「社会全体で子育てを」というお題目の前に、大人が傍の子どもに「意識」を少し寄せてみる

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2014年01月27日 09:30  MAMApicks

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長い横断歩道を渡るときには、自分の身ひとつでもそれなりに緊張をする。子どもを連れているときにはなおのことである。信号が「青」である時間は、意外に短いからだ。


反転して車道の運転者側に立てば、じれったいほど緩慢に見えるだろう歩行者たちの動き。
けれど子どもの手を引いているとき、あるいは子どもを引率しているとき。横断歩道を行く歩行者の立場にいるこちらはこちらで、時間内に、スムーズに渡り切ろうと、見た目よりずっと必死だったりする。

それはいつもの、保育園からの帰り道であった。

毎夕まだちょこまかしい3歳児の、機嫌や気分や興味をいなしながら、手をしっかりつないで待つ交通量の多い国道の赤信号。そこに、小さな子どもたちと、そのうしろに大きな人影が近づいてきた。

一瞥して、我が子と同じ年頃の双子の男の子と、妊娠中のお母さんだと分かった。もう産み月が近いようすの大きなお腹。私の身にも覚えがある。もう、そう迅速に動ける体ではない。

ほどなく信号が青に変わり、待っていた人びとが一斉に渡ろうと動いた。
でも、その人びとのボリュームが思いのほか多かったせいもあるのだろう、小さい男の子たちの意識が一瞬、「横断歩道を渡ること」から、ブレた。

そのブレは、そばにいた他人である私にも伝わった。お母さんの焦りの気配に振り向くと、急いでいるのか、左折待ちの車がスレスレまで迫っている。

信号の下、薄暮。発光ダイオードの赤色が鋭く示す残り時間はわずか。3歳の手をにぎった状態で、私に何かできるか? その刹那、思いを巡らせた。

私が、とっさに試みたのは大したことではない。もともと歩みの遅い我が家の3歳の歩調に合わせ、ほんとうにスレスレまで来ている左折車の前を、よりゆっくり歩いただけである。横断歩道の右端の際を、私たち母子が行き、そのすぐ左側をゆらゆら妊婦さんが、その脇を双子の子どもたちが、ジグザグに、行き過ぎていく。

その時間としてはとても短かったと思うけれど、その数秒はストップモーションのように長く感じられた。間もなく青信号は点滅し、赤に切り替わって、一呼吸。我が子も含めて子どもたちが、その親が、あちら側に、無事渡り終えた。

そこからは何もなく、何ごともなく、いつもの帰途についた。

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「社会全体で子育てを」というような、世にあふれるお題目は、けだし正しいが、いまいち具体性に欠ける。身内や教師役ならともかく、見ず知らずの他人は何をしたらいいのか分かりにくいし、実際のところ、ぜんぜん、分からない。

下手に子どもに声掛けをして通報されてはかなわないから、むしろ子どもなどまとめて無視した方が、お互いのためのような気にさえなってくる。道理だ。

自分が子育て人としてその暮らしに埋没していれば、さて「いったい社会の誰が何をしてくれるの」と、居丈高に問い質したくなる程度には、上っ面な言葉にも聞こえる。私にも、ずっとそう聞こえていた。

でも、この日のこの時、私には「あっ」と気付かされたのである。もしかすると、「こういうこと」だったのじゃないかと。これで良かったのじゃないか?

それは可視性もなく、誰に認められるわけでもなく、褒められもせず、その代わり苦にもされない。

大人である自分が、「もしかして必要になるのではないか?」と気づくことができたときにだけ、見知らぬ母子や子どもに、「意識をほんの少し、振り分け」「自分に可能な範囲で咄嗟に動く準備をする」。ただ、それだけのこと。

必要にならなければ、動かなくて構わない。ただ、アンテナを立てるだけ、センサーのつまみを少し回すだけ。いつも自分と自分の身に付帯するところにだけ振り分けている意識を、ヨソの見ず知らずの、「社会の」子どもに、ちょっと寄せてみるだけのことだ。

何も減らない。何も失わない。何も、損しない。


そんなこと自己満足の思い込み? 何もしないでいいことした気になっているだけの偽善? でも、それでいいんじゃない?

例えば、私の手を離れている時間の、私の子どもたちが、危ない横断歩道を渡っているときを想像してみる。そんなふうに「意識」を寄せてくれる大人が、傍にいたなら。ひとりでも、ふたりでも、と。そんなふうに気にして貰えたなら、と想像してみれば分かる。それは、なんていう心強さだろうかと、胸が熱くなるから。

藤原千秋
大手住宅メーカー営業職を経て2001年よりAllAboutガイド。おもに住宅、家事まわりを専門とするライター・アドバイザー。著・監修書に『「ゆる家事」のすすめ いつもの家事がどんどんラクになる!』(高橋書店)『二世帯住宅の考え方・作り方・暮らし方』(学研)等。11歳7歳3歳三女の母。

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