「ろくでなし子」逮捕、表現の自由は何処へ

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2014年07月28日 13:10  JIJICO

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わいせつ電磁的記録頒布の罪で、創作活動をしている女性が逮捕


今年の3月までに、自分の女性器の形を復元できる3Dプリンタ用のデータを32人にダウンロードさせたことが、わいせつ電磁的記録頒布の罪にあたるとして、「ろくでなし子」のペンネームで創作活動をしている女性が7月12日頃に逮捕されました。続く勾留については、弁護人からの異議申立(準抗告)が認められて釈放されたとのことです。


ろくでなし子氏は、3Dプリンタを使って女性器をかたどったボートを製作するための資金集めに協力してくれた人へのお返しの一つとして、データの提供をしたそうです。


普通の人が樹脂製の模型で性的に興奮するといえるのか


平成23年の刑法改正で、わいせつな電磁的記録を頒布(不特定多数に交付・譲渡)する行為は、わいせつ物頒布等の罪(刑法175条2年以下の懲役、250万円以下の罰金、科料)の対象となっています。この「わいせつ」とは、「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義概念に反する」ものをいいます。わいせつ物頒布等罪は、芸術や文学、科学等に関する「表現の自由」を侵害しかねない規定ですので、このように「わいせつ」性が限定的に解釈されています。


わいせつな電磁的記録の場合は、コンピューターで出力して文書や画像など目に見える状態になったものが「わいせつ」かどうか問題になります。担当の警視庁保安課や逮捕状・勾留状を発付した裁判官は、3Dプリンタで出力された結果の樹脂製の女性器の模型で、性欲を興奮・刺激されると思ったのでしょう。警察の担当者等の性的嗜好は知りませんが、普通の人が樹脂製の模型で性的に興奮するといえるのか疑問です。なお、50年以上前に自慰・前戯用の模造性器がわいせつ物とされた事案(最高裁、昭和34年10月29日決定)がありますが、現在の社会通念から同様に判断されるとも思えません。


今回、証拠隠滅や逃亡も考えられない状況と言われている、ろくでなし子氏をわざわざ逮捕したのは、改正されたばかりの条文を適用したいとか、新技術の3Dプリンタに関するものを立件したいという警察の陰湿な欲望によるものではないかとも思えてしまいます。


表現者と受け手である国民の両方の「表現の自由」を軽んじた


「わいせつ」かどうかと、芸術性があるかどうかは別の問題と考えられているので、芸術作品といえる物でも「わいせつ」物にあたることもありえます。ただ、表現物の芸術性・思想性によって性的刺激が緩和され、わいせつ性を有さないと評価されることはあります。関税法の事案ですが、男性性器を直接的・具体的に写した写真を含む写真集について全体的に考察して「わいせつ」性が否定されています(最高裁、平成20年2月19日判決)。


本件で起訴されるかどうかは今のところ未定のようです。起訴するかどうかの検察官の判断、起訴されたとしても有罪かどうかの裁判官の判断において、芸術性・思想性を考慮して「わいせつ」物に該当するかどうかが慎重に判断されなければなりません。


わいせつ物の該当性について慎重な判断が求められる今回の件で、警察がことさらに逮捕や捜索・差押といった強制捜査に及んだことは、表現者と受け手である国民の両方の表現の自由を軽んじたものと言うべきです。そのような捜査を許してしまった基となった、わいせつ物頒布等罪の条文については、表現の自由を不当に侵害させないために、公然陳列の場合に限るとか、より限定する文言にする等の改正をすべきでしょう。さらには、わいせつ物頒布等罪の存在意義についても改めて検討されるべきといえます。



(林 朋寛・弁護士)

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