【書評】『ママだって、人間』妊娠・出産・育児の「おかしい常識」に真っ向から向き合う一冊

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2014年04月21日 20:01  MAMApicks

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毒母ブームの火付け役の一角、田房永子さんの近著『ママだって、人間』(河出書房新社)。著者自身をモデルにした主人公「エイコ(32歳)」の、妊娠中から出産後の生活を描いた漫画だ。

妊娠2ヵ月のエイコがつわりで憔悴しきり体を震わせているところから物語は始まる。かつて高校の女性教師が言っていた「赤ちゃんに会えると思うとつわりは乗り越えられる! それが母性!」という言葉を思い出すエイコ。「自分の赤ちゃん」というものがピンとこないエイコは、週刊誌的な情報を心の支えにしてつわりを乗り切る。エイコにとっては「母性」よりもよっぽど役に立ったのだった ――

Kawade Web Magazine|ママだって、人間 | 田房永子
http://mag.kawade.co.jp/mama/
※第1話のみ、試し読み公開中

本書はこれまでの育児書にはなかったさまざまな視点や気づきを与えてくれるが、例に挙げると、世間的には存在しないことにされている「妊婦の性欲」を肯定している。そもそも妊娠中の性行為は何かと制約がつきものだ。妊婦雑誌などを参考にしようものならダメなことだらけで、「こわいからやめとこ」となる。

そこで著者は、妊娠中の性行為のお助けグッズとして「TENGA」を推奨している。「TENGA」とは、スタイリッシュなデザインが特徴の女性器を模した男性用マスターベーショングッズだ。「TENGA」を使えば、挿入するかしないか、0か100のところに「50」の選択を与えてくれる、と提言する。

夫の性欲を満たすために妻がご奉仕するものとして使用を勧めているわけではない。あくまで妊婦自身の性欲を満たすためや性行為で夫婦のコミュニケーションを図るためのもの、という位置づけだ。いずれにしても妊娠中の性行為のハードルを下げることは、夫婦関係の維持に大いに役立つであろう。


出産直後の心境に関する表現も秀逸だ。自分では何ひとつできない赤ん坊をこれから自分が主体となって世話していかなければならないというプレッシャー。「2日前まで私は私でしかなかったのに 突然マリオネットに… 私の人生はおとといで終わったんだ これからのマリオネットの生活が本当の人生なんだ」と考え、大粒の涙を流す。

世間的にはいまだ、妊娠は「女の」自己責任ということにされがちな風潮があり、さらに母親は子どものためならどんどん母性が溢れてきて、どんな辛いことにも耐えられるお母さん、しか想定されていない。

「子育ては大変だけど、赤ちゃんがかわいいから平気です!」という答えしか認められていないのだ。母親ひとりに子育てのすべてがふりかかってくる社会構造になっていることは否めない。


最終章で描かれる、エイコが前の職場の飲み会に参加したエピソードも現実を写し出す。
その飲み会は男性も全員子持ちのメンバーなのだが、まったく話がかみ合わない。男性たちはみな、「男には母性やおっぱいがないから女には敵わない」などと言って、子育てを妻に丸投げしていることにエイコは愕然とする。

自分は風俗に通いながらも「奥さんには女でいてほしい」とか、「子どもができてから挿れるのがこわくてヤってない」などと臆面もなく言う男性たち。男性にとって都合のいい「お母さん」の像がひとつだけしか存在しないのだ。どんな人生を歩んできてどんな性格をしているとかはまったくないものにされてしまうことにエイコは辛くなる。


妊娠・出産という非日常体験をすると、「これはおかしいのでは?」と思うことに多々遭遇する。それは世間の「妊婦」「出産」「お母さん」に対する一方的なイメージや、都合のいい押し付けから来ているものだったりするのだが、その渦中にいる母親は赤ちゃんの世話をするのに手いっぱいで考える余裕がない。

それに、自分が我慢して無理して「世間が求めるお母さん像」に自分を近づけた方が楽なように感じるから、深く考えることをしない。だってそのままの自分で世間から「NO」を突きつけられるのは恐いから。自分の精神状態を保つのが難しい子育て中に、心身の故障を誘発しそうな考えを避けるのは当然だと思う。

しかし、エイコはつねに妊娠・出産・育児の「おかしい常識」に真っ向から向き合って自分なりの答えを見つけていく。そんなエイコがとてもまぶしく見える。


子どもを産んだからといってすぐに「お母さん」になるわけではない。
今まで生きてきた延長線上の自分でしかないのだから、いきなり「赤ちゃんのためなら母性が無限に湧き出すお母さん」役を演じなきゃならないのは無理がある。

だけど実際には、赤ちゃんと離れたいと思うことで罪悪感を抱かせるような窮屈な子育てしか用意されていない。だからよけいに苦しくなる。

赤ちゃんが寝ないとか泣きやまないとかより、よっぽど世間に対して「いいお母さん」を維持する方が疲弊する。どんな服装をしていようがどんな子育てをしていようが関係ないのに、「正しいお母さん」かどうかを世間はいつもジャッジしてくる。

そんな世間に対して、エイコは声を大にして言うのだ、「ママだって、人間だよ」と。
子育て中の人も、子育ての予定が無い人も、老若男女に知っていてほしい本書。

最後にエイコは「母性」とも、自分なりの決着をつける。エイコなりの答えを、ぜひ読んでみて見届けてほしい。

山本 佑美
フリーライター。在宅テレビ評論家。インターネットを軸として結婚、出産、子育てにまつわるあらゆる情報を収集、分析、発信している。自宅を中心に精力的に活動中。家族は夫と2歳の娘。江東区在住の愛鳥家。うずらとインコの飼育経験有り。

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