ゴースト・新垣氏は著作権を主張できる?

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2014年03月04日 13:10  JIJICO

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著作者と著作権者は違う。著作者は著作権の売却も譲渡もできる


作曲家・佐村河内守氏を巡って、ゴーストライターと著作権の関係が注目を集めています。ネット上ではさまざまなコメントが書き込まれていますが、いくつかの原則をはっきりさせておく必要があります。


第一に「著作者と著作権者は違う」という点です。著作者は、実際に創作活動をした人です。楽曲の場合で言えば、実際の作曲者となります。著作者は通常は自然人ですが、法人著作の場合は法人が著作者となります。この場合は、著作物がつくられたとき、法人が著作者であり著作権者になります。


一方、著作権者は、著作物に関する権利を持っている者です。人が創作活動をした場合、それによって自動的に著作権が発生し、多くの場合、その人が著作者であり著作権者でもあります。しかし、著作権は譲渡できます。例えば、あなたが作曲をした場合、著作権を売ることも、タダで譲り渡すこともできます。その場合、譲り受けた人が著作権者です。


新垣氏は、著作者人格権である氏名表示権を主張できる


第二は、著作者の権利は「人格権と経済的な権利の二種類がある」という点です。これは上記の第一の点と裏腹の関係にあります。つまり、創作活動によって著作権が生じた瞬間では、通常、著作者=著作権者なのですが、この著作者としての権利(著作者人格権:具体的には氏名表示権などがあります)は原則的に誰にも奪われません。ただし、経済的な権利としての著作権は譲渡可能です。


新垣氏が真の作曲者(ゴーストライター)であるとして、上記の二つの原則を佐村河内氏のケースに当てはめてみましょう。まず、新垣氏は著作者であり、この著作者としての権利(人格権)は今でも失われていません。したがって、新垣氏は、著作者人格権である氏名表示権を主張できます。一般的にゴーストライター契約では、著作者人格権の不行使も契約内容に含む場合が多いと思われますが、これが絶対的に有効(つまり、契約によって氏名表示権が失われる)だというのは難しいでしょう。


今回の騒動では、佐村河内氏は著作権者に該当


では、著作権者はどうでしょうか。佐村河内氏のケースでは、新垣氏が佐村河内氏と契約を結んで楽曲を提供していたわけです。この契約(ゴーストライター契約)については、単なる著作権譲渡だけでなく、「真の著作者を表示しない」ことを契約内容に含み、公序良俗に反するという立場もあり得ます。ただ、ゴーストライターとしてこれまで長年にわたって楽曲を提供し、対価を受領してきた新垣氏の側から著作権譲渡は無効だと主張するのは認められがたいでしょう。また、第三者が佐村河内氏は著作権者ではないと主張する必要もありません。それゆえ、基本的には佐村河内氏が著作権者となります(佐村河内氏が著作権を放棄することは可能ですが)。


というわけで、今回の騒動における原則的な結論は「一連の作品の著作者として、新垣氏は『作曲者:新垣隆』という表示を求めることができ、その場合でも、佐村河内氏が『一連の作品の著作権者であることは変わらない』」ということができるでしょう。



(小澤 信彦・弁理士)

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