共働き家庭、幼児教育を考える

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2014年05月12日 12:01  MAMApicks

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MAMApicks

写真
先日、保育園に行くと、息子のクラスに粘土作品が展示されていた。
なにしろ年少さんが作るものなので、作った園児の名前とともに何を作ったのか、先生の字で添えられていた。
息子のそれは、なんと形容したらいいのだろうか……スライム状の、ドラクエに出てくるはぐれメタルのような形の、薄くこんもりとした何かが作られていたのだが、紙を見ると「おやま」と書かれていた。なるほど、間違ってはいない。

「あのねえー、ちっちゃい、ちっちゃい、おやまなんだよぉー」

私の「どんなおやまなの?」の質問に息子はそう答えた。
それは何かで読んだ「子どもの描いた絵などに『じょうずね』と能力を褒めるのではなく、がんばりを褒めた後にプロセスを聞き出せ」というのを思い出していたからだ。

ほかのクラスメイトたちはどんなものを作っているのだろう。ふと気になって周りの作品を見渡した。

『ハンバーガー』というタイトルでねんどの大きなかたまりを作り上げている子、『へび』『おだんご』……この辺りはトラディショナルかつスタンダードである。

「ん?」

私はある作品の前で目が止まった。

きれいに形成された平たい円形、その上に丸い団子が3つ、まゆ毛のような細長くてアーチ上のもの……。
まぎれもなく「アンパンマン」である。大人が見て一瞬でわかるほどのできだ。

その子だけではない。もうひとり上手にアンパンマンを作り上げている子がいて、その二人に共通するのは、3歳からの途中入園組であるということなのだ。
美術の教室にでも通わせていたのかな、それとも……?

その晩私は、なんだかもやもやした気分を抱えたまま床に就いたのだった。

■“フルタイム勤務”vs“習い事”
息子と仲のいい年上の子がピアノを習っているという話を聞いた。息子がそれにつられて「ピアノやりたい」と言い出したので、純粋にピアノを弾きたいのか、彼女と一緒にいたいだけなのかを親として見極めきれぬまま、教室探しをすることとなった。

徒歩圏内にはないものの、隣の駅まで出ると、2つほど幼児向けのピアノ教室がある。どちらもCMで見かける最大手のところだ。しかし、そのうちのひとつはレッスン日が平日。両親ともに月〜金フルタイムで働いている我が家の選択肢は、必然的に残りのひとつに絞られたわけだが、皆さん同じような境遇なのであろう、土曜日のそのレッスンはすでに満員。体験レッスンすら予約が取れなかった。

その後も「お習字やりたい」「ダンスやりたーい」「サッカーやりたい!」と本人のやる気はとどまるところを知らない。
しかし、探してみると、その費用はなかなかバカにならない金額だ。

本人の意思を、親の都合や金銭的な理由でNGを出すのはさすがに忍びなく、できるだけ希望をかなえてあげたいのだが、まず、年少さんが入れるところが少ない。そして、健康センターのカリキュラムなど、比較的安価なレッスンは、だいたい平日に行われている。

平日に早退して付き合えばいいのだろうか。しかし残念ながら我が家は裕福ではない。私の早退が重なると毎月の生活費が赤字になる。
そんな折、「親の年収が多いほど子どもの学力が高い」なんて統計をニュースで見ると、なんだかますます申し訳ない気分になるのだった。

■多様化する保育園・幼稚園のカリキュラム
息子の通う保育園は公立認可園で、乳児と幼児では月額の保育料に差が出る(幼児のほうが安い)。
「その差額を習い事にあててもいいよね?」というと「えー、そのぶん生活費に上乗せしてよ」という夫なのではあるが、子どもに何かやらせようということに反対をしているわけではなさそうだ。

同じように「差額で習い事を」と考えているご家庭が多いのか、3歳児クラスに進級したあたりから、リトミックなどに通いだした同級生も増えたし、教材を取ったという家庭の話も聞いた。

私立の保育園ではさまざまなカリキュラムを取り入れていると聞く。
私立園に通う知人の子は3歳ですでに字が書けると聞き驚いた。私立幼稚園では英語やスイミングを取り入れているところもあるそうで、夜遅くまでの延長保育に対応している園もある。

息子の友だちのひとりが、3歳児クラスに上がるタイミングで、幼稚園に転園することになった。保育園から幼稚園の転園、というのは、いろいろな事情がおありだったのだろう。しかし、転園先の幼稚園の豊富なカリキュラムを聞き、教育を考えてのことだったのではと思ったのだ。

そう考えた理由のひとつにあるのが「英語」である。

■小学校まであと3年?もう3年?
筆者の住む地域では公立の小学校でも1年生から英語の授業がある。小学校では、英語の授業を取り入れている幼稚園・保育園から来た子たちとも同じクラスになるし、子どもによってスタートのレベルが大きく異なってしまうことは考えられる。

そのあたりは少し気になっていて、0歳のころから『えいごであそぼ』を録画して見せているものの、本人があまり乗り気ではなく、「見ない」と言う日も多い。そのわりに『ABCの歌』をでたらめに「♪えーびーしーひーへんーふんーひー」と鼻歌で歌っているゴキゲンな日もあったりはするのだが。

……ふと気づく。
子どもが年少になってから、私の気持ちが小学校に向くことが多くなっていないか。

乳児のうちは、保育園に子どもの安全と快適な環境を一番に求めていたけど、今は、できれば園で英語、音楽、体育、美術……、もっといろんなカリキュラムを取り入れてほしいという希望があることは間違いない。

街で「幼児教育」の看板を見かけるたびに心がざわつく。
何がそんなに私を焦らせるのだろう。それは小学校が射程範囲に入ってきたからだろうか。

「あと3年もある」なのか「もう3年しかない」と思うか。
たぶん今の私は後者で、いかに小学校でなじめるか、置いていかれないかを心配している。子どももそうだが、親のほうもだ。

学童は入れるのだろうか? それはどんなシステムなのだろうか。仕事は今までどおり続けられるのだろうか? 小学校のPTAって大変だって聞くしなあ、など……。

■ええい、全部やったれ!
私は息子の同級生による粘土作品にもやもやした理由を考えていた。それはある種の焦燥感であった。

造形だけでなく絵でもそうだが、息子のでたらめな(よく言えばパンクな)線画のようなお絵かきに対して、顔のようなものを描いたり、きれいに虹を描いて色を塗ったりしている子もいる。

写真でその様子を見せると、夫は「今のところ、オレのほうに似ちゃってるんじゃないかな」と苦笑いなのだが、私は気づいた。“美術に関しては得意である自分の子どもの美術センスの危うさ”を憂いていたのだと。

「この子はこの子だから、人と比べちゃいけないよ」

出産して間もないころ、病室で母に言われたその言葉を思い出した。
オンリーワンだと思って育てていたはずの子どもに、いつしかナンバーワンを求めていたのではないのだろうか。


お金がない、平日動けない、でも子どもには不自由をかけたくない、そして子どもが何を気に入るかわからない。かといって何もやらせないまま就学するのはちょっと不安……。

それらをふまえて考えたのは「体験レッスンあらし」である。
これで「土日にどこ行こう?」と行き先を考える作業からも若干開放されるし、体験レッスンで講師の教え方を学び、家で実践したい、そんな大人の思惑もあるのだ。

もちろん気にいって「入りたい!」となった場合を考え、ほどほどのレッスン料のところを選んでいるのだが、親から離れないといけないレッスンになると、我が家の3歳6ヵ月児は泣いて帰ってくるはめになる。

ダンスはこのパターンですでに一度失敗しているのだが、それでも本人がまだ「ダンス習いたい」というので、別のところをリサーチしている最中だ。次は、親が同伴でもいいところを。

英語は「体験見学会」というのに行ってみたら、大人との事務的な話で終わってしまったので、ちゃんと「体験レッスン」と銘打っているところに行かないといけないのだな、と反省をした。

習字は、近所の書道教室で年少さんの受け入れをやっていないことがわかったので、取り急ぎ「水で書けるお習字セット」を購入。まだ字を書くわけではないが、筆の感触をそれなりに楽しんでいるので、これであと1年もつだろう。

そのほかに関しては、家族それぞれが本職や趣味などの得意分野で対応していくつもりだ。


保育園から帰宅し、寝るまでの1時間ちょっと(お風呂、親の食事の時間込み)の間にどれだけできるかわからないのだが、親がめんどくさがらずにいろんな側面からの“世の中”を見せる、コーディネーターのような存在でありたいと思っている。

何を習わせるかはともかく、大人になったとき何かをアウトプットするには、もともとのインプットが多いほうがきっといいだろう。


……ふと、筆者の幼少期を思い出してみた。
高校は美術クラス、専門学校もデザイン科ではあったが、美術が得意になっていくのは中学以降の話なのだった。

幼稚園のねんどではへびしか作らず、授業参観に来た親が苦笑い。ぬりえは派手にはみだして、絵のうまい同級生に「塗り方が雑」と叱られる始末……。

そんな私でものちにデザイン職についているのだから、あわてなくても何とかなるのかもしれないし、人間の可能性というのは、こちらが思っている以上に未知数なのかもしれない。

どこまで口を出してどこからは見守るのか。
線引きは難しいが、マイペースな息子の進む道を、一定の距離感で後押ししたいと思う。

ワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在はWEBディレクター職。

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