうところが面白く映るのかな、照れとのせめぎあいでいたたまれなくなると面白いことを探しにいっちゃうのかな、もういっそのこと楽しむ方向で腹を決めたからなのかな……などと、妻は妻の視点から夫を観察していたりもするのだが、そんなわけで、我が家のハードディスクの中には3年分の「運動会で別のベクトルからがんばっている親御さん」の写真集が残されている。これはいったいどうしたものか。

■ダメな親だっていいじゃない
おそらくイギリスのパンクバンド、セックス・ピストルズの名曲から本のタイトルをつけられたことと思うので、育児とパンクの相関性についてぼんやり考えていた。

……じっと子どものいるリビングを見る。

<<子どもはいつだって初期衝動! 部屋はいつだって無秩序!>>

(↑この一行からなぜか“オイパンク”というジャンル名を思い出した)

子どもなんてのは「初期衝動の塊」でできている。逆にいうとそれ以外の要素はあまりない。「おもしろい! → やってみたい! → やらかした!」の三段オチが日々無限ループしている。おかげで部屋はいつもおもちゃや食べこぼし、おもらしでカオスだ。うん、実にパンク。

ついでに母親である私のメンタルの具合も最近ややパンキッシュになっている。こちらは由々しき事態だ。

「あら、やらかしたねー!」と、それを楽しめているうちはいいのだけど、多忙や空腹にこちらが負けてしまうことがある。年末に向けてそれは加速している。ホルモンバランスの乱れ?更年期?いやそんなバカな!と自問自答を繰り返しながらずっとイライラしている37歳。それはまるで、いとうあさこの朝倉南ネタのように。
(イライラする!その例えが余計にイライラする!!)

子持ちの身として本書を読んだ印象は、コラム部分はこれから親になる人にはインパクトがあり、すでに親である人には「あるある!」と共感する部分もあるだろう。個人的には著者インタビュー部分や小島慶子さんとの対談部分を非常に面白く読んだ。

ラジオパーソナリティーとしてもおなじみの小島慶子さんには二人の男の子がいる。「異性の子を持つ親同士」。この対談は、同じく“異性の子”を持つ筆者としても興味深いものであった。


「怒ると叱るの違いについて」のくだりは、同じようについ感情的に怒ってしまう自分を反省しつつも、人間だから、一緒に住んでればぶつかるよねー、でもきちんと謝ることも大事だよね、ということが子どもにも伝わればいいなと思うし、ひとりっ子だった私はその“家族内軋轢”をいま初めて体感しているわけで、「もっと子育てはゆるくダサくていい」という意見にはおおいに賛成したい。

私は強大な見えない何かに押されるように、架空の「完璧なお母さん像」を求めて、それに微塵も届かない自分に嫌気がさし、イライラを子どもにぶつけてはいなかっただろうか。自分の中にある「親」という存在のハードルを上手に下げてあげる努力をすれば、子どもとの毎日はもっと楽しいものになるのではないか──。

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先日、クリスマスプレゼントに何を欲しいかと夫に聞くと「みんながニコニコして暮らしてくれたらそれでいいです」と答えた。

「なんだ、安上がりだなあ」とボヤく私に、「安くないよー、難しいよ」といった夫だが、確かに毎日ニコニコで子どもと暮らせているかといわれると、うーん。

完璧な親になんかならなくていい、今そこにある危機をやっつけていくだけ──それを理屈ではわかっているのだが、実際にはうまく立ち回れない。

異性だし自分ではない生命体なのだから、自分のものさしで縛ってはいけないと思いつつ、どこかで「私の体から生まれたのに何で分かり合えないのか」と複雑に考えてしまいがちなところを笑いながらシンプルに整理する……。


どこで覚えてきたのか、息子は最近「ちょういうこと(=そういうこと)も、あるよねー」と笑いながら口にする。

ちょっと!3歳児に言われたくないよ!と、こちらもつい笑ってしまうのだが、日常なんて「そういうことも、あるよねー」と笑いながらの繰り返しでいいのかもしれない。

■「芸能人の子どもたち」または「昼間のパパは光ってる」
本書の感想で「子どもの名前や体の成長(初潮)についてのことが書かれているが大丈夫なのか」という意見が見られた。著者本人も「心が痛むところだけど『申し訳ないけどネタにさせてもらうよ』って(笑)」とインタビューの項でコメントしているとおり、葛藤し推敲しての今、ということなのだろう。

想像するに、大半の有名人の子どもというのは大きな起伏もなくきっと穏やかに過ごしていて、たまにうまく世の中を渡れなかったものが、“おもいッきり”ドロップアウトしてしまうのではないかと思うのだが、そういうのばかりが報道されるので強調されがちな点はあるだろう。

とあるタレントさんの子と学校が一緒だったことがある。
当時そのタレントさんがラジオのレギュラーを持っていたのだが、たまたま車中で番組を聴く機会があった。タレントさんが子どもの話をする。恥ずかしい失敗談などもする。年齢等を考えると確実に、「その子のこと」なのである。しかし、学校では誰もその事実に触れずに過ごしている。

もちろん誰かに「聴いたよー」とニヤニヤしながら言われたら、それに返すセリフもずっと用意してあるのだろう。しかし、誰もそうする人はない。本人もまわりも、「今そこにある事実」として漠然としたものを、ただ「ああ、そうだよねー」と受け止めて生きているのではないか。そんなふうに感じていた。


本作中に登場するマキタさんのお嬢さんたちを、一度、新宿のライブハウスでイベントの手伝いをしていた時にお見かけしたことがある。「こんなところに子どもが!」と思ったのだが、人づてに聞いたところ、お父さんのライブを見に来ていた娘さんたちだったという。おとなしくソファに座っていた姿をよく覚えている。

最近は企業でもファミリーデーが設定されていることがあると思うが、少なくとも夫の会社にその制度はないし、お父さんの仕事場を見られる子どもというのは、現在でもさほど多くないのではと思う。

舞台に上がってかっこよくギターをかき鳴らし、満員のフロアから歓声と笑い声とライトを浴びるお父さん。それを見られるのはとても幸せなことではないだろうか。


「自分の思う子育て論」や「テクニカルな育児ライフハック」の面から展開するお父さんたちのブログや本は散見するも、一歩踏み込んだ、内側の黒くてモヤモヤした感情まで吐き出した“子育てドタバタ奮闘記”というのは、男性がよほど饒舌か飲んでいない限り、日ごろあまり語られない類の話だと思う。そのため、妻の立場として読むと「へえー、男の人ってこんなふうに思って子どもと接しているのかー」と興味深い発見があったことを記しておく。

世の中にはたくさんあるはずの、男性の泥臭い育児奮闘記、というのを私は今もっと読みたいのかもしれない。

ワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在は日本テレビグループ・LIFE VIDEO株式会社のデジタルコンテンツ全般を担当。

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