乃木坂46のデビュー曲など提供 人気作曲家・黒須克彦が明かす「職業として曲を作ること」

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2014年06月19日 17:10  リアルサウンド

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作曲家でありながらベーシストとしても活躍する黒須克彦。

 TVアニメ『ドラえもん』の主題歌「夢をかなえてドラえもん」や、乃木坂46のデビュー曲「ぐるぐるカーテン」などの作曲を手がけた黒須克彦(くろす かつひこ)氏は、クリエイターとしてJPOPに携わる一方、ベーシストとして、中川翔子や平野綾、藍井エイルといったミュージシャンのライブ・レコーディングにも参加している。


(参考:モーニング娘。楽曲の進化史ーーメロディとリズムを自在に操る、つんく♂の作曲法を分析


 もともとバンドマンとしても活動していたという同氏は、どのような流れで作曲家という職業を選んだのか。そして、作曲家としての活動と並行してプレイヤーも務めるのはなぜか。


 コンペティションや作曲のペースといった現場レベルの話から、自身の作曲家としてのスタンス、さらには現在の日本の音楽シーンについて思うことまで、じっくりと語ってもらった。(リアルサウンド編集部)


・コンペ出すたびに通ってたら自分のことを過信しちゃう


――最近は音楽に限らず、映画の世界でも脚本家や演出家などの裏方的なクリエイターに注目が集まる傾向がある気がします。黒須さんも作曲家として注目を集めていると思いますが、今のような形で成功するというヴィジョンは以前から持っていましたか?


黒須:いまだに「これで食っていける!」とは思っていないですね(笑)。ただ、今思い返すと伏目というか、大きな仕事が沢山入ってきた年というのはありました。「夢をかなえてドラえもん」(TVアニメ「ドラえもん」主題歌)などが決まった2007年ですね。でも、だからといって「これで安泰だ」って思うことはなくて、仕事がもらえることに感謝しながら、少しでもいい形で返すということをずっと繰り返していたら、気付けば今年で10年経ったという感じです。基本的な心境というのは、始めた頃と変わりないんですよね。「夢をかなえてドラえもん」以降、劇的に仕事が増えたということもないし。もちろん、アニメや映画で自分の曲を流してもらって、それが浸透したのは有難いし嬉しいですよ。


――それでもコンスタントにコンペ(コンペティション。一定の条件等に基づいて公開、非公開で行われ審査される)に受かったり、曲の発注があったりはするわけですよね。


黒須:決まる曲と同じくらい決まらない曲もあります。確かにコンペというものはあるけど、それに勝ち抜くときもあればそれと同じくらい落ちているんです。案件の大小は関係なく…例えば、大きな案件が通った翌日に落ちた案件の連絡が来たり。だからといって落ち込むとかではなく、こんなもんか……と自分を冷静に見つめ直すきっかけになりますね。その感覚は“慣れ”とはまた違って、良いことだと思ってます。だって、コンペ出すたびに通ってたら自分のことを過信しちゃうかもしれないし。多いときは週2〜3曲作ったりしているんだけど、それが全部受かってたら今のバランスで仕事はできないですから。


――そんな頻繁に曲って浮かぶものですか?


黒須:0から作るわけじゃなく、お題がある場合が多いからイメージはしやすいです。もちろん「これに似せてくれ」っていう感じの発注ではないんですけど、参考曲となるものがある場合もあります。まぁ、時々は「とにかくいい曲を!」というような大雑把な依頼もあるけど(笑)。でも大抵は0からではなく1から作るから、たくさん作れるのかもしれませんね。それこそバンドとかシンガーソングライターとかになってくると、良くも悪くも好きなように作っていいわけじゃないですか? そうなると作曲のペースも全然変わってくると思うので…。そういった意味でも自分には作曲家という仕事が向いてるかな。


――自分が書きたいものではなく、発注を受けたものを書くことに対する抵抗感みたいなものは生まれてきませんか?


黒須:程度の差はあれ、自分がかっこいいと思うものを織り込むようにはしてるから、全くないんですよね。バンドサウンドの仕事が多いっていうことで自分の好みと一致はしているから、そこに関してストレスはなくて、むしろ好きなようにできているかな。自分の好きなサウンドとある程度の差があると思った仕事も、意外と自由に好きなことを盛り込んでやっていて、それの評判が良かったりもします。まぁ、リスナーに届いたときに、自分ではかっこいいと思った音が「うるさい」って批判されることもありますが、そこは仕方ないと思っています。歌うアーティストが大事だから「これはやりすぎかな」とか取捨選択はしているけど、その中でも自分が良いと思ったものを作って、それを出せているので。音楽に携わる上で、今のやり方、生き方を続けられるのが一番理想的ですね。


・結局のところ売れている曲は、基本になっている曲が良い


――黒須さんは乃木坂46や中川翔子、KAT-TUNといった人気アーティストの楽曲を手がけています。作曲をする際は、今のシーンの流行なども意識しながら制作しますか?


黒須:テレビなんかも観ない方だから、今なにが流行っているとかは正直全くわからなくて。たとえば街中で流れていたり、コンビニに入った時にたまたま流れていた曲を聴いて、単純に「良い曲だな〜」というくらいにしか思わないかも。このアレンジがいいから参考にしよう、といったことはあまり考えず、どちらかというとメロディーで良し悪しを判断します。作曲家目線ではなくリスナー目線で聴く感じですね。今のJ-POPは、アイドルポップスやバンドサウンド、ダンスミュージックなど、いろいろとジャンル分けはできると思うんですけど、それは聴く側や売り方の違いなだけで、結局のところ売れている曲は、基本になっている曲が良いんだろうなって思います。それに、あまり分析しちゃうと似たものだけができちゃう気がするんですよ。たとえば中田ヤスタカ君くらいブランド力を持ったサウンドを参考にすると、誰が何をやってもヤスタカ君の二番煎じに聴こえる可能性がありますよね。曲を受注する時に参考曲がある場合もありますが、それは基本的に一回しか聴かない。なんとなくインプットしておいて、あとは僕が好きなように作って出す感じです。


――全体的にバンドサウンドが多いのも、好みを反映している部分が大きい?


黒須:好きだというのもあるけど、仕事としても受けることも多いかな。バンドサウンドって、波はあるかもしれないけど常に求められてはいますからね。たとえばAKB48の『ヘビーローテーション』とかも、言うなればバンドサウンドだったりするし。


――BABYMETALなんかも、括りとしてはアイドルだけど、バックでは実際にミュージシャンが激しいバンドサウンドを奏でていますね。


黒須:今のアイドルと言われている人たちはいろんな音楽をやっていますね。一概に「アイドルが流行っている」という言葉だけじゃ表現できない深さがあります。偉そうなことは言えないけど、その流れは見ていて面白い。


――音楽業界は一昔前に比べると売上が落ちていますが、音楽カルチャー自体は進化を続けているように感じます。


黒須:音楽自体がなくなることはないから、進化も続いていくんじゃないかな。実際、リハスタは賑わっているように思うし、新しいライブハウスもどんどんできている。街を歩けばギターを背負っている高校生くらいの若者を見かける。つまり文化は全く衰えていないと思うわけです。ただ、それが実際の数字に結びつかないだけで……。そこは我々が簡単にどうこうできることではないのかもしれません。


――黒須さんは作曲家として活躍する一方、藍井エイルのライブツアーなどで、サポートのベーシストとしても活躍していますが、ご自身がアーティストになろうとは思わないですか?


黒須:二十歳そこそこの頃は、自分のバンドをやっていた時期もあります。ただ、そのバンドをやりながらも他のアーティストのサポートをしたり、曲を提供するといったことも並行していくようになって。そのうちに「ひとつのバンドで突き進むぞ」というより、様々な人にいろいろな曲を書いて、様々な人のバックで演奏するという活動スタンスのほうが自分に向いていると思い始めたんです。それが24〜25歳くらいの頃で、基本的にそのスタンスのまま今に至っています。自分の場合、曲も書きつつ、ベースも弾いてないとダメなんですよね。レコーディングでもライブでもいいけど、プレイヤーとしても在りたいというのは常にあって、そのバランスを取りながら作曲へのモチベーションも保っている気がしますね。(佐藤優香)



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