ニセ手紙で逮捕 偽計業務妨害とは

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2014年05月09日 10:10  JIJICO

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手配ミス隠ぺいのために「ニセ手紙」。偽計業務妨害で逮捕


岐阜県の県立高校から発注を受けていたにもかかわらず、遠足用のバス11台の手配を忘れていた大手旅行会社の社員が、自分の手配ミスを隠ぺいするために、同校の生徒を装って遠足中止を求める「ニセ手紙」を学校に届けたという事件がありました。


この学校では、遠足前日に届けられた「生徒」の手紙に、自殺をほのめかす内容が含まれていたことを重く見て、全生徒317人の安否確認を実施したうえで、予定どおり遠足を行うことを決めました。しかし、遠足当日の朝になってバス11台が手配されていないことが判明し、結局、遠足は延期となりました。


この社員は事件直後に懲戒解雇されましたが、岐阜県警は先日、元社員を「偽計業務妨害」の容疑で逮捕しています。「偽計業務妨害」とは、虚偽の風説の流布や偽計により他人の業務を妨害する罪(刑法233条)であり、有罪となった場合は3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。


本件では、通常業務の遂行を妨げた点が「業務の妨害」にあたる


ここで「虚偽の風説の流布」というのは「根も葉もないデマを流すこと」を意味し、「偽計」というのは「人をあざむく計略」を意味します。また「業務」というのは、営業や生産といった職業的・事業的な経済活動だけを指すのではありません。社会生活一般において反復・継続して行われる活動全般も、ここでいう「業務」に含まれます。警察署や消防署をはじめ、官庁・企業に対する「いたずら電話」や、インターネットを利用した「犯罪予告」などに「偽計業務妨害罪」が適用されることは、もう「お馴染み」と言っても良いでしょう。


さて、本件の場合は、「ニセ手紙」を学校に届ける行為が「偽計」に該当し、県立高校の教職員に全生徒の安否確認をさせるなどして通常業務の遂行を妨げた点が「業務の妨害」にあたります。ここで「遠足を中止させたことが業務妨害じゃないの?」という疑問を感じた人もいるでしょう。その疑問はごもっともなのですが、本件で遠足が延期となった理由は、あくまで「バスが来なかったから」であって、元社員の「偽計=ニセ手紙」とは因果関係がありません。


もし仮に、学校側が「ニセ手紙」の内容を信じて、そのまま遠足の中止を決定していた場合だったらどうでしょう。この場合は、まさに元社員の「偽計=ニセ手紙」が功を奏して遠足が中止されたことになりますから、「遠足を中止させたこと」が業務妨害の対象となったはずです。そうすると、元社員が「ニセ手紙」を学校に届けた時点で、それが功を奏しても、たとえ失敗しても、いずれにせよ業務妨害罪が成立する運命にあったということになるわけです。



(藤本 尚道・弁護士)

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