範馬勇次郎に海原雄山...丸くなっていく"強いオヤジ"たち マンガ・アニメに見る父親キャラクター像の変化

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2014年06月08日 22:10  おたぽる

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おたぽる

『ドラゴンボール』完全版16巻。

 6月の第3日曜日は"父の日"。しかし各種メディアでは重要されていないらしく、特集記事やセールの案内を見かけることは多くない。楽天リサーチのネットアンケート調査によれば、過去2年間、父の日に何もプレゼントをもらっていない父親が4割以上にのぼるそうだ。



 父親の存在感が薄いといえば、男性向けのマンガやアニメ、ラノベ、ゲームなどにも当てはまる。主人公の父親が"長期出張中・海外旅行中・死別・蒸発"となっていることも多い。この傾向は父親の同居が(作者にとって)何かと邪魔になりがちな日常系、コメディ系作品にとりわけ強く見られる。



 さて、そんな中でも有名タイトルで存在感を発揮している父親キャラクターといえば『美味しんぼ』の海原雄山を筆頭に、『グラップラー刃牙』シリーズの範馬勇次郎、そして『ドラゴンボール』のベジータ......あたりだろうか。中盤以降で父親になったベジータは特殊(そもそも主人公の父親ではない)として、先の2人は連載初期から"主人公が偉大な父親を追いかけ、乗り越えるストーリー"の到達点なので、圧倒的な強さとカリスマ性があって当然といえるだろう。



 だがそんな彼ら"強い父親キャラクター"の代表選手も、物語が進むにつれて性格がどんどん丸くなってきたのにお気づきだろうか? 『美味しんぼ』初期の海原雄山は息子(山岡士郎)と会えば罵倒して勝負を仕掛け、また何の落ち度もないフランス料理店に乗り込んだあげく「カモ肉はわさび醤油で食べた方がよほどうまい」とオーナーを侮辱するなど、暴君かつトラブルメーカーだった。それがいつしか息子の成長をひそかに喜ぶ、息子の嫁にたびたびやりこめられ「ぐぬぬ...」と悔しがる、孫の写真を見てニヤニヤ笑うなど人間的なキャラクターに変貌。今や完全に"至高の芸術家でありながら愛情にあふれた人格者"へとクラスチェンジを果たした。



 作品ジャンルこそ違えど、範馬勇次郎も同じようなステップを経て丸くなっている。初登場の『グラップラー刃牙』では血も涙もない戦闘狂として描かれ、娯楽と称して格闘家を無差別に襲撃するなど朝飯前。息子(刃牙)が激闘の末に心を通じ合わせたライバルを惨殺し、あろうことかその生首で腹話術を演じるシーンは、残虐描写に慣れたはずの読者すらもドン引きさせた。この狂気描写は『バキ』『範馬刃牙』とシリーズを重ねるごとに抑えられ、人間や猛獣を殺害する数も目に見えて減少している。以前なら殺していたかもしれない相手も、せいぜい頭皮や顔面の生皮を剥ぐ程度になった。息子を高級レストランに呼び、テーブルマナーを指南するなど知性的な一面も見せている。さらに今年から始まった最新シリーズ『刃牙道』では"自分に憧れる少年からサインをねだられて困惑した"エピソードが語られ、地上最強の生物・勇次郎のマイルド化はまだまだ進行中のようだ。



『ドラゴンボール』のベジータも当初はかなりえげつないキャラクターだった。初登場は、攻め込んだ星の住人から腕をもいでバリバリ食べているシーン。数少ないサイヤ人の生き残りである同胞のナッパを殺したのも実はベジータだったことを、皆さんは憶えているだろうか? そんな彼に明らかな変化が生じたのは、息子・トランクスと接するようになってからだ。息子がやられた時は激昂して絶対勝ち目のない相手に立ち向かい、武闘会で活躍した時は「オレの息子のほうが血統がよかったらしい」とドヤ顔で悟空に自慢している。どこから見ても子煩悩なパパである(ちなみに無職)。終盤の魔人ブウ編でトランクスをやさしく抱きしめたシーンなどは、男でも惚れてしまうほど。編集部による連載引き伸ばしが限界に達した魔人ブウ編はファンから酷評されることもあるが、"父親としてのベジータ"はここで初めて完成を見せたといってもいいだろう。



 作品の長寿化に伴って丸くなっていった上記3人に限らず、近年はさまざまなマンガ・アニメ作品で"強くない、厳しくない"父親キャラクターの姿が見られる。パッとしない三十路サラリーマンでありながら時々やけにカッコいい『クレヨンしんちゃん』の野原ひろしは高いファン人気を誇るという。また、たとえば『魔法少女まどか☆マギカ』では主人公の父親が"専業主夫"としてその存在感をアピールした。強くはないけど、やさしく、いつでも"そこにいてくれる"安心感が現代の父親キャラクターに求められているのかもしれない。少なくとも我が子にトレーニング用のギプスを装着させたり、我が子のガンダムに怪しげな電子回路を組み込もうとするような父親は確実に求められていないはずだ。



 ちなみに筆者自身が理想とするのは、『親父』の沼田竜道、『ARMS』の高槻巌など"性根はやさしいけれど家族を守るためなら鬼神にもなれる"ような父親キャラクターだ。皆さんにとって"理想の父親像"となるキャラクターは誰だろうか? 父の日を前に、思いを巡らせてみるの一興だ。
(文/浜田六郎)



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  • 高槻父が挙がっていたのは評価するが、タフのおとん(宮沢静虎)がいないのはコレ如何に
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