【書評】「いくもん!」を読んで、分からない側の気持ちを分かろうとしてみた

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2014年02月27日 12:01  MAMApicks

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『混迷社会の子育て問答 いくもん!』(扶桑社)を読んだ。
雑誌「SPA!」で現在も連載されているコミック形式の育児エッセイなのだが、よくある感じの育児ものと一線を画すのは、作者である中村珍さんが独身・子ナシ、ということ。

育児本、漫画、エッセイは著者の経験を元に語られるものが圧倒的に多いが、同書は中村さん自ら、「カヤの外から問答し、斬る!」と公言している異色中の異色。お題も、「キラキラネーム」や「SNSでのイクメンアピール」、「ベビーカーでの外出」、「毒親」などのケーススタディに中村さんが問答し、時には「この親に育てられたい度」など採点もする。

子育て経験者による本はノウハウが詰まっていて参考になるし、「あるある!」とか「うちだけじゃないんだ! 安心した!」と共感する楽しさがある。対して、子どものいない人からの斬り込みって相当ハードそう、結構辛らつなことも言われてしまうのではないか?とブルブルしつつ、その異色っぷりが何だかとても気になって発売を楽しみにしていた。

また、自分が今現在どういう親であるかが違う視点から透けて見えるかな、と思ったのがこちらの作品に興味を惹かれた一因でもある。

ひとたび親になってしまうと、視界には「親フィルター」がかけられる。どんなに冷静で客観的な視点を持っている人でも、少なからず「親フィルター」を通して物事を見るようになるのではないだろうか。

「親フィルター」を装着していると、自分の子どもが可愛く見えるのは当然のこと、よその子どもも可愛く見えたり、子どもにまつわるニュースなどが他人事とは思えなくなる。親になって、経験を積んで初めて分かることもあり、「親にならないとこれは分からなかったなあ」と気付きを得る瞬間もたくさんあるのだ。

しかしその一方で、確実に「親になる以前の自分」を少しずつ失っていくのも事実で、今回「いくもん!」を読みつつ、「私も一緒に問答してみよう!」とトライしてみたのだが、自分が親であるということを抜きに、フラットに育児の問題を考えてみようにも、びっくりするくらい自分の親フィルターが外れないのだ。

親になってまだ1年ちょっとである。それまでの人生の方がずっとずっと長かったのに、「うちの場合はこうだったもんな……」とか、「やっぱりこういうことすると親が悪いって思われてしまうんだな……」と、親目線の思考になってしまう。

自分でも超がつく親バカである自覚はあったのだが、ここまでとは。また、日々目の前にあることを消化していく、起きた事に対応、というのが常なので、論理的思考ができなくなっているというのも悲しい現実。


この数年、「子持ち」vs「子ナシ」の対立構造を目にする機会が劇的に増えた。
「子連れで公共の乗り物に乗るべきか」などはその最たるもので、この議論が始まるともう完全に泥沼である。ネット上でこの争いを今まで何度見てきたか分からない。テレビ番組などもこれに便乗する形で取り上げるものだから、ひとつ火が消えたと思えば、また違うところで着火される状態。厄介なのは双方とも正論を述べているのだ。だから中々交わらない。そしてお互い正論だから引っ込みがつかない。

しかしここで子持ちが一番言ってはいけない言葉が、「子どものいない人には分からない」ではないだろうか。
たしかに子育ては想像をはるかに超えることの連続である。だけど、「子どものいない人には分からない」と切り捨てることは何も状況を良くはしない。良くはしないどころか火に油か。

以前、似たような議論がネット上で起こっていたとき、2児の母である女性が、「育児で苦労した人にしか分からない問題もあると思う。だからこそ分からない側の気持ちも分かる親ではありたい。」と言っていた。

この言葉にはハっとさせられた。「分からない側の気持ちを分かろうとする」ということ。その意見が正しいか正しくないか、をジャッジするのではなくて、その人の意見として受け入れるだけのこと。議論が熱を帯び、自分の主張を通したいと思うと、それさえもできなくなるときがあるのだ。

その言葉が響いて、「いくもん!」を読みながら、今回は自分の主張や問答はひとまず置いておいて、「私は親目線で考えてしまうけど、子どもがいない人はそれぞれの事例をどう見ているのかな」と寄り添ってみたくなった。それは決して迎合でも媚びへつらうでもないし、ましてやご機嫌伺いでもない。

最初のうちは鋭い指摘も多く、「読み終えるまでに私の心、折れたりしないかな……」と危惧もしたのだが、中村さんの視点はいたってシンプルで、時に優しく、配慮があり、日頃考え過ぎるクセのある私はもうちょっと楽観的に流されてみるのもいいかなと思い出した。

「ギャルママに学ぶ育児」の項が、「等身大の性格のままいることが育児のコツなのかも」で締められていたのがとてもしっくりきた。

しかし中村さん、この連載を担当していることで、相当の批判も受けているらしい。
この連載の鉄則が、「人の痛みに鈍感に」「自分のことは棚に上げ」であり、人の育児を批判するものなので、自分自身が批判されることも受け入れているようだ。だからこそ中村さんは、この連載が続く限りは自分は子どもを持たない、と決めているらしい。

人を傷つける可能性のある仕事をしている姿を自分の子どもに見せられるか、子どもに見せたくない仕事は親になる前に完結させてしまおう、親になるときはこういう漫画をやめようと思って臨んでいる。今は子どもを持たない理由はそれ以外にも書かれているのだが、「子どもに自分の仕事を見せられるか」という自問自答は、なかなか考えないことかもしれない。

コミック形式なのでサラっと読むこともできるが、情報量も多いので子どもの成長に合わせて繰り返し読むのもよさそう。そして、今後も中村さんの問答を読みたいなと思う一方で、中村さんが今後お子さんを持つことがあれば、その時には改めてその育児本も読んでみたい、と期待してしまった。

真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。

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