「スーパーマン」になることを期待されている? 日本の教員が「働きすぎ」になる理由

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2014年07月09日 12:41  弁護士ドットコム

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日本の教員はよく働くのに、自己評価は低い。こんな調査結果が出たことが話題を呼んでいる。経済協力開発機構(OECD)が6月下旬に発表した、中学校教諭の勤務状況に関する調査結果によると、調査対象の34カ国・地域のうち、1週間の勤務時間は日本が最も長く、53.9時間だった。各国の平均勤務時間は38.3時間ということだから、日本はその1.4倍にあたる。


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授業の時間は17.7時間。全体平均の19.3時間より短かったものの、部活動などの課外活動が7.7時間で平均2.1時間の3倍以上だった。また、事務作業の時間は5.5時間だったが、平均2.9時間の約2倍で、「授業以外」のことに時間をとられている実態が明らかになった。



また、自らの指導力に対する自己評価は他国よりも低い。「学級内の秩序を乱す行動を抑えられるか」の質問に対し、「非常によくできている」「かなりできている」の回答は計52.7%で、平均の87.0%よりも30ポイント以上低かった。



この調査結果をどう読み解けばいいのだろうか。また、「先生の働きすぎ」を改善するために、何が必要なのだろうか。教育問題にくわしい小池拓也弁護士に聞いた。



●教員に対する高い期待、自己評価の厳しさにつながる


小池弁護士は、長時間勤務の背景について解説する。



「勤務時間が長くなっているのは、日本の中学校教員が授業以外にも部活動や対外的な報告など多くの役割を期待され、これに応えようとしている姿の表れだと考えることができます。



アメリカの映画では大統領がスーパーマンであることを期待されたりしていますが、日本のドラマでは教員がスーパーマンであることを期待されているようにもみえます」



まるで「スーパーマン」のように様々な役割に応えた結果、長時間勤務になっているということのようだ。



「OECDの調査結果では『生徒が授業を妨害するため、多くの時間が失われてしまう』と答えた日本の教員の割合は9.3%(各国平均29.5%)で、34カ国・地域の中で最も少ないにもかかわらず、『学級内の秩序を乱す行動を抑えられるか』の質問に対する自己評価は低くなっています。教員に対する期待の高さが教員の自己評価の厳しさに反映されたものと見ることができます」



●「性善説」よりも「性悪説」が強くなっている


現在の教育政策の結果、「先生の働きすぎ」が生まれている面もあるのではないだろうか。



「はい、教育政策の影響も無視できません。よい教育を目指すためには、2つのアプローチがあります。



1つは、「性善説」的アプローチです。よい条件を整えれば教員はしっかりやってくれるという考え方です。具体的には、教員の待遇改善、少人数学級、自由なカリキュラムなどが挙げられます。



もう1つが、「性悪説」的アプローチです。こちらは、しっかりやらせるには教員を統制しなければならないという考え方です。具体的には、競争原理の導入、全国的な学力調査、報告連絡の徹底、首長の権限強化、第三者による評価などがあります」



どちらが重視されているのだろうか。



「近年は『性善説』よりも『性悪説』の色彩が強まっていると思います。そうなると、子どもと接する以外の仕事が増えますし、教員は他者の目を気にするようになり、自己評価も低くなっていくでしょう」



●「ブラック企業並み」の労働環境を改善するには?


では、働き過ぎを改善するためにはどうすればいいのだろうか。



「担任を受け持っていて、部活動の正顧問であれば、時間外労働月80時間のいわゆる『過労死ライン』を軽く突破する人も多いのではないでしょうか。



教員については残業代の代わりに教職調整額が支払われているのですが、その金額は実態に全く見合わず、ブラック企業並みです。



当面は、教員の事務作業や会議の負担を軽減すること、部活動の社会教育化を検討すること、さらに、少なくとも人材確保法第3条で定められた『義務教育諸学校の教育職員の給与については、一般の公務員の給与水準に比較して必要な優遇措置が講じられなければならない』という法の趣旨に反している状況を改めなければなりません」



働きすぎを改めなければ、子どもと本気で向き合うことも難しくなる。小池弁護士はいじめ問題を例に挙げて、警鐘を鳴らす。



「すべての学校にいじめ防止の組織を作ることを定めた『いじめ防止対策推進法』に基づく取り組みが始まっています。



しかし、単に報告と会議を増やしただけにならないようにするためには、もっと教員が子どもと向き合う時間を確保することが大事なのです」



労働環境の問題は、教育の質にもかかわってくるだけに、今後、本格的な対策が求められそうだ。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
小池 拓也(こいけ・たくや)弁護士
民事家事刑事一般を扱うが、他の弁護士との比較では労働事件、交通事故が多い。横浜弁護士会子どもの権利委員会学校問題部会に所属し、いじめ等で学校との交渉も行う。
事務所名:湘南合同法律事務所
事務所URL:http://shonan-godo.net/index.html



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  • 誰の身体にも悪い部活動をすべて廃止すればいい。子供のスポーツは地域のスポーツクラブで行う。解決ですな。
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