取り調べの可視化、弁護士の見解

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2014年05月14日 10:10  JIJICO

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取り調べの可視化、対象事件の範囲の狭さが問題


時代にあった捜査や公判のあり方を探る法制審議会(法相の諮問会議)の部会に、今、議論中の取り調べの録音・録画(可視化)につき、法務省が取りまとめに向けた試案として、裁判員裁判の事件に限って捜査の全過程を可視化するとの案を示したということです。確かに逮捕から起訴までの全過程の録音・録画を義務付けたのは一歩前進といえるでしょう。ただ、問題は対象事件の範囲の狭さです。殺人・放火などの重大事件である裁判員裁判の事件は、刑事事件全体の2%にすぎません。


そもそもこの取り調べの可視化の議論は、厚生労働省の元局長が虚偽有印公文書作成罪・同行使罪に問われ無罪となった事件がきっかけとなって始まりましたが、今回、法務省から示された案では、この事件は可視化の対象とはなりません。また、最近では、遠隔操作されたパソコンによる犯罪予告で、虚偽の「自白」による誤認逮捕が判明した事件も対象外です。


本来、重大事件かそうでないかと、冤罪の危険性があるかないかとは直接の関係はないはずです。対象を裁判員裁判の事件に限るのは、取り調べの可視化をあくまで例外的な措置として位置付けたいという意図の表れといえるでしょう。


捜査当局は取り調べの全面的な録音・録画に道を開くべき


捜査当局として、取り調べの可視化について「事件の真相解明に支障が大きい」と抵抗感を示すのは、ある意味で自然な反応なのかもしれません。しかし、捜査当局にとっても、取り調べの可視化により、例えば「自白」が誘導や強要によるのではなく、自らの意思によるものであることについて最終的に検証できることは、大きなメリットのはずです。裁判員裁判制度の導入で刑事裁判に対する国民の関心が確実に高まっている今こそ、捜査当局は率先して、取り調べの全面的な録音・録画を原則とすることに道を開くべきではないでしょうか。


もっとも、取り調べ中に常時カメラが回っていることは、例えば暴力団犯罪などで報復の恐れを考えると、支障があることも理解できます。ただこの場合でも、公判において取り調べ記録を慎重に扱うなどの工夫をすることは十分可能と思われます。できない理由を並べて、取り調べ段階で検察官らの作成する、被疑者の「供述」を過度に重視してきた旧来型の捜査や公判を維持しようとするのは、時代の流れに逆行していると言わざるを得ません。


ちなみに、前述の法制審議会の部会では、捜査の必要性の観点から、通信傍受の対象事件の拡大なども議論されています。検察・警察にとって「新たな捜査手法はほしいが、自らの手足を縛られるのは困る」。そんな捜査側の思惑ばかり先行するようでは、刑事司法に対する国民の信頼回復は夢のまた夢と言うほかないでしょう。



(名畑 淳・弁護士)

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