消費者が裁判で勝つために必要なのは「事業者の手元にある証拠」(司法シンポ報告3)

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2014年07月07日 19:11  弁護士ドットコム

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日弁連などが開いたシンポジウム「いま司法は国民の期待にこたえているか」(6月20日)には、大学教授や経営者、政治家など各界の論者が登壇して、それぞれが考える「民事司法の課題」を語った。


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全国消費者団体連絡会の河野康子事務局長は、消費者が裁判に踏み切れない理由を列挙。そのうえで、「事業者が持っている証拠」を、消費者側が利用しやすくすることが、司法を身近にする第一歩だと訴えた。



●「裁判沙汰にはしたくない」風土がある


国民全員、一人ひとりが消費者です。その一人ひとりが生活を営むために、日々おびただしい数の契約が結ばれています。契約が多ければ、それだけトラブルも起きます。それを解決するための手段の一つが裁判です。このように、消費者に関係する事案は、決して副次的なものではなく、広く国民が抱えている課題だということを最初に申し上げたいと思います。



6月17日に消費者庁が公表した『消費者白書』によると、消費者被害にともなう経済損失額は、約6兆円で、日本のGDPの1.2%といわれています。特に、高齢者に被害が集中しており、対策は待ったなしの状態です。



ところが実は、消費者被害を誰にも相談していない人が、全体の3割もいます。さらに、消費生活センター窓口などに相談した人は2%。弁護士に相談した人はさらに少数で、1%にとどまっています。



私たち日本人は、「察する」とか「根回し」ですとか、論理的な言葉以外でのコミュニケーションをよしとする国民性があり、争いごとに巻き込まれることを嫌う風土で育っております。「裁判沙汰」という言葉にも表れているとおり、裁判に対して、ポジティブな印象はありません。



消費者が司法に頼れない理由の一つは、「自分たちが被害にあったことを、自覚していない、わからない」ということがあります。家庭や学校教育で、契約・消費者の権利などについて、具体的に学んだ経験がほとんどないことも、理由の一つでしょう。



消費者も最近は「クレーム」を言うことが多くなってきましたが、具体的に解決につなげていくための相談先は、すぐには思いつきません。主な相談先として、家族や知人が一番多く、事業者や販売店にも連絡を取っていますが、被害回復が図られたとか、謝罪があったというのは、そのうちのほんのわずかです。



司法の専門職として、弁護士さんが存在していることは、消費者も知っています。ただ、普通の消費者にとって、裁判・法的手段は、身近ではありません。病気のときは、お医者さんを受診します。けれども、契約で困っても、すぐに弁護士さんが頭に浮かぶ、弁護士さんに頼む、ということに、今はなっていません。



この司法への理解とアクセシビリティは、大きな課題だと思っています。



●「証拠」の多くは事業者が持っている


裁判に訴えようとする消費者にとって一番肝心なことは、「自分受けた損害が、取り戻せるのか」ということですが、その確証を持てません。



消費者は、情報の質と量において、さらには交渉力においても、非常に大きなハンディを背負っています。自分が「消費者トラブルに巻き込まれるかもしれない」と思って、日頃から用意周到に、証拠となる文書を手元に整理している人は、ほとんどいません。トラブルに巻き込まれて初めて、いろいろ思い出し、あちこち探してみることになります。



日本の裁判では、訴えた側がすべて証明しなさい、と言われます。そのためには客観的な証拠が必要です。しかし、証拠となるもののほとんどは、事業者側にあります。そうした書類は簡単に法廷の場に出てきません。結局、訴えた側の証明が不十分だということで、裁判では負けてしまいます。



書類や資料などの客観的証拠が、事業者側から提出されないために、何度も何度も「消費者側敗訴」の山が築かれてきました。



手元に証拠となる書類がなく、記憶などにたよって、被害を訴えざるをえない、消費者被害の実情を考えますと、まずは事業者の手元にある証拠を、なかば強制的に取り出せるようにすることが、消費者が司法を信頼するに至る一つの重要な道筋だと思っています。


(弁護士ドットコム トピックス)



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